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「待ってください」
ラズロは、シャンテを追ってきたが、彼女はそれを無視して歩き続けた。
「捜査官は、ぼくがなにか隠していると思ってらっしゃるようですが、それは、あなたの誤解です」
「それなら、どうして、あなたはこの爆発事件の報告を出さなかったの?」
シャンテは、いらいらした様子で答えた。
「それは・・・」と、ラズロはすこし言い淀んで「前にもいったように、地政官が」
「それは、ウソでしょ。地政役所で、あなたが『マルデス』の名前でサインした書類をたくさん見たわ。地政官の許可がなくても、あなたに報告は出せたでしょう?」
「でも、報告が中央にいって、捜査官が来て、彼の仕事ぶりがバレたり、彼の仕事が増えたりしたら、結果的には同じことです。マルデス地政官とは、いい関係だったので、それを壊したくなかったんです」
ラズロから、そういわれると、たしかに、それはそうであるように思われた。それでも、シャンテには納得がいかなかった。
「さっきの男のドラゴンの話は?」
「それは、この村の伝説ですから、みんなが、なにかの事件をそれに関連づけて考えることは、仕方のないことだと思います」
「ただの偶然だっていうの?」
「ええ。そうです。実際そうですから。なぜだか知りませんが、捜査官は、ぼくを疑っておられるから、そう思われるんじゃないですか?」
それでも、シャンテにはラズロが本当のことをいっているようには、思えなかった。そこで、彼女は彼に対して感じている一番の疑問を口にした。
「どうして、あなたは、私の前で、いつもおどおどしているの?」
「それは、あなたを、尊敬しているからですよ」
シャンテは立ち止まって、ラズロを見つめた。
「本当に?」
ラズロもシャンテを目を見ながらいった。
「ええ。本当です。そういう人の前に出ると、緊張してうまく話せないんです」
「そう」
と、シャンテは、再び歩き出した。
ラズロは、そのあとについて歩いた。
「だったら、これからは、あまり緊張しないでちょうだい。あなたとは、私もいい関係でいたいから」
「はい。ありがとうございます」
シャンテは、歩き続けながら、考えていた。
(この子、ウソをつくときだけは、ひとの目をしっかり見てしゃべるのね)
2人は、宿屋に向かって歩いていた。
だんだんと、両側に商店の立ちならんだ宿屋の近くまでやってきた。
通りのうしろから、乗合馬車がやってきて、2人を追い越していき、宿屋の前辺りで止まった。人が降りていた。
2人はそこを通り過ぎようとした
その時だった。
ピ、ピ、ピと、シャンテの背中の魔法検査器が鳴り出した。
シャンテは、反応のあった方を見た。馬車から降りた客のいるところだった。
彼女は、そこに歩いていった。
検査器の反応が、だんだんと大きくなった。
と、客の中にいた行商人らしい少年が、シャンテの顔を見た。彼女も彼を見て目が合った。
すると、少年はとつぜん逃げ出した。
「待ちなさい!!」
そして、自分のうしろにいたラズロに声を掛けた。
「ラズロ!! 捕まえて!!」
シャンテも魔法検査器を持ってはいたが、少年はそれより大きな商品の箱を背負っていた。ラズロの手を借りるまでもなかった。少年は、すぐに捕らえることができた。
「あんた、なにか、魔法物を持ってるわね? 魔法許可証は持ってるの?」
少年は、首を振った。
「来てもらうわよ」
地面の上に、うなだれた少年に向かってシャンテはいった。
「いいわね!」




