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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
102/605

スーパー侍女ミランダ1

「宜しくお願いします」

管理棟に戻り、ミランダを紹介する。

私の警護の為、数日ついてくれることになったと話す。各人の反応がわかりやすい。

オスカーは先程一緒に戦った人がきたという顔。

ジュリエットはクラリスの侍女としてのミランダを知ってるのか驚愕の表情。

レイカは探るような目で見ている。

ニコルは普通を装っている。

「レイカはアランとクリスの様子を注視しててほしい。ジュリエットさんは、今日は戻っていい、明日は休みだったね」

「はい。」

「混乱してると思うからゆっくり休んで」

「ジュリエットさん、寮まで送って行こう」

オスカーがジュリエットを寮に送っていく。

「リオさんも疲れてると思うけど、ちょっと話がある。オスカー先輩が戻り次第資料室で話そうか。ミランダさんも一緒で」

「はい。じゃあ、その間にお茶淹れます。ニコル先輩も緑茶で?」

「お願いします。」

お茶の準備をする姿をミランダに見られている。

あ、袖が血塗れだ。袖を捲る。

サイス領では緑茶は一般的ではない。

「リオ様、」

「淹れ方を覚えたら次からミランダにお願いしますね。絶対私より上手く淹れるはずなんで」

「かしこまりました」

「カップはお客様用の白を使って下さい。他は使う人が決まっているので」

赤は、とカップの色と誰のかを教える。

「ミランダさん、これ着てて」

「ニコル様、」

ニコルは魔法省のローブを手渡す。

「ここにいる間は、ローブを着て、エプロンは外して下さい。あと、僕のことは呼び捨てて構いません」

ミランダは早速エプロンを外し、ローブを羽織る。魔法省職員に見える。エプロンは私の机に置いた。

「わかりました、よろしくお願いします。ニコル」

「私は隣りにいるわ。」

レイカは奥の部屋に移動する。

三人でお茶をしながら、オスカーが戻ってくるのを待つ。緑茶を飲むとついつい気が緩む。眠たくなってきた。

「リオさん、寝ないで」

「あ、大丈夫です、ねてません」

「リオ様、他の殿方に寝姿を晒したなんてグラッド様が聞いたらさぞ悲しまれることでしょう」

一気に眠気が飛んでいく。怒られると思うと背筋が伸びる。

「お、おぅ。寝てないです」

「説教コースでしたね」

「危ない。寝るとこでした」

頬を軽く叩き、緑茶じゃなくて紅茶を淹れる。

カフェインの力を借りなくては。

私の淹れた紅茶を飲んだミランダが

「上達しましたね」

と微笑んだ。

しばらくしてオスカーが戻ってきた。

ニコルはオスカーから何かを受け取る。それを確認したニコルと資料室へ移動する。

「話というのは、今回の騒動の話です。協力していただいたので事件の概要は報告致します。が、その他魔法省の不利になる情報はお渡しできません。」

ニコルの言葉にミランダが頷く。

「はい、それは理解しています」

ニコルはオスカーから受け取った紙を見ながら話す。

「今の段階で分かっているのは、あの爆発が起きたのは半魔獣に餌を与える時間帯でした。どのような状況だったのかは、担当者が死亡した為わかっていません。」

目を瞑る。あの爆発だ、死亡者がもっと出ているだろう。息を一息つき、目を開ける。

「被害状況は?」

「魔生物局の職員が、数名死亡しました。彼等は檻の近くにいて、防ぎようがなかったようです。」

「残念です」

「あとの職員は全員怪我の程度はありますが無事でした。騎士課やその他使用人などに死亡者はいません。」

「……そうですか。半魔獣には何を与えていたのでしょうか。報告書には、野菜や果物とありましたが」

「恐らく。特に変更はなかったはずだと、担当者の上司に確認済みです」

「魔獣に変化、ボス特性、色々わからない事ばかりですね。まさか、局長と半魔獣について話した日にこんな事になるとは」

「はぁ、頭が痛いです。オスカー先輩も意味がわからないと言ってました。存在に違和感のある魔生物ですよ。あの魔獣に関しては僕よりオスカー先輩と話し合って下さい。他に分かっていることは」

半魔獣が人の動きを見て鳴いていたこと、訓練施設へ流入した魔獣の数がそこまで多くなかったこと。

「見られていると感じました。」

戦闘中、感じたことだった。

「戦略的に魔獣を投入していたと思いますよ。ただ、二局を同時に動かせるほど器用ではなかっただけかと。足の速い、兎・狼型を先に出して、力強く防御力に優れた猪・虎型を次鋒。攻撃力の塊で且つ大きな熊型で疲れた相手を仕留めるつもりだったのではないかと考えます」

ミランダが発言する。

最初は訓練施設の方に流れたが、途中から流れてくる数が減ったそうだ。管理棟の方へ数を回したと考えられる。

「確かに、沢山の敵がいるほうよりも一人しかいない所に数当てて崩すのが簡単か。居たのが普通じゃなかっただけで」

「なんですか、ニコル先輩。その言い方。」

「僕も見たけどあの数、足留めできるとか凄すぎるよ?本当、リオさんの所に応援行けないってなった時のあの絶望感、わかる?オスカー先輩連れてかないでって心底思ったよ。本当にグラッド様に感謝しかない。」

「思ったより少なかったですが、リオ様の所にいた数の三倍以上は訓練施設に当てられていたのでオスカーさんが呼ばれたのは仕方ないことだと思いますよ。ニコル」

オスカーは他の騎士とは一線を画す腕前だったそうだ。

「オスカー先輩は身体が弱いから、騎士にはなれなかったけど。恐ろしく強いのは知ってる。」

「指揮も的確でした。彼を騎士として確保しない理由が身体が弱いだけなら魔法省の目は節穴ですね」

「局長が就任して最初にしたことってわかる?」

「いきなりなんですか?」

首を傾げる。

「オスカー先輩を騎士課にスカウトしたんだ。オスカー先輩は騎士よりやりたい事を見つけたからと断ってたけど。」

ニコルは自分の事のように自慢気に話す。そんな自分に気づいて兎に角と早口で誤魔化す。

「これから本格的に情報を探りに行くので、取り敢えずはここまでにしましょう。リオさんも戻って休んで下さい。……アラン達を助けてくれてありがとう」

「私も助けられて良かったです。ニコル先輩が二人を連れて行ってくれなかったら絶対持たなかったので。ありがとうございました」

ミランダと二人、寮に戻る。

その間、訓練施設側での戦いの様子を聞いた。

オスカー以外では隊長格の数名が目立った活躍をしていたと話すミランダは楽しそうだった。

寮の部屋に着くと、ミランダにお風呂に追い払われた。出てくる頃には、軽食が用意されている。

「これ、どうしたんですか?」

「食堂で手に入れました」

「速い、私そんなに長風呂でしたか?」

「いつもよりはゆっくりでした。食べましょう」

テーブルで向かい合って、食べる。美味しい。

「あ、野菜持ってくるの忘れました。」

「野菜ですか?」

「はい、仲良くなった商人さんが貴重な野菜が手に入ったからと、確か緑子様の野菜だったかな?」

召喚課の水場に置きっぱなしの野菜を思い出し、事情を説明する。

「緑子様、ですか?本物ですか?」

「?はい、添えられた手紙にそう書いてありました。」

「そうなら、本当に貴重な物を頂きましたね。シノノメでも高値で取り引きされる商品ですよ。」

本当に貴重な物だったんだ。今度会ったらお礼を言わないと。

「シノノメのことも詳しいんですか?アランに教えてほしいです」

「アランさんは、先程はいらっしゃらなかった方ですね。」

「春からシノノメへ研修に行くので色々教えて欲しいです。駄目ですか?」

「ふふふ、かしこまりました。助力は惜しみませんよ。リオ様が楽しそうにされているので安心致しました。」

ご飯を食べたら、忘れていた眠気が一気にやってきた。

お眠り下さいと言うミランダの手を掴む。

「どうされましたか?」

久しぶりにグラッドやミランダに会えたからか、気持ちが高揚して普段なら言わないようなことを口走った。

「一緒に寝てください」

「リオ様?」

「……な、なんでもないです。すみません」

恥ずかしい。うぅ、調子に乗った。

「いいですよ、寝ましょうか。」

ミランダに抱きかかえられベッドに入る。

ベッドが狭いのでくっつかないと落ちてしまう。

「リオ様、今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい」

「ミランダ、私」

抱きしめられたまま、頭を撫でられ、背中をさすられる。

「はい。頑張りましたね」

「初めて、魔獣を、」

手に染みついたような生々しい感覚。

「殺しました」

涙が溢れる。

殺さないと殺されるのはわかってる。

でも、殺生に対する嫌悪感がないわけではない。

「怖かったですね。」

「うん、怖かった。こ、こわかったよぉ」

ミランダに抱きつき、泣きながら眠りに落ちた。


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