19
ファネール村に着いたのは、夜だった。
宿屋の部屋に入ると、パスチーズが心配顔でシャンテにいった。
「お嬢様。昨晩はどうしていらしたんですか?!」
しかし、シャンテは彼を押しのけると、
「パスチーズ。お願い。今はなんにもいわずに寝かせて」
と、服も脱がずにベッドに倒れ込んで、すぐに寝息をたてはじめた。
パスチーズは、あきれて肩をすくめたが、そのあと、彼は、シャンテを起こさないように注意しながら、彼女の服を脱がせて、毛布をかけた。
シャンテは、朝までぐっすりと眠った。
朝になると、シャンテは意気揚々と、治安官事務所に向かった。
檻の中からルフィンを出すと、事務机の前に座らせた。
そばに、ラズロも立っていた。
ルフィンの正面に、シャンテは座った。
「観念しなさい。あなたが、あの袋に入れていたものが、わかったわよ」
ルフィンは、気のなさそうな様子で、彼女から目をそらしていた。
「これでしょ」
と、持っていた鞄の中から、あのロスコーで取ってきた緑色の石を机の上に置いた。
(どう? ごらんなさい)
シャンテは、勝ち誇った顔で、ルフィンを見た。
(グウの音も出ないでしょう!)
彼は、ちらと石のほうに目をやったが、すぐにまた目をそらせた。
「・・・・・・」
すこしも驚いた様子はなかった。
「どうなの?」
シャンテは、いらいらしながら言った。
「さあね・・・」
ルフィンは、目をそらせたまま言った。
「わかってるんだから!! これだって事は!! はやく白状しなさい!!」
シャンテは、ドンと机を叩いた。
ルフィンも、負けてはいなかった。
「もしそうだったら、なんだよ!! こいつを運んだからって、いったいなんだってんだよ!!」
と、シャンテを睨んだ。
「売った相手は、だれ?」
ルフィンは、また目をそらせた。
シャンテは、彼を睨んだ。
「チャルレーロでしょう?!」
「・・・・・・」
彼は答えなかった。
シャンテと目を合わせず、そっぽを向いていた。
「もうすこし、ここに入っていて、もらわなきゃならないみたいね」
「・・・・・・」
そして、治安官にいった。
「ラズロ、この子を、留置場に戻して」
シャンテは、治安官事務所を出ると、その足で、チャルレーロの屋敷に向かった。
応接室で、彼はシャンテに会った。
「あんた、まだこの村にいたのか」
シャンテを見ると、チャルレーロは、こういった。
「もう、ここには来ないでくれと、いったはずだがね」
と、あの不機嫌そうな顔で続けた。
「じつは、あなたに、見ていただきたいものがありましてね」
と、シャンテは、鞄の中に手を入れた。
チャルレーロは、不審そうに、彼女の鞄を見た。
シャンテの目は、チャルレーロの表情を見逃すまいとしていた。
「これのことですよ」
そして、鞄の中から、あの石を出した。
チャルレーロは、じっと石を見つめた。
それから、シャンテの顔を見るといった。
「この石がなんだ?」
「しらばっくれても、ダメですよ。わかっているんですから」
チャルレーロは、不機嫌そうにいった。
「なにをだ。あんたには、わかってるのかもしれんが、ワシには、さっぱりわからん。ちゃんと説明してくれ」
チャルレーロは、演技しているようには見えなかった。
シャンテは、しどろもどろになって答えた。
「いや、あなたの畑に、この石と同じ反応が、魔法検査器で」
「だから、なんだ?」
チャルレーロは、怒っていた。
シャンテは、あせった。
「いや、それは、わたしにも」
チャルレーロは、不機嫌な顔でシャンテを見つめていった。
「いったいなんの冗談だ?」
「・・・・・・」
シャンテには、言うべき言葉が、見つからなかった。
チャルレーロは、声を荒げて、いった。
「あんたの冗談に、つきあうつもりはない!! 帰ってくれ!!」
シャンテは、逃げるようにしてチャルレーロの屋敷を出た。
宿屋への帰り道、彼女は考えた。
(この石のことを、チャルレーロは知らないのね。そうだとしたら、いったい誰が彼の畑に何をしたの?)




