遺物の正体
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1.
「―キーパー、お前のダンジョンはホコリっぽいな」
「―空気清浄機を買うといいんじゃないか?」
2.
つい先程、クリーチャーがマキナの死体を持ち帰ってきた。
しかし、こうやって実際に目にしても、魔物や生物とはかけ離れたその造形に理解が及ばない。
「…こいつらはどうやって生まれるんだ?」
「―生まれる、というのは少し違う」
「―こいつらは造られた生命だ」
「つまり、使い魔って事か?」
造られた生命、というものは魔術においても存在するので理解はできる。
だが、使い魔は往々にして雑用をこなす程度の事しか出来ない筈である。
ちなみにインプは使い魔ではあるが、造られた生命ではない。奴らは召喚時の契約に従い行動するが、自由意志はあり、最悪の場合、キーパーを見限ればあちらから契約解除する事もある。
「しかし、こんなに強力な使い魔を造ることのできる存在なんて聞いた事がない」
「―こことは違う理で動く世界の話だ」
「―この坑道は異界の境界面と触れているのでな」
「だとしても危険すぎるだろう」
新人キーパーの最初の試練としてはいささか厳しすぎる様にも思える。
「―キーパー、怖気付いたのか?」
…怖くないと言えば嘘になる。先程のマキナが、他に後何匹いるのかわからないが、それらが数をなしてダンジョンハートに攻め込んで来たら今の戦力ではひとたまりもない。
そしてダンジョンハートが破壊されたキーパーは永久に復活することはない。
「正直に言えば怖い…けど」
「こんな所でつまづいてはいられない」
「俺は、英雄になるんだから」
「―よく言った、キーパー」
「―臆病風に吹かれる事と」
「―恐怖を知る事は、別だ」
「―正しく敵を恐れる事も、英雄の資質だよ」
どこか無機質な印象のあった脳内に響く声に対して、俺はこの時初めて微かに感情らしき物を感じ取ったのだった。
3.
ともあれ、この坑道に危険な敵対勢力が存在すると分かった以上は、更に戦力を補充せねばなるまい。
先輩によるとこのマキナの死体は魔界に存在しない物質で出来ているそうだが、どうやらダンジョンハートには問題なく捧げられる様なのでありがたく召喚の触媒とさせてもらう。
「異界より供物を引き換えに我が呼び声に応えよ」
「<サモン>ゴブリン」
「ギギッ」「ギギギッ」
俺にはこのマキナがどれ程の価値があるかわからなかったが、純粋な素材としてはどうやら銀貨程度の価値はあったらしく、極彩色の穴の中からは新たに2体のゴブリンが現れたのであった。
更にダンジョンが少し拡張されたのでインプも少し増やしておく。
「異界より我が呼び声に応えよ」
「<サモン>インプ」
またもや、気の抜ける音と煙と共に2体のインプが現れた。
「キー」「キーキー」
(ヨロシクネ)(どこやねんなここ)
おう、後輩だぞお前ら仲良くしろよ。
(りーだーはわたしです)(よろしく〜)(とりあえずやきそばぱんかってきなさい)
いびるないびるな。そもそもやきそばぱんって何だよ。
「―キーパーよ、一つ言っておく事がある」
脳内に先輩の声が響く。
「―遺物についての話だ」
ふむ、遺物について、か。
確かに俺も、急に探せ、と言われて状況に流されて特に何も考えずに探していたが、本来「遺物」とも呼ばれるそれは、今は失われた文明の遺産であるとか、神が創り出したアイテムであるなどとまことしやかに囁かれているシロモノだ。
地上の冒険者などからは売れば七代遊んで暮らせる、とも言われており古くから無数の人々が追い求めてやまない秘宝なのだ。
「よくよく考えたら中々にとんでもない話だよな」
そんなヤバいものを最初の試練で探させるとは、エリートしか居ないはずの養成学校を卒業したとしても本当のキーパーになれる者が一握りしかいない、という話も頷ける。
「―無論、遺物と言ってもピンからキリまである」
「―だが、強い力を持つ遺物は時に万の軍勢を凌駕する」
「―だからこそキーパーにとって遺物とは、必ず備えておくべき奥の手なのだ」
「―お前の憧れる過去の英雄達も必ず、虎の子の遺物を一つ以上持っている」
成る程、だからこそ最初に手に入れる必要が有るという訳か。むしろ、遺物を手に入れてやっと一人前のキーパーといえよう。
「―お前に探して欲しいのは、魔宝石」
「―あまねく力ある石の中でも、選ばれし十二の一」
「―<幸運をもたらすもの>『オパール』」
「魔宝石『オパール』…それが俺の手に入れなければならない遺物か」
4.
「―ああ、そう言えばキーパー」
「―『オパール』には別の意味もある」
「―曰く、<不幸と死の先触れ>」
「―まったく、邪悪なキーパーに相応しいのではないか?」
――――――――――
総兵力
??17
内訳
インプ1×5
ゴブリン3×4
はぐれ????
資材
錆びたツルハシ×10
古びたヘルメット×3
部屋
寝室 南側通路
ダンジョンハート
健康
tips
遺物…魔界にも地上にも数多く存在するそれらが、何のために存在するのか、いつから存在するのか知るものはもはやこの世界にはいない。
間違いなく確かな事は、人の身では扱い切れない破滅を招く大いなる力が、この世界の至る所に存在するという事実だ。
魔宝石…遺物のカテゴリの一種。
自然に産出される鉱物とは一線を画している、とりわけ美しく、禍々しい魔力を持つ石の事を指す。
様々な種類が有り、地上では王家の秘宝などになっている事が多い。中にはイミテーションも多くあるが、やはり本物とは纏う魔力が違うのですぐに見分けがつく事だろう。
魔宝石にはそれぞれの伝承や、言い伝えがあり、持つものに数奇な運命をもたらす。
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