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ファネール村に着くと、そこはものものしい雰囲気に包まれていた。
地政役所の前には、何台もの大魔砲が並び、それを運んできた馬がいななき、そして、そのまわりに軍人たちが、たむろしていた。
シャンテを乗せた馬車が地政役所に止まり、彼女が降りると、軍人たちがジロリと見た。
シャンテは、荷物を持って、地政役所に入っていった。
入口の広間では、たくさんの軍人たちが、ガヤガヤとしゃべっていた。
シャンテは、軍人の1人に、
「隊長はどこ?」
と聞くと、軍人はまわりの何人かに聞いて、その答えを教えてくれた。
シャンテは言われたとおりに奥へと歩いていった。
教えてもらった部屋に行くと、ドアが開いていて、中から声が聞こえた。
「魔砲兵隊、準備完了であります!!」
シャンテが、ドアから中を覗くと、敬礼をした兵隊の向こうに、椅子に座った隊長らしい男が見えた。
その男はいった。
「よろしい。これで、いつドラゴンが来ても、大丈夫だな」
と、彼は部下の後ろにいるシャンテに気付いて、声を掛けた。
「やあ、これはこれは、魔法庁捜査局の敏腕捜査官シャンテ・フランクリン様ではありませんか?」
シャンテにこういったのは、王立軍近衛第5連隊、通称「魔法対策隊」の隊長レイモン・ミューラー大尉だった。彼の隊は、魔法に関連する重大な犯罪や殺人事件といった、捜査官には、手に余る事件が起こった場合、王の命を受けて派遣される部隊で、シャンテは、事件の際、彼とよく顔を合わした。また、魔法庁ができるまで、これら魔法に関する事件を引き受けていたのが、彼等であった。彼等は充分に仕事をこなしたが、国王は、より理論的捜査の必要性を感じて、魔法庁を設立した。しかし、彼等は、魔法庁の存在をこころよく思っていなかったのである。
「おひさしぶりね。ミューラー大尉」
シャンテは、無理に笑顔を作って話しかけた。
しかし、彼は、しかめっ面で、腕を組んでこういった。
「フランクリン捜査官。事件現場を放り出して、いったい何をしていたのかな? キミは、上司からこんないいかげんな捜査のやり方を指示されているのかね? え!?」
「それは・・・」
「いいわけは、聞かん!!」
「・・・・・・」
「人が1人死んでいるんだぞ!!」
「被害者は誰?」
「ロベル・チャルレーロ。ここの地主だ」
「!」
「知っているのか?」
「ええ。何度か話をしたわ。それより、これはなんの騒ぎ?」
「聞いとらんのか? ドラゴンが出たんだよ。そして、そいつがチャルレーロを殺したんだ」
シャンテは、軽いため息をついて言った。
「現場に案内して! チャルレーロが、殺されたのはどこなの?」
「彼の屋敷だよ」
2人は、地政役所を出て、チャルレーロの家へと歩いていった。
やがて、チャルレーロの家が見えてきた。
外から見たチャルレーロの屋敷の一室の窓ガラスが割れて、その辺りの壁が黒ずんでいた。
「どうだ?」
現場に立ったミューラーは、シャンテにいった。
チャルレーロの寝室だった部屋の中は、壁が真っ黒になって、木の焦げた匂いがした。
シャンテは、魔法検査器で調べだした。
反応が出た。
「魔法玉だわ」
魔法玉というのは、呪文で爆発をおこすもので、魔法爆弾の一種である。
「なんだと?!」
ミューラーは、シャンテに怒鳴った。
「ドラゴンじゃないのか?!」
「魔法玉よ。それに、そこを見て」
シャンテは、窓ガラスが飛び散ったテラスを指さした。
「ガラスが外に散らばっているわ。内側からの爆発の証拠よ。これだけでも、外から、ドラゴンにやられたんじゃないって、わかるはずよ」
「しかし、ここの住民は・・・」
「ドラゴンだっていったんでしょ。田舎だから迷信ぶかいのよ。私が畑の爆発で来たときも、ドラゴンのせいだっていってたわ」
ミューラーは、途方にくれた。
そこへ、ラズロがやってきた。
彼はシャンテに気付くといった。
「捜査官! お帰りになっていたんですか?」
「ええ」
ミューラーが、ラズロに怒鳴った。
「治安官!! ドラゴンじゃないそうだぞ!!」
ラズロは、いった。
「そうですか…」
そのラズロのあっけらかんとした顔を見て、ミューラーは真赤になった。
「そうですか、だと!!」
ミューラーは、ラズロのほうに歩いていった。大声でまわりの物が、ビリビリと震えた。
「そうですか、じゃないだろ!!」
ミューラーがラズロに駆け寄る。
シャンテは、その瞬間、顔をおおった。
バシッ!!
ミューラーの拳が、ラズロの頬を殴りとばす。
倒れたラズロは、頬を押さえていった。
「すいません…」
そのとき、シャンテがいった。
「ラズロ。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど・・・」
そして、ミューラーを見ていった。
「いいかしら?」
ミューラーは、シャンテを睨みつけたが、目をそらすと、
「魔砲兵隊を引き上げさせんといかん!」
と思いついたように叫んだ。
そして、部屋を出ていくときに、ラズロを睨んでいった。
ラズロは、青くなって立っていた。
ミューラーが部屋を出ていくと、シャンテはラズロにいった。
「あの人は、手が先にでるタイプなのよ」
そして、ラズロの顔を見ると、
「血が出てるわ。大丈夫?」
「大丈夫です」
手の甲で口の端を拭ってラズロはいった。
「すいません。助けてもらって」
シャンテは、赤くなっていった。
「助けたんじゃないわ。聞きたいことがあったのは本当なのよ」
そして、シャンテはラズロを見つめていった。
「ドラゴンだなんて、まさか、あなたがチャルレーロを殺したんじゃないでしょうね?」
「ちがいます!」
シャンテは、疑わしそうな目で彼を見ながらいった。
「だったら、いいんだけど…」




