不眠症ヒーローの仲間たち。
「はぁーいおはよう皆の衆。顔は洗ったか。昨日はちゃんと寝たか」
「それ全部センパイにお返しします」
間延びした声を出しながら後輩の前に立ち、目を擦りながら後輩からの返事を受け取る一暁。
もういつもの事だと割り切っている目で一暁を見る彼女は、ヒーロー課1の美少女 唐洲三葉。
ツヤツヤの黒髪ロングヘアと、大きな桃色の瞳。
その美貌を武器に、敵の懐へ潜入捜査をして情報を集める、まさにヒーロー課の縁の下の力持ちと呼べる存在である。
「先輩、また寝てないんですか。クマ酷いですよ」
お決まりのポーカーフェイスで一暁を心配する彼は、雨嶺翔斗。
ヒーロー課1のイケメンであり、強靭な肉体と、鍛え抜かれた武道の技を持つ青年だ。
身長も高く、持ち前の甘いマスクも手伝って別の部署にいる女子たちにモテている。
「あれか、お前、俺が昨日送った動画ツボって寝れなかったんだろ。あれ面白いよな」
「え?何それ。全く知らないんだけど」
一暁に問いかけた彼は、一暁の同僚、渡辺蒼弥。
普通。とにかく普通。
空手、柔道のそれぞれ最上クラスの段を持っているが、ヒーロー課ではあまり誇れない。
そんなにカッコよくもなければ、女子にもモテない。それが渡辺蒼弥という人間だ。
「はーい健康観察。右から、唐洲」
「はーい!」
「雨嶺」
「はい」
「…………誰だっけ」
「テメェ!」
*
パソコンのキーボードをカチカチと叩く音だけが響く部屋に突然電話のベルが鳴る。
普通なら課長である一暁が取るのだが、翔斗が仮眠室に押し込んで寝かせてしまった為、彼女は今ここにはいない。
どうせいつもの“あの人”だろう……。
そんな失礼な事を考えながら翔斗が受話器を取る。
「はい、こちらヒーロー課」
「あれ?天野くんじゃないの?」
「雨嶺です」
「あぁ、雨嶺くんね!早速なんだけど、君たちに仕事が入った!」
電話の主は、同じく警察官の島田弘樹だった。
「ヒーロー課だから」と、何かにつけて仕事を押しつけてくる迷惑な奴だ。
「……何ですか」
「迷子探してきてくれる?」
「それくらい島田さんでもできるでしょ」
「えぇ?だって君ら、ヒーローじゃん。これくらいお手の物でしょ?」
ヒーローを引き合いに出さないでもらえませんか……と内心毒づきながら、バレない程度にため息をついて
「……分かりました、先輩に言っておきます」
「ありがとうっ!」
「で、迷子の特徴は…………切れた」
翔斗はまた1つため息をついて、電話のボタンを押した。