スーパー侍女ミランダ3
「ミランダさんの言う通りボス特性魔獣の特徴の一つとして考える研究員が多いかもしれません」
それならその方がいいと言うニコルの言葉に
「そういうものなのか。なるほど」
ジャックが頷く。
認識に少し差があった。
ジャックも私同様すぐに霊素の可能性を思い浮かべた人間だ。でも加護障害から意識が逸れるならその方がいい。
「ボス特性を持つ魔獣は捕獲が難しいんでしたよね。魔素循環器を欠損させたら数日後には他の魔獣と同じになると本で読みました」
「そう、しかも平時の発見自体が珍しい。魔障発生時期に研究なんて呑気な事、捕獲に伴う危険を考えると出来ない。次のボス特性魔獣を研究できる状態で捕獲するまでこの個体がボス特性の基準になるだろうな。」
「おぉぅ。すみません」
私が謝ると
「本当のところ正解を私達も知りません。リオ様は気にしすぎでございます。不運は関係ないかもしれないのですから」
ミランダが色々な可能性を指折りあげる。
霊素がボス特性魔獣を生んでいる。ボス特性魔獣は他の魔獣と体内魔素量が違う。元々あの個体がボス特性魔獣に変化する予定だった。
「不運を利用しつくすくらいの強かさがあればいいのでしょうけど」
怖いこと言い出した。
「ミランダさん、それし出したらリオさんじゃないから!」
ニコルが慌てて止めに入る。
はっと自身の発言の不味さに気づいたミランダがすぐに謝罪する。
「失礼致しました。リオ様、申し訳ございません。失言でした。」
「ミランダ嬢が不運を持ってたら、利用しつくすってことかい?」
ジャックが興味深そうに尋ねる。
「いえ、そうではなく。魔獣の事を考えていたら意識の切り替えが出来ていませんでした。魔獣や戦闘関連の判断基準がミゲルなのでミゲルならと。申し訳ございません」
セシル曰く横暴が服を着て歩いてるミゲル。彼なら不運を利用しつくす可能性がある?
「え、ミゲルさん怖っ」
内容が衝撃的だったからか、私の心境の変化か、悲しさより恐怖が先に立つ。
それから話は緑子様の野菜をどうするかへと移っていった。ジャックがテーブルに野菜の入った袋を出す。
「食べるんじゃ駄目なんですか?」
「いや、駄目じゃない。駄目じゃないが」
「研究したいんですよ、局長は。流石に危険でしょ。処分する方がいいと思います」
「食べてみたいですが、野菜ですから。処分でいいんじゃないでしょうか」
処分するが多数派。緑子様の野菜、かぁ。
「ニコル先輩、クリスはこれ食べたら危険ですか?それとも逆にいいんですかね。魔素含有量が三倍以上って」
「対抗免疫不全にどう作用するか」
「リオ様、以前の魔素を見る魔法を霊素を見る魔法に変えて確認するのはどうでしょう?」
「そっか。魔素が見れたなら霊素もいけるかも。やってみます」
魔素サングラスを霊素サングラスに。霊素の情報が増えたから出来るかも。
集中して想像する。全然感覚が掴めない。魔力が足りない。もしかして霊素をみるなら、守り石を外した方がいい?
属性特化魔法を定期的に使ってる。グラッドにアクセサリーを持っててと渡した。
色々理由を探し、自分に大丈夫だと言い聞かせる。
アクセサリーを手早く外し、テーブルに置く。
千加の言ったオーラが私から溢れる霊素を表した言葉なら私の周りにある。守り石も反応するだろう。
「確認できました。」
かなり魔力を消費するけどなんとか維持できる。守り石のアクセサリーに手が触れると、消費魔力が増えた。逡巡したが、手を引っ込める。
「野菜に霊素を確認しました。が、私の周りにある霊素より少ないです。でも、強めに色がついてます。土属性って黄色でしたよね?」
「魔素と両立は可能?」
「魔力が足りないです」
「魔素に切り替えてみて」
「はい、……魔素量が若干多い印象です」
ここで魔力が足りなくて、解除する。
「疲れました。」
「流石リオ様ですね。」
ミランダにアクセサリーを手渡される。着けながら、霊素研究が進まない理由が魔力消費量が半端ないからだと結論づけた。魔素を認識する時とは桁違いに消費する。
「これ、研究できるのって高位貴族だけですよ。術式組んで消費抑えても大変だと思います。」
一応、魔法発動時に想像したことを伝える。
ジャックが魔素をみるのと似たような原理かと呟く。
ニコルとミランダはどうしても魔力が足りないと最初から割り切っていたようだ。
「霊素、魔素、精霊の目視などの魔法は膨大な魔力消費を伴うし、目に見えない物を見るという感覚に馴染めないと研究しづらい。この辺の技術は各領で差がでる分野だ」
「魔素量が多いなら、クリスが食べても大丈夫かな。」
ニコルが真剣な様子で考えている。
「様子を見ながら与えればいいんじゃないか?加護膜が未熟とはいえ成長しないわけではない。」
ジャックの言葉に
「三日以内の魔素摂取を逃しても転移者の加護膜って成長するんですか?」
疑問が浮かぶ。
転移者の生存条件である加護膜は、三日以内にある一定量の魔素摂取で獲得できる。それを逃すと生存が難しい。霊素の影響を受けて衰弱して最終的には死んでしまう。加護膜が成長する期間が三日間だと考えていた。
ニコルは難しい顔をして、
「クリスは転移者の中でも特別幼い。対抗免疫不全の人の中には稀に加護膜形成に至った例もある。幼い頃は屋内でしか生活出来なかったが、成長するに連れて屋外でも生活できるようになったと。」
そう答える。
「子どもの対抗免疫不全は克服できると?」
「その可能性がある。原因はまだ特定されていないけどね。転移者の加護膜とこの世界の対抗免疫不全の方の加護膜を同様に考えていいのかという声もあるけど、僕は子どもに関しては殆ど変わらないと思う。クリスが屋内でしか生活できないとはいえ、まだ元気で生きてることがその答えだと思うんだ。」
「確かに、成人の転移者では加護膜が形成できていないと早くて三ヶ月。半年で起き上がれない程弱り長くても一年で衰弱死。屋内で生活していてもそれは変わらない。それを考えればクリスの例は、対抗免疫不全の人達と同じ、と言えると思います」
彼等は守り石に守られた状態なら弱って死ぬ事はない。
対抗免疫不全は殆ど子どもの頃に発覚する。稀に大人でも発見されるが、本当に稀にだ。身体が弱くて外に出られないだけだと思っていたら対抗免疫不全だと大人になって気づいた例が報告されている。
「ニコル先輩は、その形成に至った例の要因が緑の手の作った食物にあるのではと仮説をたてた?」
「大分怪しいと思ってるよ。でも、貴重な機会を逃したくない。クリスにはちゃんと説明してアランとレイカの承認も得る。」
「わかった。では承認がとれ次第調理にはいろう。調理はリオさんが担当する?」
「はい。元々そのつもりでしたから」
「試食の際は、何かあった時にすぐ対処できるように私も参加しよう」
「局長、食べたいだけでは?」
「リオさん、黙りなさい」
「はい、失礼致しました」




