表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

6

宿屋に戻ると、部屋は見違えるように、きれいになっていた。シーツは変えられて真っ白になっていたし、部屋にはチリ一つなくなっていた。パスチーズの仕業だということは、もちろんわかっていたが、シャンテは、あえて何もいわなかった。それでも、パスチーズはご機嫌だった。

しばらくすると、ノックの音がしたので、ドアを開けると、宿屋のろうかには、若い男が立っていた。

「治安官のラズロです。マルデス地政官にいわれてきました」

「入って」

シャンテは、ラズロをソファに座らせた。

そして、自分は、物書き台のイスを持ってきて、彼の正面に座った。

治安官は、おどおどした様子で、シャンテと、目をあわせようとしない。

「若いのね。年はいくつ?」

「二十一です」

シャンテは、思った。

(私より下じゃない。べつに、いいけど・・・)

治安官は、地政官のもとで、社会の安寧秩序を守る、我々で言うところの警察官のような存在で、その土地の者の中から、地政官が選ぶことになっている。仕事の性質上、土地に詳しいものが良いため、農民から教育のあるものが試験で選ばれるのが普通で、ラズロもそうだった。

「どうして、報告書を出さなかったの?」

シャンテが聞くと、彼はあいかわらずシャンテを見ようとせずに、こう、答えた。

「地政官がこわくて」

「?」

「あの人は、自分の仕事が増えると、ぼくらを叱るんです。だから・・・こんな報告を出したら、彼がいい顔をしないだろうと思って・・・それで・・・」

「ふうっ」と、ため息をつくと、シャンテは、こう言った。

「よく聞く話だけどね」

そして、うつ向いたままのラズロに、こう続けた。

「地政官に、たずねてみようかしら」

驚いたラズロは、シャンテに大声でいった。

「やめてください!! ぼくがクビになります!!」

ラズロを見つめたままで、シャンテは言った。

「そうね」

すると、ラズロは、シャンテから、また目をそらした。

「でも」短い沈黙のあと、シャンテは、あきれた顔をして言った。

「そんなで、あの男、よくあの職についていられるわねー」

ラズロは、また驚いた顔をしてシャンテを見た。

「ご存知じゃないんですか?」

「?」

「あの人が、あの職にいるのは、親のコネだって・・・」

シャンテは、しばらく何と言っていいのかわからなかった。が、なんとか言葉をさがして、彼に言った。

「あなたは、知ってるの?」

今度は、目をそらさずに、彼は言った。

「この村じゃ有名な話ですよ」

「ふうっ」と、ため息をついて、シャンテは、ようやくこう言った。

「そう。よくわかったわ」

気を取り直して、シャンテはラズロを見つめると、こう聞いた。

「事件の当日は、どうしていたの?」

「あの日は、ずっと仕事をしてましたが、事故に関しては、気付きませんでした。あとで人から聞いたんです」

シャンテは眉をしかめた。

「本当?! ずいぶん大さわぎだったらしいけど」

「ぼくは知りませんでした」

シャンテは、じろりとラズロを見た。

ラズロは目を伏せて、話を続けた。

「あとで現場にも行きましたし、チャルレーロさんにも聞きましたが、そう大きな事故ではなかったんです。だから報告もしなくていいかと思いました」

「そうね。あなたの報告には、たしかにそう書いてあったわ。でも・・・」

ラズロは、チラリとシャンテを見たが、彼女と目が合うと、あわてて伏せた。

「・・・隣村の地政官は、そうは思わなかったようね」

隣村の地政官とは、魔法庁にこの事件の一報を入れてきた人物である。

「それは、このあたりは、事件もないので、すこしでも何かがあると大さわぎをするからです」

「そう」シャンテは冷ややかにいうと、続けた。「その後の捜査の進展は?」

「なにぶん、ぼくたちは、こうしたことに不慣れで、どうしたらいいのか、よくわからないしで、実のところ・・・なにも・・・していないんです」

「そう。わかったわ」

これで話は終わりだった。

しかし、治安官は席を立とうとしなかった。

シャンテは、彼に言った。

「どうしたの。帰っていいわよ」

「あ、でも・・・」

「なに?」

「地政官が、あなたのお手伝いをしろと」

きょとんとした顔で、シャンテはラズロを見つめた。

ラズロは、真面目である。

シャンテは、笑顔になって、こう答えた。

「必要ないわ。帰って」

「でも、地政官が・・・」

そのおどおどした態度は、彼女を怒らせるには、充分だった。

「私が必要ないって言ったって、地政官に伝えて。それなら、あなたに責任はないでしょ?」

まだなにか言いたげなラズロを、無理やり部屋から出して、ドアを締めると、シャンテは、こう言った。

「帰って!」

そして、彼女は深いため息をついて、こう思った。

(どうも、あの子、信用できないわね)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ