不眠症ヒーローのお仕事。
「……これ読めばいいの?」
仮眠室で呑気に惰眠を貪っていた一暁は、突然翔斗に無理矢理叩き起された。未だに眠気を引きずり、目元を擦る一暁の前でこくんと静かに頷く翔斗。
彼の隣には、朝のようにきちんと隣に並ぶ三葉と蒼弥の姿。2人とも不思議そうな顔をして一暁の話を待っている。
島田から聞いた情報を走り書きした紙に少し目を通し、面倒くさい、と言いそうな表情で一暁が文章を読み上げる。
「えー……名前、広野優紀さん。年齢は15歳。
現在、迷子として警察に届けられていますが、誘拐の疑惑が浮上し、ヒーロー課に押し付けられました」
「押し付けられましたって……」
蒼弥が顔を引くつかせ、三葉が苦笑いし、翔斗は我関せず、といった様子で立っている。
「はーい先輩、その……優紀ちゃん!優紀ちゃんは誰に誘拐されたか分かってるんですか?」
元気良く、手を挙げながら尋ねた三葉の言葉に、一暁は視線を紙に移し、文字を目で追う。
「えーっと……誘拐犯は Darkworldの末端の組織、という情報があります」
「Darkworldって……!」
三葉は目を見開いて声を上げた。蒼弥も静かに息を飲んだ。
Darkworldとは……
今を生きる者で知らない人はいない、世界最大の犯罪組織。
今やこの地球に住む人間の多くは知らず知らずのうちにDarkworldに加担している末端の人間だと言われている。
実は一暁たち、ヒーロー課が設立された理由の大半は彼らを追うこと。
そんな組織が…………なぜ誘拐、そして一般市民を狙ったのか。
一暁は静かに手に持っていた紙を握りしめていた。彼女の耳に、2人が騒ぐ声は届いていなかった。
*
出動に合わせて制服に着替える一暁たちは今、更衣室にいた。女子更衣室では、一暁と三葉が黙々とスーツを脱ぎ、制服のボタンを留めていた。
「……先輩って、ある意味私より凄いですよね」
「……何が?」
三葉の視線は明らかに一暁の胸元に注がれていたが、一暁はそれに気付かないフリをした。いや、気付きたくなかった。
着替え終わり、更衣室を2人で出ると、そこにはもう既に着替え終わった男子2人組が雑談を交わしていた。2人の視界に一暁が入ると、2人は一暁に歩み寄った。
「さぁ、行こうか
こうして私たちが呑気に着替えてる間にも、ゆ……ゆ、ゆ……」
「先輩、優紀さんです」
「あ、そうそう。ナイス翔斗」
咳払いをして、崩れた厳正な雰囲気を持ち直してもう一度言い直す。
「優紀ちゃんは、もしかしたら泣いてるかもしれない。一刻も早く見つけるぞ」
「「「はい!!!」」」