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「んー、わからないわ」
シャンテは、宿屋の部屋で、悪戦苦闘していた。
例のチャルレーロの畑の土を水に溶かしたり、火で熱したりしてみたが、たいした変化は起こらなかった。
(畑の土と、この石の関係がわかれば、何かが見えてくるはずよ)
そこで、シャンテはいろいろと錬金術めいたことをしてみたのだが、もともとこちらのほうの才能のあまりない彼女は、たちまち音を上げた。
(ただ単に混ぜているだけではなくて、なにか強いつながりをもって結び付いているみたい。かんたんに分けることはできないわ)
しかし、シャンテは、不安もあった。
(でも、チャルレーロの畑だけではなくて、このあたりの畑には、みんなこの反応があったわ。ほんとうにこの石と爆発になにかの関係があったのかしら)
この石を発見したあと、シャンテはもう一度、辺りの土を魔法検査器にかけてみた。すると、畑の土にはあのぼんやりとした反応が出たが、畑以外の場所(例えば、あぜ道や川岸)では、反応は出なかった。ということは、畑にあの石で何かをしたはずである。しかし、村人の誰に聞いても、畑にはなにもしていない、と答えたし、ルフィンのことも知らない、と答えた。
(でも、あの子が、この村にあの石を売りに来ていたのは、事実だわ)
そこで、考えはまた元のところに戻った。
(とにかく、この石と畑の土の関係がわからなければ、先に進めない)
シャンテは、決心した。
彼女は、治安官事務所を訪ねて、ラズロに、一週間ほどここを留守にしたいと告げた。
一日や二日ならいざしらず、一週間ということになると、今回は、さすがに行き先をいわないわけにもいかず、ラーデンベルグに調べたいことがあるので、といった。
その日のうちに、シャンテは馬車に乗り込み、ラーデンベルグを目指した。
もちろん、パスチーズは、村に残された。
彼は、別れの際、再び、涙をながした。
急ぎたかったので、シャンテはカルベーレで馬車を雇って、昼夜ぶっとおしで走らせた。
シャンテは、途中よく眠れず、また目のしたに隈を作ることになった。
しかし、そのため、ラーデンベルグには、2日で着くことができた。
彼女は眠くて眠くてたまらず、本当は自宅へ行きたかったが、さきに仕事を片付けるために、馬車を魔法庁につけさせた。
入口の衛兵に手でこたえ、受付を通り、階段を上がって、捜査局のドアを開けた。
同僚たちが、シャンテに気付くと、声を掛けたが、彼女はそれを笑顔と手を振ることでかわして、奥の局長室のドアの前に立つと、それをノックした。
「入りたまえ」
中から、魔法庁捜査局長テオドール・アルシエの声がした。
「失礼します」
そういって、シャンテは、部屋の中に入った。
事務机の向こうに、メガネをかけた小柄な五十男が、書類を手に持ったまま、チラリと彼女を見た。
「なんだ、フランクリン」
そして、書類に目を落として続けた。
「ファネール村の仕事は、もう終わったのか? まだ報告が出とらんぞ」
シャンテは、おそるおそる言った。
「それが、あの・・・」
局長は、シャンテを見た。
シャンテは、うつむいて、頭をかきながらいった。
「仕事は、まだ終わっていません」
局長は、書類に目をやった。
「随分かかるんだな」
シャンテは、ムリに笑顔を作りながらいった。
「住民の協力が、なかなか得られませんで・・・」
「また、おまえがわがままをいったんだろう」
「そんなことは!」
そこで、局長は、またシャンテを見た。
シャンテは、局長から目をそらして答えた。
「・・・すこしは、言いましたけれど」
「それで、きょうは、何の用だ?」
シャンテは、ふたたび笑顔で言った。
「アカデミーで、ちょっと調べていただきたいことが、あるんですが」
「なんだ。またお前の『納得できない』が、はじまったのか?」
局長は、苦笑して、シャンテに聞いた。
彼女は、あわてていった。
「いや、でも、これは、事件のカギをにぎる重大なことで・・・」
シャンテをじっと見ていた局長は、ふいにいった。
「ひどい顔だな」
「いや、これは」
シャンテは、また頭をかいて、苦笑いをした。
ふーっと、局長はため息をして、彼女にいった。
「わかった。アカデミーにいって、最優先で調べさせよう。おまえは、家へ帰って寝ろ」
局長は仕事には厳しかったが、やさしい人だったのである。
シャンテは、緑の石と畑の土を局長に渡して、自宅へと帰った。




