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ナイネンキ  作者: リッキーポエム
4/4

少年は燃料を給油した

「テメエまじ許さねえ!!」


マニクールエレクトロニクスの店内でルカは大暴れしていた。


「待てルカ。とりあえず商品がダイナシだ。弁償させるぞ」

「うっせバカ!タメオは俺に仲良くしてくれた唯一のカチグミだ!あいつがもしケンキョされたらどうするんだ」

「落ち着けルカ!」

「俺のせいで!タメオをそそのかすようなこと言ったかもしれない!」

「やめろ落ち着け!」


「やめてなの!ルカ、らんぼうはダメかもしれない!サカガミさんこまってるかもしれない!」

幼女がルカを制止しようとする。この子はルカのゲンツキのツクモガミだった。栗毛で鳶色の瞳をした西洋人形みたいな姿をしている。



「なんだよ外で待ってろって言ったろ」

「ルカなら、ネーネといっしょにそのともだちをまもれるかもしれない」

「は?」

「ルカとネーネはさいつよかもしれないんでしょ??」

この子のいうネーネとは姉貴分の996R、あの美しい金髪碧眼の爆乳少女のことである。

「それに、ともだちも走りたいんでしょ?そのともだちのタンシャにもあいたいかもしれない」

「それは俺もタメオが何を作ったか見たいかもしれない」

「ともだちはここではたらくなら、まってればくるかもしれない」

「一応、明日から入ってもらう予定だが」

「何させる気だよ運び屋とかさせるんじゃないだろうな」

「計算問題解いてもらうだけだ。お前みたいに肉体労働するしかないようなタマじゃないよ彼は」」

「ぐぬぬ〜」


ルカは指名手配犯、A級の「キッズ」だ。


キッズとは、ナイネンキを駆る者の、殆ど総称と言える。殆ど、ナドトいうのは、ナイネンキを走らせるからと言って派手に走るとはかぎらないからだ。私有地で走らせるとか、コレクション目的の所有も中にはある。

キッズは四輪、タンシャ問わず幅広い活動をしている。

だいたいチームを組織しており、車両整備やコーキ取締情報の共有などをして、活動範囲を広げている。


最たるものがSS(スペシャルステージ)というものだ。


どこかで匿名のスポンサーから開幕が告げられる。スタート場所と時刻、ゴールが公表されるとそこを最速で駆け抜けた者に賞金が支払われる非合法賭博である。


主催者は謎に包まれており、一説には警察組織の高官とも噂されている。



そう。

そもそも内燃機関の廃止もそうだが、社会とは矛盾だらけなのだ。


「ん?」


ルカのIDに着信があった。

SS開催の報せだった。

「レースなの?またぶっちぎりかもしれない!」

「おう。今回はトウゲか」

トウゲと呼ばれる曲がりくねった山道や、シュトコーと呼ばれる都心高速道路が人気のステージだ。特にトウゲはコーキの拠点から距離があるため、事前に開催情報が漏れていない限り取締の危険性が低い。

「今日は帰る」

「わーい!ネーネのでばんかもしれない!」




数時間後の山道。10台以上のタンシャが既に結集していた。


ドゥルーーン……


ルカのタンシャの音が聞こえると緊張感が高まる。

こんなローカルなレースではルカは敵なしだった。

チーム「ストラダーレ」のエースライダー、ヤマベ・ルカは近く国際A級の手配に格上げされる噂だ。


「ルカ?今日も居ないみたいだネ」

「ああ……」

ルカはライバルを気にしていた。時々トップ争いをする相手を最近見かけなくなったのだ。

ツネミツという名の高齢なキッズで、若手の最初の壁として長年ノービスのまま地方SSにこだわり続けていた。

ここ数戦、やっとルカが安定してツネミツを抑え切る速さを身につけた頃からなぜか姿を見なくなった。


熟年キッズがルカに話しかける。

「ツネが気になるのか?アイツは捕まったよ」

「ー!!!!」

「一ノ瀬トウゲでやられた。谷底に落とされて、マシンもまだ見つかってない」

「そんな!いつ!?」


ルカは動揺した。

「リエゾンを襲うコーキが居るらしい。SS前とか終了解散後の単独走行を狙われてやられたそうだ」

「そんな事あるんスか?!」

「ルカも気をつけてくれよ。お前なんか確実にターゲットにされてるからな……」

「はい……」


「ルカ、集中しなきゃ駄目だヨ」

「わかってる」


過去レース実績でスタート位置は決められている。

ルカは並ぶタンシャの列をすり抜け先頭のグリッドに着いた。いよいよスタートである。


各自のIDにシグナルが送信された。

3・2・1……


ドオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!


一斉に合計16台がスタートした。

先程の報せで受けた動揺は何処へか、ルカは完璧なスタートを切った。


好敵手としてリスペクトしてはいたが、ルカの本能はそれ以上に、コレで来季の国際A昇格はほぼ当確、という事実を推し、走るモチベーションに変換した。


「素敵だヨ、ルカ……きっとクローズドで大手を振って走れる日が来るヨ」

この上なくクールに走るルカを996Rは讃える。


長い手足を巧みに使い、美しいフォームでコーナーを駆け抜ける。Vツインのディストーションのきいたビートとは裏腹に、軽快に、羽毛のごとく舞い、ルカは後続をあっという間に視界から消した。


チェッカーを受け、ルカは賞金の振込をIDで確認した。

チームからも賞賛のメールが何件か届いた。





約束された勝利故に余韻に浸るほどでもない気分で、これから悠々と拠点へ帰投するところだった。


「ルカ……コーキがくるヨ……」

「!?」


ビュゥゥウウーーーー!!!


突如、斜め後方から白バイが一台合流してきた!

「なんで!?しかも単独で!?」

「いつものやつと違うヨ。もしかしたらツネを屠ったやつなのかもしれないヨ」


速い!

ライバルだったツネミツと同等かもしれない。

白バイは突如幅寄せしてきた。


ガッ!!


二台は接触した!

危うくバランスを崩しそうになったがどうにか持ちこたえた。タンシャでのコンタクトは一歩間違えば相打ちなのに、なんと大胆な。


その後も、ギリギリのオンザレール走行の中で僅かな隙を突いては白バイは接触を仕掛けてきた。

向こうの方が車重がある分、接触した時に大きくバランスを崩すのはルカの側になる。

「痛い……ルカ……大丈夫なのかナ……私たちもやられるのかナ……」

車格の違いに996Rは弱気だった。

「安心してくれ。俺はお前をコカさない」

ルカは至って冷静だった

「もっとペース上げれるヨ?」

「わかってる……少し我慢してくれ」

軽量な996Rはコンタクトを嫌った。


コーナーでのプライオリティはルカにあった。

この白バイは大排気のガソリンエンジンを搭載しており、加速は強いがコーナーに少し劣るようだった。

逆にいうと、なぜルカはコーナーで引き離さないのか。


「一回目のコンタクトでもっと強く当たってたら結果は違ったかもなw」


というモノローグと裏腹に、ついにコーナリング中にアウト側からコーキが半身ほど先行する。

「抜かれるヨ!」

ルカは加速する。

ドゥルルゥーーーーーン!!!

「開けすぎだヨ!!滑るッ!!」

996Rの後輪がスライドする。焦ったか!?

だがその先にコーキの前輪があった。


ドッ!!


ルカに追従するためやや無理をしていたコーキの前輪が外力を受けてはひとたまりもない。


ガガガッ!!!!ズシャーーーーーーーーー!!!!!


コーキは前輪を掬われる格好で呆気なく転倒を喫した。



一瞬でその場を離れ、ルカは悠々と帰投した。

「すごい!ルカ!!やったネ!!」

「こんなの朝飯前さ。これで満足してたらキャプテンに笑われる」

「でも今の白バイ……初めて見たヨ」

「ああ……あんなのが何台も来たら俺らは……」

「それより頑張ったでしョ。今度はマルティニ飲ませてネ!」

「そうだな。キャプテンに相談してみる」

「約束だヨ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その頃、タメオは困っていた。


「マスター?ビールはまだかしら?」

自宅の廊下で唐突に具現化するNSR。

タメオは燃料を催促されていた。

「いや……その……家族に見つかっ……」

「こないだみたいに冷蔵庫からコッソリ頂戴してきたらいいじゃない」

「それは……」

実はあの後、ビールが一本減ってると父が大騒ぎしていた。

「そんなのコンビニで買えばいいじゃない」

「未成年が買えるわけないだろう」


このID時代にそれは確かに無理がある。


「お?タメオ?彼女か??」

「げ!」


父に見つかってしまった。


「ん??ツクモガミの娘さんか。何か中古のハードウェアでも買ったのか」

「はじめましてお父様。NSRです」

「こりゃ礼儀正しいツクモガミだな。縁起が良い。名前からして本体だな。もしかして勉強もこの子に見てもらってたのか」

「アハハ……その、これはあの」

「お父様、ビールなど頂けません?」

「!!!」

「おー、酒好きのツクモガミか。いいぞタメオ。適当に好きなだけお供えさせて頂け」

「ありがとうお父様。きっと更なるご利益をもたらしますわ」

「そりゃ有り難い!いまあるのはじつは雑酒なんだ。今度からきみ専用にビールを買うようにしよう。リビングにも堂々と顔を出してくれたまえ」

「まあ嬉しい!タメオ、素敵なご家族ね!」

「あ……アハハハハ……」


期せずしてNSRの燃料は確保できてしまった。


「話のわかるお父様ね」

「うるさい!」


タメオはまだ、事の重大さが解っていなかった。

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