不眠症ヒーローの出動。
出動に合わせて制服に着替える一暁たちは今、更衣室にいた。女子更衣室では、一暁と三葉が黙々とスーツを脱ぎ、制服のボタンを留めていた。
「……先輩って、ある意味私より凄いですよね」
「……何が?」
三葉の視線は明らかに一暁の胸元に注がれていたが、一暁はそれに気付かないフリをした。いや、気付きたくなかった。
着替え終わり、更衣室を2人で出ると、そこにはもう既に着替え終わった男子2人組が雑談を交わしていた。2人の視界に一暁が入ると、2人は一暁に歩み寄った。
「さぁ、行こうか
こうして私たちが呑気に着替えてる間にも、ゆ……ゆ、ゆ……」
「先輩、優紀さんです」
「あ、そうそう。ナイス翔斗」
人の名前すぐ忘れるの直さないとな……と翔斗にサムズアップしながら一暁は思った。咳払いをして、崩れた厳正な雰囲気を持ち直してもう一度言い直す。
「優紀ちゃんは、もしかしたら泣いてるかもしれない。一刻も早く見つけるぞ」
「「「はい!!!」」」
3人の大きな返事を聞けば、一暁は身を翻してヒーロー課の部署がある部屋に戻り、一暁のデスクの近くにある大きな窓から一暁は飛び降りる。
すぐ下にある民家の屋根に軽く着地して、下から“来い”というハンドサインを示す。
実はこの民家はヒーロー課のもので、屋根に乗っても何も言われない。
以前近くに住む人達にいちゃもんをつけられた一暁が、その場で一括払いで買ったのだ。
『はいはい分かりました。私、この家買います。幾らですか。銀行から2000万持ってきたんですけどこれで足りますか』
あの近所のおじさん、驚いてたなぁ。
その時の事を思い出して翔斗はクスリと微笑む。
滅多に笑わない翔斗でも、一暁のこととなると途端にポーカーフェイスを崩す。
自分が飛び降りる順番が来て、民家に着地し、一暁の表情を覗いてみれば、いつもの締りのない顔とは少し違う、ヒーローの顔になっていた。
俺も、笑ってる場合じゃない。
深呼吸して脳内をリセットし、頬をパチンと叩いて表情を引き締めた。