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宿屋に帰ると、シャンテの部屋のドアが開いたままになっていた。

「パスチーズ?」

返事はない。

様子がおかしい。

シャンテは、ドアの死角に身を寄せた。

慎重に半開きのドアを蹴ると、ゆっくりと開いて中が覗けた。

物書き台やイスやソファが乱雑に倒されていて、奥の部屋ではベッドの毛布やシーツが床に落ちている。

「パスチーズ?」

目を辺りに配りながら、シャンテはゆっくりと部屋の中に入っていった。

「いるの?」

奥の寝室から、声が聞こえた。

「うーっ、うーっ」

寝室に入ると、床にさるぐつわをされて、縛られているパスチーズが見つかった。

「大丈夫?」

いそいで、さるぐつわを取ってやる。

「お嬢様・・・」

「いったいどうしたの?」

「覆面の男どもが、入ってきて、いきなり、わっしを、縛り上げて、部屋をめちゃめちゃにしおったんです」

はっ、とシャンテは気付くと、ベッドの下をのぞき見て、そこに何かを発見すると、ほっと胸をなでおろした。

そして、パスチーズに向き直ると、

「大丈夫? どこも痛いところはない?」

と、老僕の体をあちこち触ってみた。

「お嬢様・・・」

突然、シャンテを見つめると、パスチーズは、涙をながした。

びっくりしたシャンテは、老僕にたずねた。

「どうしたの? どこか痛いの?」

「わっしは、わっしは」と、止めどなく涙をながして、「お嬢様が、わっしを心配してくださるのが、うれしゅうて」

「・・・・・・・・・」

「本当に、ありがたいことで・・・」

「じゃあ、どこも痛いところはないのね?」

「はい」

シャンテは、部屋を見まわすと、物書き台の側に置いてあった鞄が、無くなっているのに気が付いた。事件の資料が入っていた鞄である。どうやら、それ以外に盗られているものは、無さそうだった。

(だいたいは、頭に入っていたから、別になくなっても、かまやしないわ)

階下に降りると、宿屋の主人が、カウンターの中に立っていた。

「あなた、何してたの?」

「?」

「私の部屋に賊が入ったのよ。部屋を荒らして、そうとう大きな音もしたはずなのに、なにも気付かなかったの?」

「あっしは、いま買い出しから帰ってきたところで、なんにも知りませんでした。部屋に賊ですって? そりゃ大変だ。急いで、治安官に知らせなきゃ」

というと、宿を出ていった。

すぐに、ラズロ治安官は、やってきた。

パスチーズとシャンテから話を聞き、何かをメモって、賊の遺留品がないことを確かめると、「それじゃ、犯人捜しに全力を尽くします」といって、帰っていった。


シャンテは、パスチーズと部屋に2人だけになると、ドアにカギをかけて、奥の部屋に入り、ベッドの下に潜り込んだ。

そうして、そこから、何か光っている人の頭ほどの箱を取り出した。

「こんなことが、あるかもしれないと思って、かくしておいて、よかったわ」

「お嬢様。これは?」

「魔法検査器。魔法物や、魔法干渉度を計る機械よ。われわれ魔法捜査官の必需品。これがなければ、どんな捜査もできないわ。もっとも、賊が見つけたところで、手は出せなかったでしょうけど。光ってるのがわかるでしょ? これに触れることができるのは、私だけなのよ」

「魔法ですか?」

「そう」

「驚きましたな」

「でしょう?」

「お嬢様は、本当に魔法をお使いになれるんですねえ」

すこし得意そうだったシャンテの顔は、その言葉で、どんより曇った。

もっとも、それは無理もないことだ。パスチーズが、シャンテの魔法を使うところを見るのはそれが初めてだったし、魔法捜査官といえども、めったやたらと魔法を使うことは、できなかったからである。

とはいえ シャンテは、パスチーズのために、また一つ、深いため息をつくことになった。

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