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「どう。考えなおした?」
シャンテは、治安官事務所の格子の向こうにいるルフィンに、話しかけた。
ルフィンは檻の中のベッドから身を起こして、彼女の方を見る。
シャンテのうしろには、ラズロが立っていた。
シャンテは、格子の前で、ルフィンにかがんでいった。
「ねえ、おしえて。あの袋には、なにが入っていたの? そして、それをどうしたの?」
「ごめんなさい。ぼく、あのときは、気が立ってて、それであなたに、とても失礼な口をきいてしまって・・・。反省しています」
ルフィンはうつ向いて、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。
「いいのよ。あのときは、私も悪かったわ」
シャンテは、やさしくいった。
「でも、ぼく、捜査官の質問には、答えられないんです」
そういうと、ルフィンは、顔を伏せて、目に手をやった。
「だって、それことをいったら、あの人たちが、ぼくを殺すって・・・そのとき、脅されてて」
彼は涙声で訴えた。
シャンテは、ルフィンにやさしくいった。
「大丈夫。あなたがその人たちのことをいえば、私がすぐに捕まえてあげるわ。そうすれば、あなたを殺すことはできないでしょ。さあ、だから、はやくいって」
そこで、彼は、黙った。
「チッ!」
手で目を押さえてうつ向いていたルフィンは、舌打ちすると頭を上げた。
そしてシャンテを睨みつけると、彼女に背を向けて、頭をかきながら、ぶらぶらと檻のベッドへ歩いていった。
(このガキ・・・)
シャンテは怒鳴った。
「いいなさい!! なにを入れてたの?!」
ルフィンは、ベッドに入ったまま、ピクリとも動かなかった。
「あなたが、しゃべるまで、ここから出しませんからね!!」
「あの子、本当に強情ね」
事務所の脇でシャンテは、ラズロにいった。
ラズロは、どこか楽しそうな笑みを浮かべながら彼女にいった。
「魔法捜査官なんていうから、容疑者に魔法をかけて、しゃべらせるのかと思ってました」
シャンテは、笑顔の彼に、冷たい表情でこういった。
「そういうやりかたもあるけど、あれは、あとが面倒なのよ。まともな人間じゃなくなるから」
「・・・・・・」
ラズロの顔から、笑みは消えていた。
シャンテは、彼をじっと見ながら、続けた。
「なんなら、あなたに、使ってもいいのよ」
しばらく、2人は睨みあっていたが、ラズロが目を伏せた。
シャンテは、こう言って、治安官事務所を出た。
「あの子のこと、ちゃんと見張っていてね」
その夜、シャンテは、宿屋の浴室で、湯船につかって考えていた。
パスチーズが、また、「フランクリン家の人間が何日も風呂に入らないなんて・・・」と、いい出したからである。
考えていたのは、ルフィンの事だった。
(あの様子じゃ、簡単に口を割りそうにないわね。あんなちいさな子供を長い間あんな場所に入れておきたくはないんだけど…)
彼女は、取り上げたルフィンの査証のことを思い出していた。
(あの子、春先の頃、やたらと、ベルナーレの検閲所を通っていたわね)
イスタリア国では、州を越えるときには、検閲所を通らなければならないことになっていた。
(ラミロス州からこの村に、なにかを持ってきていたにちがいないわ。チャルレーロの畑の爆発の時期とも近いし・・・。検閲所に、なにか記録が残っているかもしれない。ベルナーレなら、ここから1日ほどのところだわ。よし! 明日、馬車で行ってみよう!)
シャンテは、立ち上がった。
そして、パスチーズにいった。
「洗ってちょうだい」
「かしこまりました」
パスチーズは、泡のついたタオルを、シャンテの体に押し当てた。




