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王妃様のお仕事は  作者: 桃巴


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17/25

王妃様は対面します②

 クランベルトは、ステージに立つ娘をジッと見つめる。


「やはり、人形劇の娘でしたね」


 ジェロが呟いた。


「劇が終わったら、声をかけましょう」


 クランベルトは押し黙ったままだ。

 目前の娘は、さっき森で会った娘と瓜二つであるのに、クランベルトには全くの別人に見えた。


『どういうことだ? 娘は二人いるのか?』


 ジェロの言葉は耳に入ってこない。


「おお、佳境ですね。あの発言から『王太子の花園』という題目なのですね」


 ジェロが感心したように話す。

 幕が下りた。

 娘がはける。

 そして、再度娘が出現した。


「おっ、早着替えですか。こりゃ見事ですね」


 ジェロがびっくりしている。

 それ以上にクランベルトはびっくりした。


『この娘だ!』


 鼓動が早くなる。

 一瞬瞳が重なったように思えた。

 ステージの娘が口に手を当ててから、村長を呼ぶ。

 村長と入れ替わる娘が、幕内に消えた。


「私設ギルド……」


 ジェロの呟きも耳を通り抜けるだけ。クランベルトの瞳は、ステージの裏をかすめたクリーム色を捉えた。


「行くぞ」


「え?」


 クランベルトは視界にチラチラかすめるクリーム色を追いかける。

 ジェロらが、慌ててクランベルトに着いてきた。


「ああ、あの娘でしたか。また見失うところでしたね」


 ジェロもクリーム色の髪の娘を目視した。


「あれは、模擬戦の男のようです。双剣を扱っていました。考えてもみれば、この村に相応しくない者です。あのような腕前の者が、村人のわけがありません。……もしかしたら、あの娘はどこかの『姫様』かもしれません」


 ジェロが唸るように言った。

 クランベルトもそれには気づいている。

 男の動きに隙がないのだ。そして、最後尾にいる女も気配をいっさい感じない。あれは、相当の手練れだろう。


 再生通りに入ると、道幅のせいか一列で歩き始め、娘の姿が男に隠れてしまった。


「気づかれたのでしょうか?」


 ジェロが小さく声を落とす。


「ああ、もしかしたらな」


 クランベルトは舌打ちしそうになるのを抑えた。あのような者らの存在が疎ましくもあり、そして期待も持てたからだ。


「あんな警護の者が仕えるなら、ラレーヌの姫かもしれん」


 前の一行が、商業区画に入る。

 クリーム色の髪の娘ともう一人の女が、森を散歩すると言った。男が祭りの片づけをすると言う。


「気づかれていませんでしたね」


 ジェロがホッとひと息ついた。


「森に行きましょう」


 男が二人を見送っている。


「さっさと離れてくれればいいのに」


 ジェロがイライラしている。

 それよりも、クランベルトはクリーム色を目で追う。遠すぎて、どちらの娘なのか分からない。つけている手前、ステージよりも離れている。


「やっと、動きました」


 男が草むらへと分け入っていった。


「追いましょう」


 男の視界からはもう見えないだろう。クランベルトらは、森に入る寸前の娘らを追った。



「あれ?」


 娘らが森に入ってすぐに追いついたというのに、娘らの姿がない。ジェロが忙しなく視線をさ迷わせている。


「あんな目立つクリーム色がどこにも見えません」


 近衛も不思議そうに辺りを捜している。

 そよ風がカサカサと音をたてるだけで、どこにも人の気配がなかった。


「……気づかれていたか」


 クランベルトは呟く。


「え? でもクリーム色の髪の娘はこちらに来ましたよね」


「……クリーム色の髪と桃色の瞳の娘は、二人いるかもしれん」


「は!?」


 ジェロが驚いたように声を上げた。


「本物は、きっと男の方にいたのだろう。まんまとやられた」


 クランベルトは踵を返した。

 ジェロが騒がしいが、クランベルトは何か返すことはなかった。

 元の商業区画に戻ると、人形劇のあった住居区画から戻ってきただろう人がパラパラと歩いている。


「ゼッペルさんがいます」


 ジェロが指を差す。草むらの方に向かっている背が見えた。

 クランベルトは、大股でゼッペルに近寄っていく。


 ゼッペルが草むらに入る。

 そこはさっきの男が入っていったところだった。

 草むらだと思っていたところに小道があったようだ。


「ゼッペル」


 クランベルトは声をかける。

 ゼッペルが振り返った。


「ずいぶん、男前な面構えですな」


 ゼッペルの物言いに、ジェロが不機嫌になる。


「お前の描いた姿絵の者がその辺を普通に歩いていたら、反対に怖いのではないか。この面の方が動きやすいからな」


 クランベルトはニヤッと笑った。


「あの姿は王城専用というわけですか」


 ゼッペルもニンマリと返す。


「それが仕事だから仕方あるまいに」


 そこでゼッペルが深々頭を下げた。

 こういうやり取りがクランベルトとゼッペルの通常なのだろう。


「さて、先に答えましょう。答えません」


 クランベルトは面食らった。


「お前、言葉が矛盾しているぞ」


「ですな。『姫様』のことはいっさい答えませんぞ」


 ジェロが堪らず口を挟む。


「我々は、ラレーヌ国の『姫様』を捜しているのです! クリーム色の髪と桃色の瞳の『聖女様』ですぞ」


 ジェロが鼻息荒く言った。

 クランベルトはやれやれと肩を竦めた。


「お前……明かしてしまったではないか。ゼッペルにしてやられたのだぞ」


 答えぬと言えば、先に口を開くのは問う側の者になる。ゼッペルとて、なぜその娘を捜しているのか訊きたいはずだ。だから、答えぬと先手を打って相手から情報を引き出したのだ。


「相変わらず、頭の悪い従者を重用しているのですな。全く酔狂なことです」


 ゼッペルの言葉に、ジェロの顔が真っ赤に憤怒する。


「わざと隠し立てする者にそんな風に言われる筋合いはありません!」


 ジェロがフンフンと鼻息を荒く言った。


「ジェロ、そうやってまたゼッペルにしてやられるのだ。飄々と佇むことを学べ」


 クランベルトはジェロを諫める。

 ジェロがムッと口を固く閉じて半歩下がった。


「さて、ゼッペル。何も答えなくて構わん。人形劇の娘のところまで案内してくれ。私はお前でなく娘に問うことにするから、答えは娘の口からで構わんのだ」


 ゼッペルが首を横に振る。


「今が何時か分かっておられますか?」


 ゼッペルは指先を天に向ける。


「夜夜中に、女性のところに向かうのですかな? それは……何というか無礼な行いですな。そもそも、その出で立ちで? 先ほどの話からすれば、正装または王城の者と分かる服装でなければ、『姫様』はきっと不審者だと思うでしょうな。いや、怖がりましょう。埃まみれの男どもが訪ねてくるのですから」


 クランベルトは自身の出で立ちを見て、『しまった』という顔付きになった。

 ゼッペルに言ったように周辺に馴染むような出で立ちだ。


 端布屋に言われてから衣服を完全な平民服にしていた。加えて、馬で駆けてきたからずいぶん埃っぽい。流石に、この出で立ちで夜夜中に訪ねるのは不謹慎だろう。


「それもそうだな」


 クランベルトは顎を擦る。


「今夜は宿屋に泊まればいいでしょう。住居区画一番村長宅で宿泊の受付をしていますぞ。明日以降なら、『姫様』に口添え致します」


 クランベルトはフーと息を吐いて頷いた。


「仕方あるまい、いいだろう。では、明日に」


次回更新→5/20(水)予定

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