スーパー侍女ミランダ2
「すいません。本当にすみません」
朝起きて、ベッドの上で土下座する私にミランダは淡々と謝罪の礼のやり直しをさせる。
「初陣後の新人にはよくあることです。スッキリしましたか?」
「はい」
「まぁ昨夜一緒にいたのが、私で良かったですね。グラッド様だったらあのまま手を出されてましたよ」
「うう、すいません」
「責めている訳ではありませんよ。揶揄っているだけです」
「恥ずかしい」
支度をして出勤する。
「おはようございます。?どうしました?私の顔になにかついてます?」
ニコルとレイカ、それにアラン、クリスが部屋に入ってきた私を凝視している。
「おはよう」
クリスが頬を真っ赤にして近づいてきた。
「おはよう、リオ。これ、ありがとね」
昨日貸したハンカチだった。綺麗に洗濯してある。
「いえ、クリス。ほっぺが真っ赤ですよ。大丈夫ですか?熱はありませんか?」
屈み、目を合わせ額に手をあてた。
「大丈夫だよ?」
「無理は禁物です。今日は大人しくしとこう?」
「うん!じゃあリオ、だっこ!」
クリスを抱っこする。ぎゅっとくっつく。その様子を見ていたアランがはぁとため息をついた。
「リオさん、クリスは俺が預かる。」
クリスを引き剥がそうとアランが寄ってきた。
「やだ、リオがいい!」
「クリス、リオさんは僕と局長と話し合いがあるのでアランで我慢しなさい。」
ニコルがそう言うとクリスは
「えー」
渋々アランに抱っこされる。
「それから、アラン、クリス。今日から少しの間、召喚課に出入りするミランダさんだ。挨拶して」
「クリスです、よろしくおねやいします」
「アランだ。宜しく」
クリスの甘噛みにニコルが顔を背けた。肩が震えている。
大分隠さなくなったなぁと思う。
「ミランダです。宜しくお願いします。」
「ミランダさん、オスカー先輩が来るまでここで待機して頂きたいのですが。」
ニコルの言葉を間、髪入れずに
「ニコル。私の仕事はリオ様の護衛です。そこは譲りません。オスカーが来てから行けばいい。もしくは、ジャック様を呼びつけ」
断る。
それどころかジャックを呼びつけろと言いかけた。
「わかりました。わかりましたから、オスカー先輩がきてから行きましょう」
ニコルが失礼しましたと詫びる。
「ニコル、焦る気持ちはわかりますが。どうにもなりません。」
ミランダとニコルの話が全然見えない。
お茶を飲むレイカにどういうことか聞く。
「リオがもらった野菜?あれよ。昨晩ジャック様が取りにいらしたわ。」
?シノノメの貴重な野菜を?ジャック様が?
「意味がわからないです」
「私もわからないわ。」
「リオさん。お茶、飲むか?」
アランはクリスを椅子に座らせると、緑茶のポットを持つ。カップを戸棚から出して、注いでもらう。
「お願いします」
「昨日は、ありがとう。助けてもらったとレイカから聞いた」
緑茶はアランの方が上手だ。美味しい。羨ましい。
「俺は」
アランは悔しそうな顔をしている。魔獣を前に、何もできなかった。
「昨日は怖かったですよね。私昨日の夜、ミランダに抱きついて泣きながら寝ました」
恥ずかしながら、と笑うとアランが驚いた顔をした。
「リオさんも、怖かったのか?」
「死ぬかと思いました」
「そうか、俺」
「アランもレイカに抱きついて泣きました?」
一瞬にして真っ赤になるのを見て、図星かと突っ込む。
「うるさい」
「胸の感触、凄いですよね」
小声で言う。更に真っ赤になる。
「リオ、黙って聞いてれば何言ってんの?!」
聞こえていたらしい。
「柔らかくていい匂いするし、落ち着きます」
正直に堂々と宣言すると、アランも頷いた。
「たしかに」
「アラン!」
「僕もぎゅーしてもらった!」
四人で騒いでいると、オスカーが出勤してきた。
「おはようございます。今日も朝から元気ですね」
オスカーの顔色が悪い。引くほど悪い。
「オスカー先輩、今日は寝てたほうが」
「大丈夫だよ、ここで大人しくしてるから」
クリスが泣きそうになっている。
「オスカー。心配になるから向こうの部屋で寝てなさいよ。地図なら私が見てるし、クリスはアランがみてる。何かあったら必ず呼ぶわ」
レイカの頼もしい言葉に、オスカーはほろりと涙を流した。
レイカの言葉に甘えて、宿直室で寝てるねと退室していった。ミランダも驚きを隠せてなかった。
「あれ、本当にオスカーですか?」
「身体が弱いって言ったでしょ。…オスカー先輩あんなになるまで無理したんだ。知らなかった。」
どこか思い詰めたような顔をしたニコルが心配になる。
「ニコル先輩、大丈夫ですか?」
「ああ。悪い、じゃあ行こう」
ニコルとミランダと一緒に本館へ向かう。
本館は昨日の騒動の件で、まだまだ混乱していた。
受付を抜け、そのまま局長室へ向かう。
「局長、入りますよ」
ドアを開けると、顔色が悪いジャックがソファにもたれかかっていた。
「いらっしゃい。寝たい。」
「本音が零れておりますよ。ジャック様」
ソファ前のテーブルにお茶の準備をしていた側務めの男性がこちらに目を向ける。会釈をすると、すぐ離れた。
今日は男性に見える。
「おはようございます、局長。」
「おはよう、どうぞ座って」
私とミランダ、ニコルとジャックに分かれて座る。
「まずは、昨日はお疲れ様。一人で大変だったな。」
「いえ。グラッドがきてくれたので」
「私が本館前で報告を受けた所に丁度鉢合わせて、自分がいくと言うから任せた。間に合って良かった」
「殲滅まで一瞬でした」
「そ、そうか。それで、今日集まってもらったのは昨日リオさんが手に入れた緑子様の野菜についてだ」
?さっぱり意味がわからない。
「リオさんのその様子だと、何故それが重要か分かってなさそうだな。」
「はい、全く」
お茶を飲み少し考えジャックが説明する。
「緑子様というのは、シノノメにいる土属性レベル4の愛し子のことだ。つまりは、君と同じ加護障害を持っている。が、土属性の加護障害は緑の手といって植物を育てることに良い影響を与える比較的無害な加護障害だ。」
数ある加護障害の中で本人にも他人にも悪影響のほぼない加護障害だ。
植物を育てることに特化している。
しかもその道へ進むしかない状況に追い込まれるらしい。
ただ、植物を育てることが好きな者には何の悪影響もない加護障害。
「その緑子様の野菜を、持ち込んだ商人に聞いたところ魔法省の職員に渡したのは君と魔生物局の男性職員の二人だけだそうだ。他の使用人らには高くて手が出せない代物だからな」
因みに代金は支払い済みだそう。
「魔獣化に関係がありそうってことですか?」
「あぁ、そうだ。商人が言うには魔生物局の男はいつも野菜を吟味して購入していたから覚えていたと。外見的特徴から半魔獣を担当していた職員の可能性がある。」
「緑子様の野菜の魔素含有量は他の野菜の三倍以上。他にもリオ様の不運同様、守り石に反応がありました。」
「昨夜ミランダ嬢がこの話を持ってきて、すぐに確認した。金属性は私も持ってるからな」
「つまり、私の『不運』で半分変化した魔獣を、緑子様の『緑の手』が変化を完了させたってことですか?」
「その可能性が大いにある」
ジャックの声に確信めいたものを感じる。
霊素が後押ししたのかな?
「リオ様の不運で変化した魔獣擬きですが、あの変化の速さは異常に遅かったので何故かと考えていました。属性耐性の無さが原因かと」
???
「属性耐性が無さすぎて、変化に時間がかかったってことですか?!」
「恐らく。緑の手の野菜を食べて変化完了したならそういう可能性が高くなります。あの種の動物は土属性持ちの闇属性耐性無しで、魔獣もその性質を受け継ぎます」
「昨日私と君が考えた正反対のことが起きたということだな」
私達が考えたのは闇属性耐性がないから、それに漬けようだった。弱いとこを攻めようぜという精神に元づいた行動だったが、違っていたようだ。
「魔生物局の施設が殆ど使えない状況ですが、魔素濃度検査室は無事でした。体内魔素量が中間報告とほぼ同じ数値で完全に過程を経てないことが露見しました。」
ニコルの報告に危機感が募る。
「じゃあ、霊素が原因だと気づかれたということですか?」
魔素じゃないなら霊素でしょ。って、なるのかな?
「それは考えづらいです。体内魔素量以外は魔獣の外見に、特性を持っています。だから、ボス特性に注目するのではないでしょうか?ボス特性を持つ魔獣の研究は進んでいませんから」
ミランダが否定する。
「そんなに霊素って意識にあがらないものなんですか?」
「そうですね。霊素は魔素と違い計測が難しいんです。私達が知覚できる霊素はレベル4の加護障害として現れる部分だけ。眷属との交流は希少ですし、研究内容は神殿が隠匿するので殆ど研究者がいないんです。身近なのは魔素なので」
「なるほど。それにしても加護障害が霊素っていうのはミランダも知ってるんですね」
「知らない方もたくさんいらっしゃいますが、魔術の勉強をされてる方は気づきますよ。」
クラリスは知らなかった。
というか、彼女は勉強したくなかったからなぁ




