不眠症ヒーローの頭脳戦。
「あーーーー見つからないぃぃぃぃ……」
「これだけ探して見つからないってことは……」
「もうここにはいない可能性が高いかもしれませんね」
捜索開始から約3時間──
一暁たちは誘拐が報告された地域から半径10キロを走りながら、犯人が隠れられそうな場所を徹底的にくまなく探していた。
流石の体力お化けの彼らの顔にもやはり疲労が浮かんでいた。
一暁は考える人と似たような格好をして、静かに思考をめぐらせている。三葉は少し背伸びをして、一暁の肩の上に腕を乗せ彼女にもたれ掛かる。
「Darkworldの末端の組織……か」
「せぇんぱぁい……どうしましょう……」
いくら鍛えているとは言っても、潜入捜査に長けた三葉の肢体は不自然に思われない程度の肉体を保たなければいけない。
肉弾戦の為に鍛えている他の3人との体力差はかなり激しい。まだ息が上がった状態で一暁の体から離れる。
「1度戻って作戦を立て直しますか?」
「……おい一暁?」
翔斗の声に何も反応しない一暁に蒼弥が異常を感じ取って声をかけた瞬間、一暁は前のめりに倒れた。
「よっ……と」
突然倒れた一暁を片腕で支えたのは、蒼弥であった。
その腕の中で聞こえる呑気な寝息に、後輩2人は安堵の息を漏らした。
「またいつものですね」
「だな。まぁしょうがねぇよ。戻るか」
蒼弥は一暁をおぶって、先に道を戻っていった後輩2人を追いかけた。
*
「……ん……」
目を開けると、薄暗い部屋にいた。
カーテンが光を遮っている。風で揺れる度に眩しい太陽がこちらの目を刺してくる。
あぁ、ここは──
「起きました?大丈夫ですか?」
その声にゆっくりと体を起こせば、三葉がペットボトルのお茶を2本持って仮眠室の入口に立っていた。
「もう、急に倒れるんだからビックリしちゃったじゃないですかぁ」
そう言ってハムスターみたいに頬をムスッと膨らませながら、ペットボトルをぶっきらぼうに私に差し出す。
「はは……ごめんごめん」
「…………そう思ってるなら、ちゃんと寝てください」
「うん……そうだね、寝るよ」
三葉は大きなため息をついて、ベッドの近くにあるパイプ椅子を引きずり出し、そこに座った。
そして大きく息を吸って、
「いいですか、ここは“仮眠室”なんです。寝室じゃないんですよ!!」
「うんうん。分かってる分かってる」
「……あっちで蒼弥先輩と翔斗が作戦立ててますから、早く戻ってきてくださいね」
「あ、そうだ、その事なんだけど……」
私は、さっき自分の瞼が落ちる前に至った答えを三葉に耳打ちする。その答えを聞いて彼女は、茶色く形のいい目を見開いて、口笛を吹いた。
「まさか……そんなことって」
「可能性はある。その証拠に、ほら」
私は制服のポケットの中に入れておいた機械のクズを手のひらの上に乗せて三葉に見せる。
「?……これって?」
「隠しカメラ。私のポケットに入ってた」
私はもう一度、三葉の方に向けて手のひらを動かして、受け取れのモーションをする。
それに気付いた三葉は、私の手の下に自分の手を差し出した。私は手を傾けて三葉の手の上にクズを落とす。
さて、これが吉と出るか、凶と出るか……。