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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
108/605

連絡

寮の部屋をノックする音が聞こえた。

ドアを開けるとそこにいたのは、ジャックの側務めだった。今は女性に見える。

「ジャック様から、こちらを預かってまいりました」

手紙と鍵を渡される。

「こちらの鍵は隣の部屋の鍵でございます。ミランダ様にお渡し下さい。こちらはリオ様宛でございます。」

「ありがとうございます」

「それでは失礼致します」

側務めは一礼すると去っていった。

「ミランダ、隣の部屋の鍵だそうです。手紙は、誰からだろう」

私の書いた報告書を読んでいるミランダのところに戻りながら手紙を開く。

「明後日、迎えがくるそうです。し明後日に帰領予定ですか。千加に連絡入れとかなきゃ」

「私は一度隣の部屋を確認してきます。」

「はい。鍵です」

「ありがとうございます。少し失礼致します」

ミランダが部屋を出ると、私は手鏡を取り出し

『千加』

と声をかけた。椅子に腰掛け、鏡を見る。すぐに

『はーい。』

自室でうどんを食べてる千加が手を振る。

『早いな。まぁ丁度良かった。色々報告したいことがあるので、母さん達と連絡をとって欲しいです。』

『オッケー。予定はどんな感じ?』

これからの予定を伝えると、千加は机の上をガサゴソし出した。手近にあったノートに書き込んでいる。それからカタカタとキーボードを叩く音がする。

『取り敢えず要さんには、メールした。しばらくは毎日連絡入れて。調整しよう。』

『分かった。』

『私は、早いけど春になったらそっちに行くわ。神様の依代も出来たっていってたし。フレッド様にはそう伝えて』

ずずずっとうどんをすする音に、懐かしさを感じる。

しかも食べるのをやめない辺りがいつも通りで安心する。

『なんか、大変なことになってるっぽいな。』

『大変なことになってる。異世界怖い』

『えーっと魔獣、群れ、兎に女と野菜?なんだこの組み合わせ。まぁ元気そうで良かった。けど、理央。外見が理央に近づいてきたね』

『……やっぱり、そう思う?』

『うん。ベースはクラリスなんだろうけど、目つきとか胸の大きさとか。』

例としてあげるのがその二つというのはどうかと思ったが何も言わない。千加は何故か私の目つきと胸が好きらしい。

あまり嬉しくない。

『悪くはないから安心して』

私がそうなら、クラリスもそうなんだろう。

『クラリスも、違ってきてる?』

『うん、痩せた。胸は持て余してる。』

『胸の話はもういいから』

『クラリスは要さんがキッチリ躾けてる。少し変わったかも、あと理央は本当に人間が疑ってた』

?意味がわからない?

『記憶が三歳頃まで遡れるらしくて、驚いてた。自分は六歳位からしか覚えてないし曖昧なのにって』

『あー、それは。身体の記憶と精神の記憶で種類が違うみたい。身体の記憶は本や動画みたいな感じで、精神の記憶は自分の普通の記憶。私だってそんな前の記憶は覚えてないよ。』

『へぇ、面白いね。』

『私の記憶は三歳まで遡れるのか。クラリスは六歳位までかな。五歳以前の記憶は殆ど断片的でわからないや』

その後も千加とお喋りしていると、ミランダが戻ってきた。

「こんにちは、ミランダさん」

「チカ様。お久しぶりです」

「ミランダさん話があるんですけど良いですか?」

「はい。」

手鏡を渡す。

ミランダが防音の魔力壁を張った。

それを破る真似はしない。確実にばれて怒られるから。ミランダ相手に成功したためしがない。

大人しく待つ。

「リオ様、ありがとうございます」

話が終わったようだ。手鏡を受け取ると

『じゃあまた明日』

とさっさと通信を切る。素っ気ない。

うどんを食べてる時に繋いだのがいけなかったのか。

ミランダはまた報告書の確認に戻り、私はミランダから指摘のあった点の改善のため裁縫箱を取り出した。

夜まで各々で過ごし、夕食は寮の食堂でとる。そして、就寝準備をして別れた。


翌日。

召喚課に出勤すると顔色の良くなったオスカーが出迎えてくれた。

「オスカー先輩。具合はどうですか?」

「一日中寝てたから、もう大丈夫だよ」

「ニコル先輩は」

「調査に出かけたから、しばらくは戻らないかも。でも、話は聞いているからクリスには僕から説明するよ。リオさんは、通常通り資料の読み込みをしてて」

「分かりました」

いつも通り資料室に机を持ち込み、準備を始める。オスカーがミランダに資料室使用の注意点を説明していた。

「おはようございます」

ジュリエットも出勤してきた。

挨拶をすると、ジュリエットが小声でミランダとの関係を聞いてきた。

「どうしたんですか、急に。ジュリエットさんはミランダの知り合いでした?」

「いえ、学園にいた時にある方の侍女として働いていた彼女を知っているだけですわ」

ああ、やっぱり。

「この春から侍女としてつく予定です」

「グラッド様と婚約するんですってね。グラッド様がおっしゃってましたわ。……そういえば、リオさんが目覚める前レイカさんとグラッド様がリオさんをとりあってましたのよ」

初耳の事実に

「なんか、すみません。」

つい謝ってしまう。

「グラッド様の印象が変わりましたわ」

「因みにどう変わりましたか?」

「以前は同じ年とは思えないほど大人びている方、貴族女性の理想を集めたような憧れの高嶺の花だと思っておりました。ですが、あの時は年相応の表情をされていて、とても身近に感じました。」

ところでどこで知り合いましたの?と興味津々で尋ねる。

「ジャック様を通じて」

そう言うと

「あぁ、そうでしたか。」

ジュリエットは納得した。

「ところでグラッド様はリオ様をどうレイカさんと取り合っていたのでしょうか?」

私の後ろからミランダが話に加わる。

ジュリエットの肩が驚きで跳ねた。

「ミランダ、急に話しかけないで下さい。」

「失礼致しました。ジュリエット様と親交を深めようと気持ちがはやってしまいました。」

「いえ、宜しくてよ。……それでグラッド様とレイカさんなのですが」

寝てる私を召喚課の部屋へ連れてきたグラッドに、レイカがリオを預かると声をかけた。それを、グラッドが、婚約者である私がみていますと断った。

それがレイカの癇に障ったらしい。殿方よりも同性の友人である私が引き受けますわと普段使わないような口調で張り合った。

「怖かったですわ。わたくしはレイカさんを引き離して落ち着くように宥めたのですけど、大変でしたわ」

「まさか、そんなことになっていたとは」

「なんて面白いことに。んん、ジュリエット様教えていただきありがとうございます」

ミランダの本音がダダ漏れだった。

ジュリエットと別れ、資料室にこもる。

「凄い量ですね。」

「ミランダも資料を読みますか?壁側は召喚者に関する資料で、それ以外は転移者資料です。私は転移者資料から読んでいます。」

「そうですか。では、警護に差し障りのない程度に自由に行動します。」

久しぶりに集中して資料を読む。

「リオ様、時間です」

「……へ?」

早い。え、もう?

「は、い。かたづけます」

「オスカーが呼んでます。学習の時間だと」

「久しぶりに集中したので、クラクラします」

資料を棚に片付け、机を部屋に戻す。

「リオさん、クリスの勉強をお願いします。」

「はい。クリス宜しくお願いします」

「はーい。」

図鑑を持ち、奥の部屋で動物についての復習をする。

クリスは動物が好きなようできっちり読み込んで、覚えていた。

「凄いですね。では今日は新しい図鑑です」

水辺の生き物の図鑑を取り出す。オスカーセレクトだ。

「にょろにょろ、かわいい」

蛇も蛙も大丈夫そうだ。


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