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王妃様のお仕事は  作者: 桃巴


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16/25

王妃様は対面します①

 結局、アルメニアは影武者アルメニア人形を操り、人形劇を披露した。人形に人形劇をさせる構図は、ベネーラの町の時と同じである。

 題目は『王太子の花園』。新しく売り出された絵本をそのまま演じた。


王太子

 行かないでくれ!

姫 様

 いいえ、私はあなたの隣に相応しくありません

王太子

 君しかいない! 私の隣は君しかいないんだ!

姫 様

 麗しい花々の中にいる野花が物珍しいだけですわ

王太子

 いいや、君は花ではない。花は観賞するだけの存在だ。私が望むのは、その花園を一緒に歩く存在。我が花園をともに歩んでくれないか?


** 王太子が姫の手を取った。

** 姫がゆっくり顔を上げる。

** 王太子と姫の顔が近づいていく。

** 動きに合わせて幕が閉まっていく。

** 重なる寸前で幕が閉まった。


 観客から感嘆が漏れると同時に拍手が巻き起こった。

 アルメニアは、奏でていた手を止めた。

 幕内で人形がパタリと倒れる。

 アルメニア人形だけが、動いて観客の前で頭を下げた。


「ありがとうございました」


 それだけを言って、いったん下がらせる。

 アルメニア人形と入れ替わるように、アルメニアは観客の前に姿を現した。

 観客には、一瞬で服装が変わったように見えるだろう。

 アルメニアはギルドの受付嬢の服装で、観客を驚かせる。


「明日から商業区画四番で私設ギルドがオープンします! 仕事を請け負いたい方は、ギルド員登録を! 仕事を頼みたい方は受けつけでご依頼ください!」


 アルメニアは、声を張り上げて言った。そして、ゆっくり会場を見回していく。


「あっ」


 思わず漏れた声を止めるように、手を口に当てる。

 先ほどの男がアルメニアをジッと見つめている。

 ドクンドクンと心臓が主張し出す。

 サッと視線を逸らして、軽く呼吸を整えた。


「村長、後はよろしくお願いします」


 アルメニアは村長と入れ替わった。

 幕内に入るとすぐにステージ裏から下りて、人目を避けるように家屋の裏を移動する。


「姫様、どうしたのです?」


 すぐにウルがアルメニアに追随する。その後ろにはもちろん人形を抱いたメリッサもいる。


「早く馬車に戻ろうと思って」


「急ぐ必要はありますか?」


「き、着替えるのよ。姫様らしくないってウルだって言っていたじゃない」


「人前に出て、やっと自覚しましたか。それは良い兆候です」


 アルメニアは満足げなウルにウンウンと頷いてみせる。


「姫様、何やらつけられております」


 メリッサが言った。

 アルメニアは後ろを振り返りそうになるが、ウルが制した。


「メリッサ、上手くまけるか?」


 メリッサが答える前に、アルメニアは二人に言う。


「こんな時のアルメニア人形だわ」


 アルメニアはメリッサに抱かれたアルメニア人形を受け取る。


「では、二手に分かれましょう。メリッサと影武者で森に行ってください。私は姫様を馬車まで送ります」


 すでに再生通りに入っていた。


「商業区画に入ったら左右に分かれ、姫様と私は草むらに身を隠しますよ。メリッサは森へ」


 ウルが指示を出した。


「森に入ったのを確認したら、人形に戻すから」


 呼吸を合わせて、三人で動く。

 商業区画が見えてきた。

 先頭のアルメニアのすぐ後ろにウルがピタリと連なる。これで、背後からアルメニアの存在は分からなくなる。

 アルメニアは、影武者のアルメニアを起動させた。


「疑われないように、分かれるわよ」


 アルメニアは、足を止める。

 アルメニア人形とメリッサが右にずれる。

 背後からは、ウル一人とアルメニアとメリッサの二人の構図に見えるはずだ。


「私達は、森を散歩してくるわ」


 アルメニア人形が言った。


「そうですか。では、私は祭りの片付けをしておきます」


 ウルが通る声を出す。


「手伝った方がいいかしら?」


 アルメニア人形が小首を傾げた。


「いいえ、大丈夫ですよ。力仕事ですから」


 至って普通の会話をして、左右に分かれる。

 ウルは森に向かう二人を見送る。

 それから、ゆっくり草むらの方に移動した。

 背後の者らは、どう動く? どっちをつけるのか。

 アルメニアは気配を隠し、ウルと連動した。草むらをガサガサ分け入る。


「……こっちにはつけてきていません」


 ウルが眉間にしわを寄せた。


「つまり、私をつけているの?」


「まあ、そうなりましょう」


「何が目的なのかしら?」


「女性をつける目的など、一つしかありません」


「つまり?」


「不埒な輩でしょう」


 アルメニアは目をパチパチ瞬かせた。


「それは、私がとっても魅力的だということ!?」


 ウルが呆れた顔になる。


「姫様のそのポジティブな思考、どうにかなりませんか?」


 ハァとため息をつくウルに、アルメニアはクスクス笑った。


『姫様、森に入りました』


 メリッサの声が聞こえてきた。


「分かったわ」


 アルメニアの意思で森の人形達は元の姿へと変わる。小さな人形が草丈で移動しても、きっと周囲には気づかれない。


『姫様、あの者です』


 メリッサの言葉は続く。


『あの森で姫様に声をかけた男、それと……加えて四人。何やら、おかしな集団です。見張らなくていいですか?』


 アルメニアは、メリッサの言葉に焦る。何がどうという理由なく焦る。


「待って、さっきの男?」


 その呟きに、ウルが反応した。


「姫様、どうしましたか? メリッサは何と?」


 アルメニアはトクトクと動く鼓動を鎮めるように、胸に前で手を組んだ。


「えっと、とりあえず戻って」


『了解しました』


 メリッサの返答で、一旦アルメニアは気を収めた。


「姫様?」


 ウルがアルメニアを覗き込む。


「要するに、私は魅力的なのよ。うん、そう……だけど、私の心はクランベルト様のものだもの。あんな髭面『お呼びじゃないわ』」


「……そんな台詞、どこで覚えたのです?」


「端布屋のおばちゃんが露店で言っていたじゃない」


 ウルがガクンと肩を落とす。


「姫様を野に放つと悪影響しか受けないようですね」


 嘆かわしいと、ウルが頭を振る。


「戻りました」


 メリッサが戻ってきた。小さな人形のままだ。アルメニア人形も一緒である。


「お帰り」


 アルメニアの言葉と同時にメリッサが大きくなる。


「姫様が目的のようです」


 メリッサが続けて『王城からのお迎えの者らかもしれません』と告げる。


「クリーム色の髪と桃色の瞳を口にしていましたから」


 アルメニアは瞬時に身構えた。そして、呟く。


「楽しい時間っていつだって短いのね」


 弱々しい笑みに、ウルもメリッサも返す言葉が思い浮かばなかったのだった。


次回更新→5/19(火)予定

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