ドライな俺と変態少女
時刻は夜の10時。
部屋に入ると、そこには俺のパンツの匂いを嗅ぎながらハァハァ言ってる女子高生がいた。
変態だ。
変態女子高生だ。
アルバイト先の都合で少し早めに帰ってきたら、俺のアパートの部屋で変態女子高生が変態行為を繰り広げていた。
俺の帰宅に気付いた女子高生が驚愕の表情でこちらを見ている。
いや違うだろ。
それは俺がするべき顔だろ。
「ち、ちち違うッ! これは違うんです!」
「よし、聞こうか」
どうやら違うらしい。
座布団を敷いて座るよう促した。
面倒なことになったもんだ。
キッチンで二人分のお茶を淹れ、ついでに通帳等の貴重品の無事も確認する。
部屋に戻り、座卓を挟んで変態と向かい合う形になった。
とりあえず思ったことを口にしておく。
「お前、同じクラスの新山千代だよな?」
「イイエ、チガイマス……」
おっと違ったか。
瓜二つと思ったんだが。
てかその制服ウチの高校のだよね。
あなた小鳥遊高校の生徒さんですよね?
「いや、ちょっと何言ってるか分かんないですね……」
俺は座卓をバンッと叩いた。
「言い逃れできると思うなよ、新山千代」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ! 新山千代ですぅぅぅぅぅ!」
やっぱりか。
「どうしてそんな嘘ついた、そんなすぐバレるような嘘を」
「だって……古柴くんに嫌われたくないし……」
なるほどな。
俺に嫌われることを怖れたわけか。
何故かはこの際置いておこう。
「ところでお前は俺の自宅に不法侵入を犯したわけだが、それについて釈明はあるか?」
「ごめんなさい、許してください、何でも……合鍵は渡しますから」
俺の知らない鍵が出てきた。
この女、勝手に合鍵を作って侵入したのか。
さては初犯じゃないな。
「今まで何回やった?」
「今日が初めて――」
バンッ!
「二十回から先は数えてないですぅぅぅ!」
「ほう」
嘘だろ、予想より多かった。
ヤベーぞ、この女。
……まあいい。
「とりあえず俺のパンツ返して」
「は?」
は? じゃねーよ。
ブレザーのポケットからはみ出してんだよ。
持ち去る気があるならもっと上手く隠せや。
新山千代は渋々の態度でポケットの中身を引っ張り出した。
……て、パンツばっかり何枚詰め込んでんだよ。
一枚と思ってたのに完全に油断してたわ。
最近妙にパンツが行方不明になっていたがこういうカラクリだったのか。
ちなみに俺はボクサーパンツ派です。
「全部寄越せ」
「あ、あの!」
「なんだよ」
「この一枚だけは許してもらえませんか!? 唯一の洗濯前なんです!」
俺は問答無用で回収した。
泣いて抵抗されたが知ったことではない。
「他には?」
「それだけです……」
さめざめと泣いているが、こいつただの変態だからな。
「……ちょっと立て」
俺の言葉にビクリと肩が震えた。
なるほど、隠し事が苦手なタイプと見える。
恐る恐る立ち上がった新山千代に、
「スカートを捲れ」
そう命令する。
「えぇ、急に何てこと言うんですか!? 変態! 変態です!」
「お前に言われたかないんだよ。さっさと捲れや」
有無を言わさず捲らせると下から俺のボクサーがコンニチワした。
「履いてんじゃねーよ」
「つい……」
「つい、じゃねーよ。脱げ、さっさと」
ゆっくりこれ見よがしに脱ぐのやめろ。
その恥じらいの流し目もいらん。
「どうぞ……女子高生の脱ぎたてパンツです」
「人のパンツにいかがわしい名前つけるな」
他にもないか探りを入れる。
結果、カバンからビニール袋に詰められたゴミ箱の中身が出てきた。
「お前こんなもん持ち帰ってどうしたいの」
「何が出るかな、何が出るかなって……」
「福袋感覚かよ」
これはパンツより嫌だな。
たまに青春の搾りカスが入り込んだりしてるから。
「没収」
「そ、そんな……ッ!」
「他に隠してるものないだろうな?」
「ありません……」
バンッ!
「な、ないってばぁ!」
本当になさそうだ。
じゃあ、こんなもんでいいかな。
「分かった、帰っていいぞ」
「え?」
キョトンとした。
そしてモジモジしだした。
「実は女の子には、男の子にはない秘密の隠し場所がありまして……」
「出口はあちらになります」
「古柴くんの意気地なしぃ!」
少なくとも意気地の使い所はここではない。
俺はドスコイドスコイと百烈張り手を繰り出し、変態を無事閉め出すことに成功した。
「開けてくださいよ、古柴く〜ん! こんな夜遅くに女の子を帰すなんて非常識ですよ〜!」
「お前に常識を説かれたかねーんだよ。いいから帰れよ。今回のことは忘れてやるから」
「せめて送ってくれたりしないんですか!?」
「変態と夜道を歩く趣味はないんだよなぁ」
「も、もしかしたら帰り道に本物の変態に遭遇するかも! 遭遇して、捕まって、処女を散らしちゃうかもッ!」
さも自分が本物ではないみたいな言い回ししやがったなこいつ。
「そうなったら、まぁ……ごめんな……」
「謝られた!? ッやだやだ! 私の処女は古柴くんに捧げるって決め――」
扉をバンッ!
「人ん家の玄関前でそーゆーこと言うのやめていただけます?」
「か、帰りますぅぅぅ!」
ダダダダッと、アパートの屋外通路を駆けていく音。
「……ふぅ」
嵐は去った。
もう忘れよう。
キッチンから部屋に戻る。
ふと視線を感じベランダ側を見た。
カーテンの隙間から新山千代が覗き込んでいた。
一睨みすると影のように消えていった。
ホラー映画かよ。
おしまい。