不眠症ヒーローの思い出。
「よしよし、よく耐えたな……」
「っう……ひ、うっ……ん」
一暁先輩が椅子に座らせ、そこでボロボロ涙を流す優紀ちゃん。必死にパーカーの袖で涙を拭ってる。
その顔を覗き込むようにしながら、優しい微笑みを浮かべて優紀ちゃんの頭を撫でる先輩。
まるで姉妹みたい。
「そう思いますよね?蒼弥先輩」
「え?何が?」
はぁ、分かってないなぁ。
そしてその空気が読めない蒼弥先輩は、優紀ちゃんと一暁先輩の所へ向かう。
「ほら、もう行くぞ。親御さん待ってるから」
「は、はい……すみません」
「ほら、ハンカチ」
「ありがとうございます」と言いながら一暁先輩のハンカチを受け取って、目の下に持っていく優紀ちゃん。
一暁先輩に背中を押されつつ、少しだけふらつく足取りで歩いていく。
「さ、私たちも行こっか」
「そうだな」
「……ねえ、翔斗」
「何だ?」
「や、何でもない」
『一暁先輩のこと、すきなんでしょ?』
……まだ言わない。聞きたくないし。
出かけたこの言葉を胸に押し込んで、翔斗くんの背中を叩いてから先を走った。
*
「……すぅ…………」
優紀ちゃんを親御さんに引き渡したあと、警察庁に戻った俺と一暁。後輩2人はさっさと帰らせて、俺たち2人は報告書を作ってた。
終業時間。一暁は散々ごねていたが、無理矢理ロッカールームに入れたあと、隣の男子更衣室にまで聞こえるほど大きなガシャンという嫌な音が響いた。
女子ロッカーを恐る恐る覗くと、やはり一暁が倒れていた。
「……お前なぁ」
「……ん、あぁ……そうや」
俺が声をかけると簡単に目を覚まし、目元を擦りながら更衣室の真ん中にある青いプラスチックの椅子に座る一暁。
「俺がいたから良かったものの……お前本当に」
「大丈夫!今日はちゃんと寝るから!」
そう言いながら立ち上がって俺を男子更衣室の入口に押していく一暁は、バツが悪そうな顔をしていた。
*
「……はあ」
今日もやっちゃったな……また蒼弥に怒られたよ。
気が抜けるとついつい寝ちゃうんだよな。うん。
家に帰る途中の電車でも乗り過ごししかけたし。
マンションはオートロック。
いちいち鍵出して開けないといけないからめんどくさいなぁなんて思いながら、鍵を解除して自動ドアを通る。
家の鍵を開けて、バッグを放り投げスーツを脱ぎ捨て、即お風呂に入る。
「あぁー……気持ちいい」
その後しっかり体と頭を洗って、夜ご飯の代わりに栄養ドリンクを飲む。
体に悪いのは分かってるけど、今日は何だかやる気が起きない。特に見たい訳でもないニュース番組をつけて、ソファに座る。
…………もう寝るか。
さっきつけたばかりのテレビを消して、ベッドに入る。
……今日は、寝れるかな
*
「お前は早くここから出ろ!!」
「でもおとう……先輩!」
「さっさと行け!」
「あの時、娘さんが無茶したのをかばって殉職したって……」
「母親が人質で……」
「惜しい人を亡くしたな……」
「オ前があンな事をシなキャ、アノ人はイなくナラなカッタノに」
「お前ハ必要ジャなイ」
「サッサと死ネばよかッタンダ」
「「「「「イ ナ ク ナ レ……」」」」」
「っ!……はぁ、」
やっぱり、明日も寝不足だ。