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王妃様のお仕事は  作者: 桃巴


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22/25

王妃様は奔走します②

 アルメニアは馬車の中でその問いを聞いた。

 ドクンと胸打つ。


「へ、陛下?」


 この声はつり目の従者であろう。


「こいつじゃない」


 クランベルトの言葉にアルメニアの心臓は激しくなる。歓喜が溢れ出そうだ。


「姫様、陛下はご真贋をお持ちです。いつまで、そこに居るおつもりですか?」


 ウルが言った。

 アルメニアは、胸を押さえながら扉に近づきヒョコッと遠慮がちに顔を出した。


「へっ!?」


 最初に反応したのは、つり目の従者だ。


「お、お、お、同じ顔だ!」


 アルメニアを指差して叫んだ。

 その指をゼッペルがバシンと叩き落とす。


「ジェロ、失礼だぞ」


 クランベルトも従者にゲンコツを落とした。

 ジェロが頭を擦る。


「ど、どっちが本物なのです?」


 ジェロがアルメニアとアルメニア人形を交互に見る。


「馬車に居る方に決まっておろう」


 クランベルトが答える。そして、その視線はアルメニアに向いた。

 微笑んだその顔に、アルメニアの頬は紅潮する。


「やっと、会えた」


 クランベルトが手を差し出した。

 アルメニアは瞬きして、その手をジッと見つめる。


「姫様、こういう場合は手を添えるものですよ」


 ウルが小声で伝えた。そして、クランベルトにコソッと告げる。


「姫様はこのような扱いに慣れておりませんので、少々強引でもよろしいかと」


「ウ、ウル!」


 アルメニアは焦った。


「姫、手を」


 抗議の叫び虚しく、クランベルトがクッと笑って一歩近づき、アルメニアの目の前に手を出した。

 アルメニアは背筋を這う恥ずかしさを味わう。


「あぅ」


 何とも可笑しな返事でクランベルトの手に自身の手を添えた。

 それだけで、心臓は早鐘を打つ。


「ところで、この者は?」


 ストンと馬車から降りると、クランベルトがアルメニア人形を見た。きっと、人形だとは思っていまい。

 アルメニアはウルとレンジを見る。

 二人が頷いた。


「姫様を見抜ける真贋をお持ちですから、もう打ち明けても大丈夫でしょう」


 ウルの言葉を受け、アルメニアはクランベルトに向き合う。


「聖女の力は……」


 そこで、別の胸の鼓動へと変わった。

 アルメニアは添えた手を胸の前で握る。

 傀儡師だと告げたら、さっきの優しい顔が、奇異なる者を見るような表情になったらどうしようか。嫌悪されたら、罵声を浴びせられたら、婚姻の申し出を破棄されたらと、次々に負の感情が押し寄せる。


 アルメニアはギュッと目を瞑る。覚束ない声が出る。


「く、ぐつ」


 その時、草むらがザワザワと音を出した。


「た、助けてください!」


 村長が転がるように草むらから出てきた。

 皆の視線がいっせいに村長に移る。

 咄嗟に、アルメニアは傀儡を解いた。兵士人形とアルメニア人形が一瞬で幌馬車の中に入る。


 視線が村長に移っていることと、瞬時のことでクランベルトらには気づかれない。


「どうした?」


 クランベルトが村長に訊いた。


「あ、あの、罪人の森に迷い込んだ者が!」


 皆の顔色がサッと変わる。


「草原へ!」


 アルメニアは咄嗟に叫んだ。

 クランベルトよりも先にアルメニアが走り出す。

 クランベルトもすぐにアルメニアの横に並んだ。


 もちろん、皆も二人の後を追った。

 小道を抜け商業区画に入ると、さっきまでの生温かい雰囲気でなく、緊迫感が漂っている。


「姫様!」


 流れ大工の四人が血相を変えて近づく。


「俺らの……知り合いなんだ。あ、の、村で一儲けしようと来たけど……」


 つまり、流れ者なのだろう。祭りの村を襲い、金品を奪おうと考えたのだ。

 言い淀んだ流れ大工達の視線がウルとレンジへ向く。


「二人の模擬戦を見たら、腰が引けたのね?」


 流れ大工達が項垂れる。

 あれを見させられたら、手出しなどできない。


「一晩草原に野宿して、今朝方から酒浴びて、気分良くなっちまって、昼過ぎに『罪人の森なんて怖くねえ』って息巻いて入って行っちまった」


 流れ大工達が、止めたが振り切って入っていったらしい。


「何人だ?」


 クランベルトが問う。


「さ、三人です!」


 恐縮したように流れ大工が答えた。


「村長、森を案内できる者はいるか?」


「先代から、すでに森の仕事はなくなり……目の悪い婆ぐらいしか……」


 村長の顔が青ざめている。

 つまり、もう森を案内する森人はいないのだ。


「今から森の捜索隊を要請しても、すぐにはクルツに来られまい。早くて……明日以降、到着が遅れれば二日後か」


 クランベルトが顎を擦る。

 アルメニアは決断した。


「陛下、聖女の力お見せ致しますわ」


「姫?」


 どう思われようが、アルメニアは助けたいと思った。こういうことに躊躇しないのがアルメニアである。


「まずは草原に」


 アルメニアはまた駆け出した。


次回更新→5/24(日)予定

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