令嬢探偵とお手紙
お姉様へ。
お元気ですか。
いつもお返事が「元気です」ばかりでさびしいです。お母様とお父様だって心配してるわ、顔も出さないし。そりゃ、お姉様が遠慮するのはわかります。お姉様だけ血がつながってないんだもの。
でもお母様とお父様は私とお姉様を分け隔てなく本当の姉妹みたいに平等に思ってるし、気に病まないで。私だって、実際は血につながらない従姉妹だけど、本当のお姉様みたいに思ってるから、お姉様って呼んでるのよ。伝統あるアルタヴィス伯爵家を私たちが乗っ取ったなんてひどいことを言う人たちもいるけど、お姉様は誤解だってわかってるはずよね。
それともまだ私とエドワードのこと、怒ってる?
でも、もう半年も前の話よ。いい加減、しつこいんじゃないかしら。みんなだって呆れてるわ。ただでさえお姉様、黙って出て行ったでしょう? お父様もお母様もすごく悲しんでたのよ。私だって大好きなお姉様が突然いなくなって、とても悲しかった。
家族を悲しませて平気だなんて、よくないと思わない?
もちろん、お姉様に求婚しにきたエドワードが私と恋仲になって、気まずかったのはわかります。でも、だからこそ心配してくれる周囲にはちゃんと気遣いくらいしなくちゃ。
しかも家を出て、王都で探偵をしてるって聞きました。
あのね、お姉様。
働く女性も増えてきたって世間はいうけれど、それはお金のない平民の話よ。労働は素晴らしいだなんて、お金のない人間の負け惜しみなんだから、考え直してほしいの。庶民育ちで養女のお姉様には理解できないのかもしれないけど……このまま伯爵令嬢らしくないふるまいを続けていれば、お姉様はお嫁のもらい手がないって、みんな心配してます。私も心配です。
何より、王都のお屋敷を独り占めして勝手に職場にするなんて、非常識じゃないかしら。お姉様の名義になってるとか、そういう法律の問題じゃないの。気持ちの問題よ。まぁ、エドワードと結婚すれば私も王都にお屋敷のひとつやふたつ持つことになるんだから、大きな問題にはしないけど、だからってお姉様の行動が許されるわけじゃないのよ。覚えておいてね。
それに、都会は怖いところよ。女王陛下のご威光を信じないわけじゃないけれど、悪魔の遺産だってそこかしこにあって、人を襲うって聞くわ。
そう、変な噂も聞いたの。
お姉様のところに、助手だっていう若い男性が出入りしてるって本当?
とてもミステリアスで、かっこいい人だとか聞いたけど……でもまさか、お姉様に限ってないわよね!
でも、やっぱり心配です。
エドワードのことがあったからって、やけを起こしたりはしないでね? お父様たちも不安がってます。それもこれも、お姉様が意地悪して少しもこっちに連絡をくれないからよ。エドワードも、責任を感じてるみたいです。そろそろ社交シーズンだからそっちにみんなで顔を出そうかって相談してます。
もし何か困ってるなら、あらかじめ私に相談してね。今ならまだ間に合います。
やっぱり同性のほうが相談しやすいと思うし、きちんとアドバイスできると思います。私のほうが早く結婚することになるし、そういうことは私のほうが先輩でしょ。
そう、私の結婚話は順調に進んでます!
エドワードが女王陛下に許しをもらいに王都に戻ってるんだけど……私、これはお姉様が変われるチャンスだと思ってるの。
というのもね。
もし私が子どもを産んで、その子が男の子なら、爵位をあげたいでしょう? でも、うちはお姉様が継承権を持ってるじゃない。私には難しいことはわからないけれど、そのあたりをお姉様にちゃんとしてほしいなってみんなで話し合ってるの。
だってお姉様が爵位を持っていても仕方ないし、万が一お姉様が結婚するとしても、エドワードほどの伯爵にふさわしい男性をつれてこられないでしょ?
もうお姉様も十八になるんだから、現実を見たほうがいいわ。行き遅れだとか言われる前に、大人になってほしいの。
少しきつい言い方でごめんね。
でもきちんと考えるのがお姉様のためにもなると思うの。
誤解しないでほしいんだけれど、私もエドワードも、お父様もお母様も、全然怒ってません。ただ、わかってくれればそれでいいの。それだけで今までのことは全部、水に流すからね。
だって私たちは家族だもの!
だから遠慮せず、いつでも家に帰ってきてね。早いほうが嬉しいな。
帝都のお土産も、とっても楽しみにしてます。
あなたの愛する妹ジェシーより