不眠症ヒーローへの手紙。
「あっ、ヒーローのお姉さん……!」
「よう。久しぶり。元気してた?」
私たちがエレベーターから降りてきたのに気付いた優紀ちゃんが、こちらを見て駆け寄ってくる。
黄色の可愛いリュックと、今時の子って感じの服装に身を包んだ彼女は、もうすっかり元気な顔だ。
「お前、家帰ったんだろ?また来たのか?」
「はい。ヒーローさんにお礼言うの忘れてたから……」
「あー、まずその“ヒーローさん”ってのやめようか。なんかムズムズする」
「え、じゃあなんて呼べば……」
一暁先輩の突然の言葉に、戸惑ったような声と、視線をこちらに向ける優紀ちゃんに、先輩は少しかがみこんで、
「私の名前は天野一暁。ほら、名前教えたんだから、名前で呼べって」
先輩がそう言うと、優紀ちゃんはさっきまでの戸惑いの表情はどこへやら。
一気にパァァ、と音が鳴りそうなくらいに表情を明るくさせて「一暁さん!!!」と呼んでいる。
なんか優紀ちゃん子供みたい……って、子供か。
「あ、一暁さん。渡したいものがあるんです」
「お?なんだ?」
黄色いリュックをガサゴソと漁り、何やら茶色くて横長の、レトロな雰囲気の地球のイラストが描かれている封筒を取り出す。
「これ…なんですけど」
「中身は見たのか?」
優紀ちゃんがリュックを背負い直しながら、神妙な顔で首を横に振る。一暁先輩が封筒を受け取り、不思議そうな顔で裏と表を交互に見る。
「何で中身見なかったんだ?」
「宛先とか何にも書かれていないのに、私の家に届いたから不思議に思って……。何かちょっと怖くて……」
私たちも近寄ってその封筒をのぞき込む。
本当だ、宛先も何も無い。
蒼弥先輩が眉をひそめて唸り、翔斗が珍しく表情筋を使って怪訝な目をする。
一暁先輩がゆっくりと封を開けていく。
どくん、どくん、と私の心臓が鳴り響く音が聞こえる。中の2つ折りにされている手紙を取り出して、開いた。
拝啓 これを読んでいる皆様へ
初めまして、とは言えませんね。
お久しぶりです。天野一暁さん達、ヒーロー課の皆様。
私はあなた方が血眼になって追いかけている、Darkworldの者です。
この度、小さな子供を誘拐するという不祥事を起こしましたが、あれはほんの序章です。
これからまさに“世界が暗くなる”ほどの悲劇を起こしていこうと思う所存です。
どうかあなた方が、これを読んで無駄な足掻きをしてくれますように。
Darkworld ノワール