異変
昼食を終え、アランとレイカは食器を片付けに向かった。
クリスは、まだ図鑑が読みたいようでオスカーにねだっている。
私は野菜の調理の為の準備をしていたら、何故かニコルから注意を受けていた。
「リオさん、食堂では変なことしないように気をつけてよ」
「変なこととは一体なんでしょう」
「わからないから釘さしてるんだよ」
「気をつけ」
ますと言いかけて、突然の爆音と建物の揺れに言葉を失う。すぐに姿勢を低くする。それにニコルが続く。
「きゃっ」
「こわい」
ジュリエットとクリスが声を上げる。
地震?爆発?揺れが続いている。
「落ち着いて下さい!身体を低くして。揺れが収まってから動きましょう」
部屋にいる四人に声をかけた。オスカーはクリスを抱きしめあやしている。
低い姿勢のままドアに近づき、開くか確認する。
揺れが収まったのを確認して、立ち上がる。
「脱出経路を確保します。オスカー先輩は、クリスをお願いします。ニコル先輩はジュリエットさんを。」
「わかった」
廊下の状態を確認しながら、入り口のドアも開ける。
問題なく開いた。そのまま、固定して、部屋に戻る。
「破損等特にありません。念のためドアは開けています。建物内で待機しても問題なさそうです。」
「リオさんは落ち着いてるなぁ。ほら、クリス。大丈夫だよ」
「ううう」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃのクリスにハンカチを渡す。
「ありがと」
「オスカー先輩、これ渡して置きます。」
ローブの内ポケットからブレスレットを出す。クリス用で試作したブレスレットだ。
「足りなくても他の建物へ移動する間の一時凌ぎにはなるかと」
もしかしたら外で長時間過ごさないといけない事態があるかもしれない。
「ありがとう。用意周到だね」
「いえ」
ドーン!!再び爆発音と揺れがくる。
「きゃっ!」
また低い体勢で落ち着くのを待つ。
「揺れが収まったら、外の様子を確認しにいきます。」
「わかった、ニコル!揺れが収まったらリオさんと外の確認に出て。ここは、僕がみてる」
「わかりました」
揺れが収まった。
オスカーにクリスとジュリエットを、お願いして、ニコルと二人外に出た。
外には慌てた様子で寮や本館の方向へ逃げる人達がいた。
「何があったんですか?!」
その内の一人、ローブを着ている男性を捕まえて事情を聞く。
「ば、爆発した。ま、魔生物局の飼育棟だ、怪我人が大勢でた。本館へ」
「わかりました。そのまま、本館への連絡をお願いします。」
男性を離し、魔生物局へ移動する。その途中に管理棟の下働きのための宿舎がある。
「ニコル先輩、魔生物局に行きますか?それとも宿舎の人達の避難誘導が先ですか?」
「宿舎の状況を確認して、魔生物局に行こう。離れるのは、不味い気がする。それにレイカやアランが心配だ。急ごう」
「わかりました。」
走る速度を上げる。
宿舎が見えてきた。魔生物局の方から大量の魔獣がこちら側へ向かっているのが目に入る。
「は?」
「魔獣の群れ?ー!!」
視線の先に、いち早く宿舎側にたどり着いた魔獣が人を襲おうとしていた。
速度を上げて、移動しながら大量の魔力弾を魔獣目掛けて放った。
二度の爆発音と揺れにアランとレイカは建物内でじっとしていた。
「慌てない騒がない走らない。いい?私についてくるのよ」
アランの手をとり、建物内から出る。
建物の状態も、問題無さそうだった。留まることも考えたが、クリスやジュリエットが心配だから管理棟に戻ると決めた。
アランはいつも通りの表情を取り繕ってるけど、混乱している。私がちゃんとしなきゃ。
握る手に力を込める。
外は混乱した人でいっぱいだった。
その中に、怪我をして大声で叫んでいる人がいる。似たような風体の人達が逃げろと追い立てる。
「本館側に逃げろー!!魔獣がくるぞー!!」
その言葉に混乱した人達の恐怖に火がついた。我先にと、駆け出した。
「アラン、逃げるわよ。?アラン?」
真っ青な顔で硬直して、動かないアランの
「アラン!」
頬を平手打ちする。
「れ、レイカ」
「アラン、逃げるわよ!諦めないんでしょ!」
「あ、あ」
アランの手を引き、ゆっくりと宿舎を離れる。
管理棟が見えてきたと安心した瞬間。
背後で大きな叫び声がした。振り返ると、狼に似た、それでいて禍々しい顔をした生物が複数頭此方を見て遠吠えをしている。
「あ、ああ」
アランがその場に蹲る。頭を抱えて、震え出した。
「アラン、しっかりなさい!逃げるの!立って!」
腕を引っ張る。
「うう」
此方の様子を、伺っていた魔獣が一気に襲いかかってきた。その速さに逃げられないことを悟る。
間近に迫った魔獣から、アランを庇う。
私が守らなきゃ。
アランに覆い被さり、痛みと衝撃を覚悟して目を瞑った。
ギャウゥンという鳴き声とドンドンと連続して鳴る音が響き渡る。
「レイカさん!!大丈夫ですか!」
聞き慣れた声に目をあける。
リオの背に守られていた。振り返ったリオは微笑むと
「もう大丈夫ですよ。これを握ってて下さい。二人の周りに防御壁を築く道具なので」
小さな折りたたみナイフのような物を渡してきた。
「分かった。きてくれてありがと」
「ニコル先輩!二人確保!無事です!」
リオは叫ぶと、魔獣の群れに近づいていく。
そして群れ目掛けて手を向けた。
リオの足元から網目のような形をした影が前方へ伸びる。
その影に触れた魔獣達が動きを止めた。
「レイカ、アラン。無事か?」
ニコルの声に振り向く。ニコルは焦った表情で私達に怪我がないか確認する。
「えぇ。大丈夫よ」
「レイカ、立てるか?アラン」
アランは気を失っていた。
「アランは僕が担ぐ、レイカは歩けるか?」
「ええ」
ニコルはアランを、体格差があるのに、軽々と担ぎ上げた。
「リオさん!アランとレイカをオスカー先輩に預けたらすぐ戻る。それまで耐えられるか!?」
「了解しました!ここで防衛線を張り維持します!」
「行くぞ、レイカ。それはちゃんと握っておけ」
「わかった」
ニコルと一緒にその場を離れる。
「ニコル、リオは」
「大丈夫。大丈夫だから、今は避難を優先しよう」
ニコルの表情は厳しい。
不安になり、後ろを振り返る。
そこには、見たことのない大量の魔獣が迫っていた。




