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シャンテは、少年を治安官事務所に、連れていった。そこに行くまでに、彼女には多少の心境の変化が訪れていた。

それは、「はやく来なさい!」といいいながら、少年を引きずるようにして歩いている途中の出来事のせいだった。シャンテとすれ違った男2人が、彼女を見てこう言ったのだ。

「あれが、例の魔法捜査官だよ」

「おっかねえな・・・」

ラズロとのやりとりのせいで、かなり気が立っていたとはいえ、シャンテはさすがに自分自身に問いかけてみざるを得なかった。

(今の自分のような人間に、いったい誰が、本当の心を打ち明けてくれるだろうか?)

シャンテは、反省した。

(ラズロが、今の私を信用してくれないのも無理はないのかもしれない。二日酔いのせいもあるけれど、今日の私は、ちょっとヒステリックだったわ)

そう思うと、自分がひどい人間に思えてきた。

(捜査がうまくいってない上、誰も協力してくれないので、不安になって、それをそのまま、彼に八つ当たりしてしまったわ。捜査官として、いや、その前に、人として、恥ずかしいことだわ)

それに、連れていこうとしている『犯人』は、まだ子供ではないか。しかも、行商をしてけなげに働いている真面目な子供だ。シャンテが、この子供の年頃、なにをやっていただろう。

シャンテは、治安官事務所に入ると、少年のために、事務机のイスを引いて、

「座って」

と、やさしくいった。

少年は、イスの横に背中の荷物をおろして座った。

「さっきは、どなって、ごめんなさいね。こわくないのよ」

イスに座った少年は、うつむいて自分の手を触っていた。

「名前はなんていうの?」

「ルフィン」

「そう。小さいのに大変ね」

ルフィンは、シャンテをチラリと見て、

「べつに」

「つらくない?」

「うん」

「そう。行商の許可証は持っている?」

ルフィンは、うなずいた。

懐から紙を取り出して、彼はシャンテに渡した。

「ありがとう」

許可証を見ながら、シャンテは思った。

(やさしくすれば、心を開くのよ。そうよ。私だって、やればできるのよ)

許可証は、本物だった。

「荷物を調べてもいい?」

ルフィンは、うなずいた。

シャンテは、荷物を開いて、一つ一つ魔法検査器にかけていった。反応が出た。

「これは、魔法薬ね」

ルフィンは、うなずく。

「これは、違法なのよ。わかるでしょ」

「うん」

シャンテは、大満足だった。

「他には、ないかしら」

と、残りのものをかけているときだった。

「!」

シャンテの目は、検査器に釘付けになった。

検査器の反応が、チャルレーロの畑と同じ、あのぼんやりとした反応を示したからだ。

それは、少年の荷物を入れる袋だった。

ルフィンに向きなおると、シャンテはどなった。

「これに、なにを入れてたの?!」

「なにも」

「なにもじゃないでしょ!!」

と、そこで、シャンテは気が付いた。

(ダメ、ダメ…)

そして、ルフィンに、もう一度聞いた。

「ねえ、なにを入れてたの? おねえさんに教えてくれる?」

「・・・・・・」

そこで、そばに立っていたラズロを、指で招いて、部屋の隅に連れていった。

「あの子のことは、知っている?」

「いえ」

その答えを聞くと、シャンテはラズロをぎろりと睨みつけた。彼はあわてて付け足した。

「顔ぐらいは、見たことはありますが、それだけです」

「本当ね?」

ラズロは、うなずいた。

ルフィンのところに、戻ってくると、シャンテは誰に言うともなくいった。

「困ったわね。話してくれないと、ここから帰れないかもしれないわよ」

と、ルフィンは、シャンテを睨んでいった。

「冗談だろ! 魔法薬ぐらいで、こんなところに、オレを引きとめておく気かよ!」

「なっ?!」

ルフィンのあまりの態度の変わり様に、シャンテは、驚いた。

「さっきから聞いてりゃ、なめたクチききやがって、オレをバカにしやがると、痛い目にあうぜ!」

(このガキ・・・ぜんぜんカワイくない)

睨みつけるルフィンに、シャンテは、行商の許可証をひらひらと振って見せた。

「こっちの許可証の差し止めだってできるのよ」

「こんな魔法薬でかよ。あほらしい。寝言は寝てからいえよ」

「ちがうわ。こっちの袋に入ってたものの方でよ」

「ならもっと無理だよ」

「なにが入ってたの? いいなさい!」

「・・・・・・」

ルフィンは黙って、シャンテを見つめた。

「なに?」

「好きにしろよ。ただし、恥をかくのは、あんただぜ」

「いいわ。ルフィン、あなたを拘留します」

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