表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王妃様のお仕事は  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/25

王妃様は離宮暮らし?

「是非、肖像画を描きたいものです」


 労り合う二人に、ゼッペルが声をかけた。

 クランベルトの絵師だったゼッペルには、聖女の威光など恐れるほどではないのだろう。それが、本質を見極める絵師としての目なのかもしれない。


 クランベルトが、振り向き心底嫌そうに『断る』と答えた。


「私は、ラレーヌの姫様に申したのです」


「光栄だわ」


 アルメニアは聖女をまだ脱がない。


「……ええ、聖女を描かせていただけませんか?」


 ゼッペルがアルメニアの前に膝を着く。


「威光を目の当たりにすると、普通の者は恐れを抱くのです。ですが、その威光が紙を媒体にすると、神聖な物に変わります。そして、それを目の当たりにできた自身を幸運に恵まれたと自覚します」


 ゼッペルが顔を上げる。


「どうか、描く許可を賜れないでしょうか?」


 アルメニアはクランベルトをチラッと見る。

 クランベルトが、肩を竦めて頷いた。

 アルメニアはパァッと喜色を浮かべる。


「『奇跡の聖女』の肖像画だ。頼んだぞ、ゼッペル」


「かしこまりました。『永遠の薔薇』と『奇跡の聖女』、必ず完成させます」


 アルメニアは、小首を傾げる。


「『永遠の薔薇』って?」


「ひ、姫、それは」


 クランベルトが焦っている。


「姫様に乞うための薔薇ですぞ」


 ゼッペルの言葉にもアルメニアは気付かない。

 メリッサがスッと横にやってくる。


「『薔薇を携え片膝になり、愛よりも濃いお言葉で乞うていただきたいのです。だって、私……陛下と恋をしたいのです。愛を育みたいのです。そして、家族になりたいのだもの』との言葉に出てくる薔薇ではないかと」


 アルメニアの顔が紅潮する。

 クランベルトも同様に、血色が良い。


「い、言わないでぇぇ」


 アルメニアは羞恥のあまり叫んだ。

 クランベルトが『コホン』と咳払いする。


「作品ができたら知らせよ」


 ゼッペルが頷く。


「作品が出来上がりましたら、離宮に知らせを出しましょう。きっと、ここの者らは、お二人が笑顔でご訪問されることを願うでしょう。悔恨の念を胸に抱いて待ちわびるはずですから」


 ゼッペルが静かに言った。


「ええ、そうしますわ。だって、私まだギルドの受付嬢をしていませんもの」


 アルメニアは口を尖らせる。


「姫様、まだそのような戯れ言を」


 ウルが冷気を漂わせた。


「森だって、冒険していないし」


 レンジが付け加える。


「ええ、そうよ! 私、まだまだ世界を見て回りたかったわ」


 アルメニアの発言に、クランベルトらが目を丸くする。


「姫は、本当に……」


「お転婆なのです」


 メリッサがクランベルトの言葉を察した。


「へ、へへへ」


 アルメニアは照れ笑いする。


「とんだ聖女様ですね」


 ジェロが呟いた。

 クランベルトがまたゲンコツを落とした。




 アルメニアは離宮の花園を散策する。


「うーん、暇ね」


 アルメニアはそこかしこで駆け回っている人形を眺めた。

 幌馬車から全ての人形が離宮に運ばれている。いや、自立して動いたけれど。


「陛下もいないし、暇すぎるわ」


「仕方ありませんでしょう。陛下は『王太子のハーレム』やら『奇跡の聖女』の輿入れ準備やらで王城につめておりますから」


 ウルが言った。


「ええ、分かっているわよ。でも、準備期間中を有意義に過ごしたいと思わない?」


 ウルの眉がピクンと動く。


「ほら、ここにいても何も生産性がないじゃない?」


 ウルから冷気が漏れてくる。


「王妃の仕事として、やっぱり、この期間はベラクルスの視察をするのが懸命な判断だわ」


 アルメニアの発言に、ウルが冷たく青い目を細める。

 それでも、黙ってアルメニアの言葉を聞いていた。


「冒険もしていないし、クルツとベネーラしか見聞していないわ。これで、ベラクルスの王妃が務まるわけがないと思うの」


「屁理屈ですね」


 ウルがスパンと言い放つ。

 アルメニアは口を尖らせた。


「いいじゃねえか、ウル。俺もここで毎日花ばかり眺めて過ごすのに、いい加減飽きた」


 レンジが二人の会話に入ってきた。

 なぜか、背中にたくさんの花を背負っている。


「次は、花屋なんてどうだ?」


「それもいいわね!」


 ウルがレンジの花を奪い、メリッサに預ける。


「姫様が調子づくことを言うな、レンジ」


「でもな、ここじゃラレーヌと一緒だ」


 レンジには珍しく湿った声だ。


「……そうかもしれないが」


 ウルが離宮を見渡す。

 普通の令嬢なら、ここで過ごすことになんの違和感もないだろう。


「アルメニア人形だけでも置いていってください」


 ウルがそっぽを向きながら言った。

 アルメニアの代わりをさせるためだ。


「ウル! ありがとう」


 アルメニアは、ウルとレンジの腕に自身の腕を絡めた。


「メリッサ、出発よ!」


 メリッサがフワリとアルメニアに侍る。

 メリッサだけではない、全ての人形がアルメニアに集った。


「『冒険』を始めるわよ」




***

クランベルト陛下へ

 少し散歩に出かけますわ。

 私、離宮の花を眺めるのに飽きてしまいましたの。広いベラクルスですから、目にしたことのない花があるかと気づきました。

 陛下が戻るまでには、散歩は切り上げますから、ご心配なく。

 では、陛下もお体には気をつけて、のんびりと準備くださいませ。

アルメニアより

***


 クランベルトは、その文の内容に気が遠くなった。


「あ、あの……」


 諸処の連絡で、ラレーヌの使者を離宮から呼び寄せたのがまずかったのだろう。

 その隙に、易々アルメニアは離宮から出奔したに決まっている。


「これを、見よ」


 クランベルトは、使者に文を渡した。


「ああぁぁ、なんと言うことでしょう!?」


 ラレーヌの使者が膝から崩れ落ちた。


「また、野に放たれてしまったぁぁ」


 言い得て妙である。

 クランベルトは、なんだが可笑しくなってきて、笑うしかなかった。

 ラレーヌの使者が突っ伏している。


「申し訳、申し訳ありません! ん? 申し開きできません。いやいや、申すこと山ほどです」


 このラレーヌの使者も相変わらずだ。

 クランベルトは、開き直った。


「いいのだ、アルメニア姫はこれでいい。彼女なら、何度だって我は捜しに行くさ。惚れたが負けだから」


次回更新→5/26(火)予定

次回最終話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ