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宿屋の部屋の物書き台に座って、シャンテが考え事をしていると、パスチーズが、声をかけた。
「お嬢様。お風呂の用意が、できております」
「今日はいいわ。おまえだって、今日は大変だったでしょう」
パスチーズは、たちまち嘆きはじめた。
「お嬢様。今日でもう1週間になりますぞ。フランクリン家の人間が、1週間もお風呂に入らないなんて。ああ、これを知ったら、お父さまがなんとおっしゃるか・・・」
「でも・・・」
とは、いったものの、シャンテも、正直お風呂には入りたかった。数日来、慣れない土地で疲れもたまっていた。ここで、お風呂に入って、疲れた体を休ませることができれば、どんなに心地のよいことだろう。そう思うと、パスチーズの提案を断るのは、なかなか難しいことだった。そして、彼女は、その欲望に負けて、こういった。
「わかったわ。入りましょう」
宿屋の階下にある脱衣場のカギを掛けると、シャンテは、自分の着ている服を脱いだ。
パスチーズは、シャンテからそれを受け取ると、きれいに畳んで、床においた。
22才のシャンテの均整のとれた体は、とても美しいものだった。小振りではあったが形のよいツンと上を向いた胸、良く引き締まった腰、そして豊かな尻。パスチーズは、すばらしい芸術品を見るような、うっとりとした目で、彼女の体を見た。
手で体を隠しながら、シャンテは、湯船につかると、顔や手に、暖かいお湯をかけた。
すると、彼女の肌の上で、お湯は玉の滴をつくって流れていった。
体が温まると、彼女は、老僕に声を掛けた。
「とてもいい気持ちだわ。パスチーズ。そろそろ体を洗ってもらおうかしら」
そして、彼女は、湯船の中で立ち上がった。
湯気の中に、生まれたままの姿で立っているシャンテの体を、パスチーズは石鹸のついたタオルでこすった。
腕から背中、胸から腰、尻に回って、足からそのつけねへと、体のすみずみまで、彼のタオルは動いて、シャンテについている汚れを落としていった。
「子供のころから、ずっと、おまえに洗ってもらってきたわね。どう? 私の体はきれいになった?」
「ええ、まぶしいくらいでございます」
「ありがとう」
そして、パスチーズは、新しいきれいなお湯を、シャンテにかけた。
洗い終えると、パスチーズは、乾いたタオルでシャンテの体を拭いた。汚れの落ちた彼女の体は、まさに輝かんばかりだった。きれいに拭き終わると、シャンテは、用意してあった新しい服を着た。
すがすがしい気分で、階段を上がって、部屋に入ると、彼女は奥のベッドに横になった。
そして、毛布を被ると、とても深い眠りに落ちた。
いろいろあったが、その夜はシャンテにとってよい夜になった。