28
ミューラーの部下は、アウロを後ろ手に縛ると立ち上がらせ、両脇をとって歩かせた。
治安官事務所の前には、まだ多くの人々がいた。
彼等は、感情のない目で、縛られたアウロやシャンテたちを見た。
事務所の中に入ると、イスに座っていたラズロが立ち上り、檻の中にいたルフィンが顔を上げてアウロの姿を見つめた。
ミューラーがいった。
「ガキを外に連れていけ、今からコイツを締め上げる」
アウロは、ルフィンを逃がすために今夜の事件を起こしたこと、チャルレーロ殺しの犯人が自分であること、また最初の畑の爆発事件も彼のしわざであることを、すぐに自白した。
彼がなかなか口を割らなかったのは、魔法玉の入手経路だった。
ミューラーは、拳を使って彼を自白させた。
彼によれば、軍の施設から魔法玉を盗んだというブローカーから、手に入れたという話で、現在、そのブローカーはどこにいるのかわからないらしい。
シャンテは、アウロの自宅を魔法検査器で調べた。魔法玉の後反応は出たが、魔法玉そのものは発見できなかった。あれで全てだ、と彼はいった。
すでに、外は明るくなっていた。
「これで、事件は解決だな」
ミューラーはいった。
アウロは、牢に入れられた。
シャンテは、彼にいった。
「あなたは、罰を受けるのよ」そこで、彼女は短いため息をついた。「きっと、死刑になるでしょうね」
うつろな声でアウロは答えた。
「たとえどうなろうと、チャルレーロを殺したことを後悔したりしない」
シャンテはいった。
「よくいえるわね。あの男はたしかにいい人間ではなかったけど、あの男にだって家族がいるのよ」
「あんたには、わからんだろうさ…」
声と同じようなうつろな目で、牢の床を見つめながらアウロはいった。
「数年前まで、ここがどんなところだったか、そして、チャルレーロがおれたちに、どんなことをしてきたか。・・・あんたには、決して、わからんだろう」
そして、アウロは黙り込んだ。
シャンテは宿屋に帰って、ベッドに入った。事件が一段落したことと、ここ数日の睡眠不足のせいで、深い眠りに落ちた。
目覚めると、外はまだ明るかった。
時計を見ると、あまり時間はたっていなかったが、それでも気分はよかった。
パスチーズが、コーヒーを入れてくれた。
テーブルで、それを飲んでいると、ノックの音がした。
パスチーズが、応対に出る。
(ラズロかしら、それともミューラーかしら)
なにか言い争う声がして、パスチーズが呼んだ。
「お嬢様。ちょっと、来ていただけませんか」
入口に行くと、見覚えのない男が立っていた。
パスチーズが憎々しげにいった。
「こいつが、お嬢様にでないと用件をいわないと、ぬかしやがるんで」
シャンテは、老僕を睨んだ。
パスチーズは、不満そうに黙った。
そして、男に尋ねる。
「どうしたの?」
男はいった。
「あなたが、シャンテ・フランクリンさんですか?」
「ええ、そうよ」
「直接、渡すようにいわれているんでね」
男は、懐に手を入れると、手紙を取り出して、シャンテに差し出した。
「それじゃあ」
シャンテが手紙を受け取ると、男は帰っていった。
シャンテは、裏返して差出人を確認した。
手紙は、アルシエ捜査局長からのものだった。