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次の日の朝、シャンテがパスチーズの作った朝食を終えて、考え事をしていると、ノックの音がした。
ドアを開くと、そこには、地政官のマルデスと、ラズロ治安官が立っていた。
部屋に入った地政官は、いきなりシャンテの手を取ると、彼の胸の前で握り締め、
「キミの身にもし何かあったら、私はおかしくなってしまうだろう」と言った。
「は?」
シャンテは、なんの事を彼がいっているのか、わからなかった。
「昨日、強盗に襲われたんだろう。治安官に聞いたよ」
「私は、外出していて、そのときは、ここにいなかったんですが」
「本当によかった・・・。昨夜はキミのことが心配で、眠れなかった。この村で、キミが危険な目に会うなんて、私は恥ずかしい。それにしても、誰なんだ。キミのような美しい人をひどい目に会わせようとするのは! まったく、許せないことだよ」
地政官は、例の熱い瞳で彼女を見つめながら語りだした。シャンテは、地政官に手を取らせたまま、困った顔でそれを聞いていたが、彼が次のように言い出したときは、黙っていなかった。
「ラズロ治安官を、キミの警護のために、そばに置かせてくれ」
シャンテは、地政官の手を振り払って、
「それは結構です」と、はっきり断った。
「どうして」
「必要ありませんから」
「強情な人だな」
マルデス地政官は、部屋の中を行ったり来たりしながら、シャンテに語りだした。
「キミは、彼らのことをよく知らないのだろう。無理もない。ラーデンベルグのお嬢様なんだからな。しかし、彼らは、一皮むけば動物と同じなんだよ。愛や芸術を理解する我々とはちがうんだ。女性のすばらしさなんて、ちっともわかりゃしないオスなんだ。そんな彼らの目の前に無防備な女性が現れたら、どうなると思う? 考えてみてくれ。すぐにわかるだろう。その女性がどうなるか?」
「・・・・・・」
「お願いだから、私のいう事を聞いてくれ。私は、キミが心配なんだ。キミがこの提案を受け入れるまで、私は一歩もここから動かないぞ」
すでに、この地政官にかなりウンザリしていたシャンテは、一秒でも早く彼が出ていってくれるならと思い、しぶしぶこういった。
「わかりました。あなたのおっしゃるとおり治安官に、警護していただくことにします」
「そうかい。わかってくれたかい。うれしいよ」
彼は、深い感謝の言葉をシャンテに述べようとした。
しかし、彼女は、それをこう言ってさえぎった。
「それでは仕事がありますので」
と、彼を部屋の入口まで連れていき、
「地政官の御厚意に感謝します」
と、仏頂面で彼を外にだして、ドアを閉めた。
それでも、彼はうれしそうな様子で、地政役所に帰っていった。
部屋に残ったラズロは、シャンテに言った。
「あなたは、あの人に、よほど気に入られたようですね」
彼女は、身ぶるいして、こう答えた。
「あの地政官は、生理的に受け付けないわ」
「ところで・・・」と、シャンテは、ラズロの方を向くと、「窃盗犯の捜査はどうなってるの?」と尋ねた。
「それが・・・事件の際、店の主人が不在でしたし、近所に聞き込みもしたんですが、目撃者もいなくて・・・こうなると・・・もう手がかりが・・・」
言いよどむラズロを見て、シャンテはこういった。
「いいわよ。気にしなくて。聞いてみただけだから!」




