不眠症ヒーローの救出劇。
「チッ!!アイツ気づいてぶっ壊しやがった!」
手に持っていたスマホを投げ捨てる、私を誘拐したガラの悪いおじさん。
ガラクタの沢山ある机に投げたから、スマホが打ち付けられた衝撃で、ひどい音を立てて崩れていく。
怖い……怖いよ……
急に意識がなくなって、気付いたら私は真っ暗闇の中で。
多分椅子に座らされていて、手と足が動かせないから手と足が固定されていて、何度瞬きしても真っ暗だからアイマスクみたいなのもさせられてる。
お母さん……お父さん…………誰か…………
………………………………ヒーロー、
来るわけない……よね、こんな誘拐なんて、小さな事件だもん。
…………来てよ…………誰か……!!
「……だ」
「あぁ?」
私の出した、小さな小さな声に気付いたおじさんがこちらを振り向く音がして、心臓が止まりそうになる。
……でも、それでも……!!
「誰かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
こんなに大きな声、久しく出していなかった。
おかげで私の声は途中で勢いをなくしてガラガラの掠れた甲高い声しか出なくなってしまった。
「テメェェェェ!!!」
おじさんが走って近づいて来る音が聞こえた。
やばい、私、死んじゃうかも……?
次の瞬間、ドッと鈍い音がした。
でも、私は痛みを感じていない。
不思議に思って、次に聞こえてくる音を確かめる為に黙っていると
「よく、叫んでくれた。ありがとう、おかげで……君を、見つけられたよ」
知らない女の人の声がする。
ドサッ、と何か重いものが床に倒れる音がして、あのおじさんの呻き声が聞こえてきた。
突然、視界が明るくなった。誰かがアイマスクを取ってくれた……?
あまり自由には動かせない体を無理矢理動かして後ろを振り向いた。
するとそこには、同じ女である私も見惚れる程綺麗なお姉さんが、真っ黒なアイマスクと銀色に光る手錠と足枷をプラプラと揺らしながら私に見せて、ウインクした。
「ごめんね、怖かったでしょ?でも、もう大丈夫」
「……クソッ……!!」
おじさんが呟いたのが聞こえて、私はすぐさま前に向き直った。
倒れていたおじさんが起き上がって、腰の近くから何か銀色に鈍く光るものを取り出した。
あれは……ナイフ!?
「ダメ!危ないから逃げて!!」
「あー……えっと……あー…………翔斗」
「優紀ちゃんです」
横から声がして隣を見ると、さっきのお姉さんに負けず劣らず顔が整った男の人がいた。
えっ、い、いつの間に?
「優紀ちゃん、大丈夫安心しろ。私たちが誰だか知ってるか?」
「くたばれェェェェェェ!!!!」
ナイフを両手で持ち、走り寄る犯人に物怖じせず走り寄るあの人は…………ヒーロー。
「救けて、ヒーロー!!!!!」
「オラァァァァァァ!!!」
あのヒーローにナイフが刺さると思った瞬間、ヒーローは横に体をずらして腕を脇で挟み、手首を捻ってナイフを落とす。
その手首を持ったまま、犯人を柔道の技のように投げた。地面に人の肉が打ち付けられる鈍い音がして、犯人は動かなくなった。
ヒーローは地面に落ちたナイフを拾い、自分の太もも近くのホルダーに突き刺した。
その瞬間、私の体に巻きついていた縄も取れ、私は何故かヒーローの方に歩み寄っていた。
「あ、の……」
「よく耐えたな。ありがとう」
その言葉と、ヒーローの微笑みと、頭に乗せられた暖かい手の重さに、今まで出なかった涙が一気に零れ落ちた。