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「頭がいたい・・・」

翌朝、シャンテの目覚めは快適とは、いえなかった。ズキズキとなにかが彼女の頭を押し続けているようで、気分が悪く、パスチーズが、持ってきた水を飲んでも、あまりその感じに変わりはなかった。ベッドの上に起き上がりこそしたものの、ぼうっとした表情のうつろな目つきで、しばらく、シャンテは、なにも考えることができなかった。

(きのうはいったい、あのあとどうしたのかしら?)

シャンテが覚えているのは、パスチーズに酒を買いにいかせたところまでで(それも1度目まで)、後の記憶はなかった。どうやってベッドに入ったのかも、覚えていなかった。

二日酔いである以外は、何も変わったことはないので、大したことはなかったのだろう、と彼女は思った。そもそも、そんなことを考える余裕すらなかった。

それでも、彼女は、服を着て、テーブルに座った。しかし、パスチーズが作った朝食は、ほんのすこししか食べられなかった。彼は渋い顔をしたものの、何もいわなかった。

しばらくして、ドアにノックの音がして、ラズロが入ってきた。

シャンテと目が合うと、彼はすこし顔を赤らめたが、彼女はそれには気付かなかった。

「おはよう」

どんよりとした目で、ラズロにいう。

「二日酔いですか?」

と、彼は心配そうに、シャンテの顔を見ていった。

「あなたは平気なの?」

「ええ」

昨日、たしかにシャンテはしこたま飲んだ。が、ラズロも、かなり飲んだはずである。

このときほど、シャンテは、彼を憎いと思ったことはなかった。

「今日の仕事はどうします?」

「いくわ。こんなことで、休んでいられないから」

今日も、とりあえずチャルレーロの畑に行くことにしたが、シャンテは何度か途中で休憩しなければならなかった。そして、畑に着いたものの、頭が働かず、とりあえず、そばの川で顔を洗うことにした。

「いい気持ちだわ!」

冷たい川の水を顔にかけると、ようやく頭の中が冴えてきた。

タオルで、濡れた顔を拭いていると、ラズロが声を掛けた。

「捜査官」

「なに?」

「あの男なんですが」と、彼が指をさしたところに、中年の農民の男が立っていた。「事件のあったときのことで、聞いて欲しいことがあるといっているんですが」

「本当?」

「はい」

「すごいじゃない!」

シャンテは、とてもうれしくなった。この村に来てから、こんなことは初めてだったからだ。

男は、日陰で話がしたいというので、シャンテたちを連れて、林の方に歩いていったが、その後を歩きながら、彼女はようやく事件の手がかりかつかめるかもしれないと、胸の鼓動が早くなるのを感じた。

「わしのことを、誰にもいわないと、誓ってくれるかね」

男は、林の木陰に座ると、シャンテたちを見ながらいった。

「ええ。もちろん誓うわ」彼女は答えて、彼に聞いた。「あの事件を本当に見ていたの?」

「本当ですとも」

「話して」

「あれは、わしが、畑で、草取りをしているときでしたよ。ふと、空から、何かの音がして、頭をあげると、その音がした辺りから、ひとすじの光が、チャルレーロの畑にのびていったと思ったら、そこが、ドカーンと」

シャンテの顔は、みるみる曇っていった。

「わしは、もうびっくりしちまって、命からがら家に逃げ帰ったんです」

「そう」シャンテは、気のない返事をすると、こういった。「それは大変だったわね」

「そりゃ、もう大変でしたとも、わしは、家へ帰っても、震えが止まらんかったですよ」

「そう。いまは大丈夫?」

「いまは、」と言いかけて、なにかに気付くと、シャンテを小突いて「いまは、もちろん大丈夫ですよ。だってもう、いくらも、たってるじゃないですか!」と、笑った。

「そうね」

シャンテは、あいかわらず、気のない返事だった。

「わしにはね、あれが、なんだか、わかりますよ」

「なに?」

「ドラゴンですよ」

「ドラゴン?」

そう聞くと、シャンテは、ラズロをちらりと見た。

それに気付いて、ラズロは、目をそらせた。

シャンテは男に聞いた。

「どうしてわかるの?」

「だって、考えてもみてください。こんなことができるのは、ヤツら以外に誰がいますか?」

「そうね。あなたのいうとおりだわ」

男は、満足そうにうなづいた。

「貴重な情報をありがとう」

といって、シャンテは立ち上がった。

「なんでもないことで」

男も立ち上がった。

シャンテは、男に手を差し出した。

男は彼女と握手すると、畑仕事に戻っていった。

ラズロと2人きりになると、シャンテはいった。

「あなた、いまの話、どうおもう?」

「調べてみる価値は、あるんじゃないかと思います」

「どうやって?」

「それは、わかりませんけど」

「あなたも、ドラゴンの話をしていたわね」

「ええ。この村の伝説ですから。やっぱり、ほんとうにいるんですね」

シャンテは、ついに切れた。

「あなた、いいかげんにしなさい!! これを仕組んだのは、あなたでしょ!!」

「ち、ちがいますよ!」

「わからないと思っているの!?」

「ぼくはなにも知りませんよ。あれは、この村の伝説なんです」

「そう。あなたの考えはわかったわ。勝手にしなさい」

そういうと、シャンテは、そこから立ち去った。

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