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馬車を自宅までつけさせて、御者にお金を払った。
彼はお金を受け取ると、馬に鞭をいれた。
「ありがとう。気をつけて」
寝ないでこのままカルベーレまで、帰るという。ラーデンブルグの宿代がもったいないからだ。
シャンテは、馬車が角に見えなくなるまで見送った。
家に入ると、父親が出迎えた。
「シャンテ、さびしかったよ」
父は彼女を抱き締めた。
シャンテは、困った様子である。
「お父さま、私が出発してから、まだ2週間もたっていませんわ」
「どうして手紙のひとつも寄こしてくれなかったんだい?」
「書かなければならないほど、時間はたっていませんし、書くヒマもなかったのですよ」
父は、残念そうな顔でいった。
「おまえに、わしの気持ちがわかったら・・・」
そして、ふと気づいていった。
「パスチーズはどうした?」
「まだ、あちらにいます。元気ですわ」
「あれは、役に立つだろう」
「・・・ええ」
シャンテは、ウソをついた。父親も、老僕も悲しませたくはなかったので。
「仕事はどうだったね?」
「ちょっと調べものがあったので、こちらまで出てきましたけど、またすぐに向こうに戻らなきゃならないの」
「・・・・・・シャンテ!!」
「お父さま?」
彼女が父親を見ると、彼は泣いていた。
「仕事なんていいから、はやく帰ってきなさい。なんだったら、そんなものわしが解決してやるから」
シャンテは、父親の肩に手をおいて、じっと彼の目を見つめていった。
「お父さま。もし、私が男でも、同じようにおっしゃっいますか?」
父は、ため息をついて、いった。
「わかったよ、おまえ」
シャンテは、微笑んでうなずいた。
「失礼して、休みたいのですが」
「いいよ。ただし・・・」
「?」
「そのまえにお風呂に入りなさい。おまえのそのかっこう」
というと彼は笑い出した。
シャンテは、自分の姿を見ていった。
「そんなに、ひどいかしら」
自宅の湯船で侍女に自分のからだを洗ってもらいながら、シャンテは、パスチーズのことを思い出した。
(いまごろ、どうしているかしら)
そして、数日ぶりの自宅のやわらかなベッドに入ると、シャンテはすやすやと寝息をたてた。
次の日、シャンテは、アカデミーに出向いていったが、結果はまだ出ていなかった。そこで、魔法庁の資料室で、ヴァリス村の事件について、調べてみようと思い、捜査局に顔を出した。
資料室で記録を見ていると、アルシエ局長がシャンテに向かってやってくるのが見えた。
(結果が出たのかしら。それにしても、ずいぶん早いわね)
局長は、シャンテのそばに来ると、彼女の腕をつかんだ。
「シャンテ。すぐにファネール村に向かってくれ」
「どうしたんです? 局長、あわてて」
「ファネール村にドラゴンが現れて、人を殺したそうだ」
「!」
「例の検査の結果は、手紙で知らせる。すぐに行ってくれ」
「わかりました」
シャンテは、魔法庁を出ると、馬車を雇って、ファネール村まで走らせた。もちろん、昼夜ぶっとおしで。




