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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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スーパー侍女ミランダ5

その後クリスは抱っこをせがむ事もなく、いつも通りに過ごしていた。ニコルと図鑑を読んでいる。

「オスカー先輩、凄いです。」

しょんぼりと肩を落としてお茶を飲む。

「リオでも無理だったか」

「リオ様、気を落とさずに」

レイカは昨日上手くクリスの気持ちを吐き出させることが出来なかったようで、私が出来るか見たかったそうだ。

アランはクリスからお絵描き帳を貸してもらい、昨日の事を描いて破いている。

「なんだろ、胸の辺りがすっとする。」

効果を実感していた。

「心理療法かしら」

「心理学は勉強したことないです」

「私もよ。でも必要ね。後で資料がないか確認しておくわ」

「お願いします」

レイカは、アランにやり方を教わりに行く。

ニコルは術式管理地図の前でクリスと図鑑を読んでいる。

いつ切り出すのだろう。いや、焦っちゃだめだ。ちょっと自分本位な考え方になってる。落ち着け。

「リオ様、いつもはどのようにお過ごしになられているのですか?」

「えっと、朝は隣の資料室で資料の読み込みをして、お昼前から言語学習、昼食を挟んで文化や習慣の学習のお手伝いと彼等の故郷にまつわる情報収集をしたりまとめたりして過ごします。今日は」

「ニコル次第です、か」

「あの、ミランダ暇ですか?何か資料を読みます?」

「いえ単純な疑問です。お気になさらずに」

ミランダは部屋のあちこちに目を向けている。

何か気になることがあるのだろうか?

「どうかしましたか?」

「いえ。資料がたくさんあるのだと感心しておりました」

「ニコル先輩の趣味だそうです」

なるほどと興味深そうに棚に近づくミランダに

「ミランダさん、ちょっといいだろうか?」

アランが声をかけた。ちょっと距離があるから会話はあまり聞こえない。

「はい。何でしょうか?」

「昨日魔獣と戦ったと聞いた。恐ろしくはないのか?」

「昨日の段階では特に何も。」

「そうか」

「新人の頃は、恐ろしかったですがすぐに慣れました。」

「慣れた」

「毎日討伐依頼をこなしました。私の場合を参考にするのはやめたほうがいいと思います」

「すまない。ありがとう」

「いえ、代わりにシノノメの話をしましょうか」

「いいのか?」

「リオ様がアランさんを心配しておいででしたから」

ミランダの言葉にアランが照れた。

シノノメ領の資料をテーブルに広げながら、ミランダから話を聞く。気候や風土だけでなく、他領の人間からみたシノノメの姿。

色んな人間がいるが、自分が正しいと思っている人間が多いのは欠点ですねとミランダがしみじみ言う。

ヒジリやオスカーはそんなことを言ってなかったから、衝撃的だったようでアランは食い気味に相談していた。

「アランさんは先生志望ですか。いいと思います、シノノメの人達は未知が大好きですから。ですが、永住はやめたほうがいいです。」

「どうして」

「知識を吸い尽くしたら、見向きもされなくなるので。対策としては、常に切り札を持つことです。知識を小出しにすること、ですかね」

「なるほど」

「翻訳の仕事とかが回ってくることも考えられます。その時は真っ先に誤字脱字を指摘するといいです。あの人達間違いをそのままにしておけないので、関連資料を全部確認してくれとか言い出しますから。その時に新たな知識を得て、彼等の研究に意見できるようになれば移住してもやっていけます」

やけに実感のこもった話だと思ったら、体験談だった。

サイスの事が書かれた資料に間違いがあって指摘したら、他のも確認してくれと資料をうず高く積まれたと、思い出しても憂鬱になりますと言ったミランダが面白かった。

シノノメのギルド依頼が知識提供や情報収集が主流で、戦闘派はやり甲斐を感じなかったそうだ。

「アラン、クリスをお願い。僕が昼食を取ってくるよ」

図鑑を読んでいたニコルがクリスを連れてくる。

そろそろお昼だ。

「ニコル、大丈夫だ。俺が行く。」

アランが席を立ち、準備を始める。

「私が一緒に行くわ」

「私も行きましょうか?」

「気持ちはありがたいが、大丈夫だから。一人でいける」

アランは断ると一人で出て行った。

「気配消してついて行こうかな」

心配でつい口にした言葉をミランダに聞かれてしまった。

「リオ様、落ち着いてください。」

「ミランダさんもっと言って。」

「もっと気づかれない方法を取ってください」

嗜められるかと思ったら、方法を改めるよう言われた。

「駄目だ。同類だった」

ニコルとレイカは肩を落とす。クリスはミランダを見上げて笑う。

「ミランダはリオのお姉さんみたい」

「そうでしょうか?ありがとうございます」

「ミランダは色んなとこ行ったことある?」

「はい」

「あのね。ドーンって大きい音がして。グラグラって揺れたの。でもみんな驚いてなくて、女の人が僕のこの辺りからキラキラをぐわぁって取ったの。その人笑ってたの。なんだか怖い人で、でも倒れちゃって。怖かった。夢なのかな、わかんないの。ミランダわかる?」

ミランダは屈むとクリスをじっとみる。

この辺りと胸を押さえているクリスの手を取る。

「ドーンという音は昨日の爆発のような音でしたか?」

「うんと、もっと大きかった。お腹からドーンってくる感じ」

「グラグラももっと大きかったですか?」

「うん。あと長い気がするよ」

「キラキラは何色ですか?」

「黄色がいっぱいと紫?ヒーみたいな色と緑、赤もあった。」

「怖い女の人はどんな顔、洋服をきてたかわかりますか?絵に描けますか?」

「うん、待ってて」

お絵描き帳を持ってきたクリスが「怖い女の人」を描く。

赤い髪に白い服。それを見たミランダが、クリスの絵の横に服の形状がわかるような絵を描く。

「うん、それ!その洋服」

ニコルがその絵を覗き顔色を変えた。

「クリスさんが見たのは、夢ではないと私は思います。多分凄く怖いことだったから、忘れてしまっただけ。」

「怖いのは忘れるの?」

「はい。自分のことを守るために怖い記憶を忘れるんです。それは悪いことではありませんし、必要なことです。でも、クリスさんは思い出してしまいました。どうしたいですか?もう一度忘れたい?それともそのままでいいですか?」

「怖いの、やーなの。でも忘れるのもダメなの」

「そうですか。では、怖くなくなる魔法を使いましょう」

「魔法?どんなの?」

「目を瞑って、私がいいというまで開けないでくださいね」

「うん!」

目を瞑ってワクワクしているクリスにミランダが闇属性魔法を使った。以前に私がレイカに使った魔法のようだった。

「目を開けていいですよ」

「わぁ!すごいね!キラキラ」

でも反応が大分違う。楽しんでいる。

魔法を解除したミランダにクリスが楽しそうに

「キラキラが綺麗だった」

と感想を伝える。

私が使った魔法とは違うのだろうか?

「クリスさん、これは怖い気持ちを食べちゃう魔法です。怖くなったらいつでも言って下さい。」

「うん!」

クリスはレイカに魔法の中がどうだったのか、興奮しながら教えている。

その様子を横目にミランダはニコルに耳打ちする。

「わかった。調べておく」

ニコルは苦い顔をしている。

「レイカ、昼食の後は任せていいか?僕は少し用事があって出かける。何かあればオスカー先輩か局長に連絡して」

「わかったわ。任せて」

「リオさん、ミランダさんは昼食を食べたら帰っていい。部屋にいてもいいけど、」

あの件は黙っててと小声で釘をさす。

「ニコル先輩」

「わかりました、ニコル。お気をつけて」

ニコルは部屋を出て行った。

しばらくして戻ってきたアランの顔色はいつも通りだった。魔力人形で追っかけていたから一応大丈夫だとわかっていたが安心する。

昼食後、ミランダと話し合って寮に戻ることにした。

冬の間にあったことを共有することを優先する。それに朝から魔力を使いすぎだと言われた。

「今日は申し訳ありませんが、先に失礼します」

じゃあねとレイカが手を振る横からクリスが駆け寄る。少し元気がない。

「リオごめんね」

「?なぜ謝るのですか?」

「ぼくがぐずったから帰るんでしょ?」

「?違いますよ。朝から魔法を使ったので疲れちゃっただけですよ?」

「そうなの?明日はくる?」

「はい。じゃあまた明日」

微笑んで手を振ると元気よく振り返す。

寮に戻る途中、ユニシアと上司の男性に会った。

無作法を謝罪され別れたが彼女の表情からは納得してはいないことが分かって憂鬱な気持ちになる。

「実力差を見極められないと実戦ではすぐ死にます。まぁ、彼女が持っている剣は面白そうな代物でした。グラッド様に見てほしいくらいのいい品です」

グラッドは金属や鉱石の種類も識別できるようで趣味らしい。

「グラッドの趣味か。鉱石の変化を観察するのも趣味でしたね。鉱物が好きなんだ」

「闇属性持ちではありませんが実験とかが好きですから、結構勘違いさせていると思います。その辺りも分かっているのが金属性らしさですね」

「なんです?その属性性格占いみたいなの。」

「大奥様が生前よく貴女はこういう傾向に陥りがちだからと使用人含めた屋敷の一人一人全員と話されてました。」

「ミランダはなんて言われたんですか?」

「自由に生きたらいいと。縛られて生きてはいけないからその時はちゃんと抗えと言われました。それが風属性持ちにはできるから、と」

「へぇ、面白いですね。クラリス様はなんて言われたんだろう?……?あれ?無い」

「五歳位の時だと思いますが」

「だからですかね。五歳位の記憶が断片的で検索できないんです。六歳からははっきりしてるんですけど」

以前よりは記憶の検索ができるようになっているけど、五歳が限度だ。

「そうでしたか。だから、クラリス様は」

ミランダの表情が暗くなる。

どうしましたか?と尋ねても何でもないと言われるとそれ以上聞けなくなった。


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