夢に出てきた事件現場に向かう
科捜研を出てから約1時間で、事件のあった大学のキャンパスに着いた。大学は文系、理系ともにある総合大学で、駅からほど近い繁華街のそばにあるため、キャンパスはこじんまりとしていて、会社のオフィスビルのようだった。授業中らしく、外には、まばらにしか学生がいない。桐生は年齢よりもずっと若く見えるので、制服を着てなかったら学生と勘ちがいされそうだ。
キャンパス内を歩きながら警部は資料を手にした。ここに向かう車内で、警部の部下の1人である小津崎に電話をして、事件の資料を送信させていた。その資料によると、被害者はこの大学に通う瀬戸りんという女性。第一発見者は2年の綾瀬優という女性。警部は綾瀬の携帯に電話をして、授業が終わったら5号棟の前に来るように指示をしていた。
16時少し過ぎに、学生が一斉にビルから出てきた。その群衆の中から1人、小柄で黒縁のメガネをかけた女性が警部たちのもとに近づいてきた。うすいピンク色のワンピースを着ていて、そばかすのある顔は少し不安な表情をしていた。
「あのー、警察の方ですよね」ゆったりとしたトーンでたずねる。
「そうです、綾瀬さんですね。私を覚えてますか?」
「はい、先週ここでお会いしました」
警部はうなずいた。やっぱりオレはここに来ていたんだ。警部は自分の記憶がなくなったことは言わずに、ただもう一度現場を見てみたいと電話で話していた。
「じゃあ、もう一度現場に案内してもらえますか」
「はい」綾瀬は5号棟の中に入っていく。入るとすぐ正面にエレベーターが見えた。エレベーターは2基ある。入るとすぐに桐生が足を止めた。
「ここに防犯カメラがあるんですね」桐生が上を向きながら言った。そこには小型の防犯カメラが正面のエレベーターに向かって設置されていた。
「犯人の姿が映ってるかもしれませんよ」
「そうだな、記録が残ってればな。後で聞いてみるか」警部は捜査資料を見て、セキュリティ会社に電話した。映像が残っていれば送ってくれるようにと話した。
3人は左側のエレベーターで3階に向かう。桐生は乗っている間、正面の壁に設置されている鏡を見ながら、髪の毛の寝ぐせを直していた。
「気づかなかったけど、すごい寝ぐせだなあ」
「いつものことだろ」
ドアが開くとくるりと振り返って左側の廊下を進む。広い廊下の左側にあるドアに入っていく。
そこは警部たちが科捜研で見た映像と同じだった。奥の方に寄せられて置いてある椅子の配置などもそのままで、事件以降部屋は使われていないようだった。警部は資料を見ながら、被害者が倒れていた場所に歩いていく。部屋にはもう1つドアがあり、被害者はそのドア付近で倒れていたらしい。
事件から一週間以上経っているので、事件の痕跡は残っていなかった。警部は背後で不安そうにしている第一発見者にたずねた。
「綾瀬さんが被害者を発見した時の状況をもう一度話してほしいんですが」
綾瀬は警部の隣りに来た。不思議そうな顔をしている。
「なにか不審な点があるんですか?」
「いやあ、こいつが直接話を聞きたいって言うもんですから」警部は桐生を親指で指した。桐生はペコリと頭を下げた。
綾瀬は、なにこの部外者はという表情で桐生を見た。
「私は3限目の授業が終わって、その後は授業がなかったので、サークルに行こうと思って、ここに来たんです。サークルっていっても、街をぶらぶら歩いておいしいお店とかを見つける遊びみたいなものなんですけど、ここを使っているんです。あの日ここに来たのはだいたい午後の2時30分過ぎくらいでした。今入ってきたドアから入ってきたんです。部屋には誰もいませんでした。奥にある椅子を出して、準備をしとこうと思って歩いてくると、ここにりんが倒れていて…」綾瀬は当時の状況を思い出して顔をしかめた。
桐生は部屋を見渡してみた。誰かが隠れられそうなところはなかった。唯一隠れられるとすれば、奥にあるテーブルだが、ちょっと覗けばすぐに姿が見られてしまう。
綾瀬は気を取り直して話を続ける。
「最初は具合が悪くて倒れたのかなと思ったんです。でも近づいて触ってみると息をしてなくて。それに首にあざのような跡があったんです。それで救急車と警察を呼びました」
桐生は事前に読んでいた資料を思い出した。被害者の死因は首を絞められたことによる窒息死。首の跡からすると、なにか布状のものを使って首を絞めたらしい。その他に頭部に殴られたような跡があるということだった。
「瀬戸さんとは仲が良かったんですか?」
「すごく親しかったわけではないですけど、サークル仲間って感じでした」
「瀬戸さんがなにかトラブルを抱えていたようなことはなかったですか?」
「わかりません」
「発見当時ここには誰もいなかったそうですが、不審なものとかもなかったですか。ふだん見ないような」
「特に気づきませんでした」
「犯人の心当たりなんかはないですか?」桐生は資料に書いてあった名前を思い浮かべていた。田伏夢人。成瀬が近々逮捕しようとしている男。
「心当たりですか…」綾瀬は口ごもる。
「なんでもいいです。気づいたことがあれば話してください」
「このことは私が話したって言わないでもらいたいんです。りんは同じサークル仲間の須藤君とつきあっていたんです。それが少し前に別れちゃったみたいなんですけど、別れた後も須藤君がしつこく復縁を迫ってきて困るってりんは言ってたんです」
「じゃあ、綾瀬さんは、その須藤って人が事件を起こしたと考えてるわけですね」
「それは分かりません」話したことを後悔するように、綾瀬はうつむいた。
これ以降の質問では有益な情報は得られなかった。綾瀬に対する聞き込みを終えて、2人は部屋の中を見て回った。ふだんサークルでしか使っていない部屋のため、ものらしいものはなく、あるものといえば、奥に長いテーブルと数脚の椅子、壁に沿って設置されている本棚くらいだった。本棚には統一感のない雑多な本が並べられている。ぱっと見ると、ファッション雑誌、料理関係、小説、雑学など。さらに本棚にはDVDが何枚かあった。一通り見て回ると、警部は綾瀬のもとに戻ってきた。
「田伏君が今どこにいるか分かりますか?」
「さっき友達と学食の方に行くのを見ました」
「呼んでもらえますかね」
「はい」綾瀬は手にしていたスマホで田伏と連絡を取った。
「もうすぐ来ると思います」
警部は綾瀬に礼を言って帰した。田伏が来る間、警部が捜査資料に目を通していると、桐生が突然へんな声を出した。
「どうした?急に」
「楠さん、これを見てください」桐生が警部に見せたのは被害者を写した写真だった。写真は何枚かあって、その中の一枚を抜き出した。それはうつ伏せに倒れている被害者を側面から写している。
「被害者の指の部分なんですが」
被害者の左手は人差し指がピンと立てられていて、それ以外の指は握られている。写真を見る限り、何かを指さしているような感じに見える。
「これって、被害者が何かを指さしてたんじゃないですか?」
「殺される間際に何を指さしてたっていうんだ?」
「そうですねえ、ちょっと資料いいですか」桐生は捜査資料を見る。資料には、被害者が倒れていた具体的な位置が書かれていた。桐生は資料を見ながら、その場所まで歩いていく。そこはもう1つのドアの近くで壁から2メートルくらいのところだった。写真に写っている被害者と壁を見比べる。被害者は壁と並行ではなく、少し角度をつけて倒れていた。
「ここに倒れていたんですね。そうすると」桐生は窓の方に向かって歩いていって、先ほどの本棚の前に来た。本棚の横には窓がある。
「被害者が指さしていたとすると、このへんなんですけどね」
「なんでこんなところを指ささなきゃならないんだ?」警部は窓の外を眺める。窓からは大学の別棟の建物や駅前のタワーマンションが見える。
「あの被害者の指は一種のダイイングメッセージだと思うんですよ」
「ダイイングメッセージってあれか?」警部は以前、桐生からダイイングメッセージについて聞かされたことを思い出した。死にゆく者が残すメッセージ。たいていは犯人を示していることが多い。
「相棒、あれは小説の中での話だろ。現実にそんなことするやつなんているのか」
「とりあえず調べてみましょう」
2人で手分けして本棚にある本やDVDを調べていく。DVDもアクションものやドキュメンタリーなど様々なジャンルがあった。15分ほど調べてみたが収穫はなかった。警部が最後の本を本棚に戻すと、警部の携帯が鳴った。大学に常駐しているセキュリティ会社からだった。1階のエレベーター前を映した映像はまだ残っているらしい。5号棟にカメラがあるのはそこだけだということだった。警部は映像を送信するように頼んだ。まもなく、桐生が持っているタブレットパソコンに映像が送られてきた。事件のあった日の14時ごろから再生を始める。1階のエレベーター前は人の往来がいくらかあったが、エレベーターを使う者はそれほどいなかった。14時5分ごろに背の高い男がエレベーターに乗った。14時28分ごろに綾瀬がエレベーターに乗った。
それから14時40分までは画面に動きはなかった。14時40分過ぎに1人の男が右側のエレベーターから出てきた。オレンジと黒色のボーダー柄のシャツを着ていて、髪の毛は短く刈り上げている。その男はそのまま5号棟から出て行った。
その男が出て行ってから2分後に、英文字がプリントされた白いシャツを着た男が左側のエレベーターから出てきた。警部は、この男は14時5分にやってきた男だと確認した。男はエレベーターを降りると、辺りに視線を走らせ、急いで出て行った。
その3分後に、エレベーターの右脇にある階段を降りてきた男がいた。グレーのシャツに茶色のジャケットをはおった長髪の男で、エレベーターの前を横切って行った。その男が画面から消えた後はしばらく何も映らなかった。10分後に交番から駆けつけた巡査が棟に走ってくるのが映った。その先の映像をチェックしてみたが、上の階から降りてきたのはその3人だけだった。
「この3人の誰かが犯人なのかな?」桐生がつぶやく。
「他に出入り口がなければな。後で確認してみるか。もし他になければ、3人の誰かが犯人ってことになるわけか」
警部がそう言った直後に、手前側のドアが開いて男が入ってきた。髪型や体格から、警部はこの男が田伏だとすぐに分かった。青いトレーナーにジーンズ姿の田伏は、2人が警察関係者だということを聞かされているようで、嫌悪の情を隠そうともしない。
「用事ってなんすか。まさか今逮捕しようっていうんじゃないっすよね」
「きみを逮捕しようとは思ってない。事件時の状況を聞きたいんだ」
「それならもう話したよ」
警部は桐生を田伏に紹介した。
「こいつのために、すまないがもう1回話してくれないか」
田伏はしようがないなという感じで両腕を組んだ。
「ほんとに話すことはないんだ。オレはあの時、ここの隣りの部屋でスマホでゲームをしたり寝てたりしてた。3限の授業がなくてサークルまで時間があったんで、1人でそこにいた。そしたら14時40分過ぎくらいかな。なんか騒がしくなって部屋を出てみたら、警察が廊下にいて。部屋を覗こうとしたんだけど、だめだって言われて棟を出て行ったんだ。それだけだよ」
「隣りの部屋にいて、なにか物音とか声とか聞こえてきませんでしたか?」
「何も聞こえなかったな」
「事件はどうやって知ったんですか?」
「オレが棟を出て行こうと廊下を歩いてると、途中で須藤に会ったんだ。何があったか聞いてみたら、部屋に瀬戸さんが倒れてるって言った。誰かに襲われたらしいって言うから、オレは引き返して部屋に入ろうとしたんだ。でも警察に止められちまったけど」
「犯人に心当たりなんかありませんか?瀬戸さんが誰かに恨まれていたりとか」
「心当たりなんてないけど」田伏は言葉を濁す。
「他の人には話しませんから」警部がうながす。
「うーん、オレが言ったとか言わないでくれよ。最近、野口と瀬戸さんが何かもめてるのを見たんだ。どういうことでもめてるのかは知らないけど口げんかをしてるのを何回か見たよ」
「野口さんって方も、同じサークルなんですか?」
「サークルは違うんだけど、瀬戸さんやオレと同じ学部なんだ」田伏は腕時計にしきりに視線を向ける。時間が気になっているらしい。
「田伏さんは野口さんが犯人かもしれないと考えてるんですか?」
「いやあ、オレはただそんなことがあったって言っただけで。それに野口は最近、なんか深刻そうな顔をしてたからな」
「その野口さんって方を呼んでもらいたいんですけど」
「ちょっと待ってくれ」田伏はスマホを出した。
「あと5分くらいで来るって。もういいだろ。帰っていいか」と言いながら、すでに田伏は立ち上がっていた。
「ご協力ありがとうございました」
田伏は右足をけがしてるのか、少しかばうようにして歩いていった。田伏が出て行ってちょうど5分後に、背の高い男が部屋に入ってきた。アルバイトの面接にでも行くのか、ワイシャツにネクタイ姿だった。緊張しているような顔で警部たちに近づいていく。
「野口ですけど」
「どうぞ、こちらに掛けてください」
警部は事情を説明した。
「まもなく田伏くんが逮捕されるとかって聞いたんですけど」
「はっきりした証拠がなくてね。もう一度調べてるんです。じゃあ相棒よろしく」
「ええと、野口さんは事件のあった日の14時30分から40分ごろ、どこにいましたか?」
「その時間は、図書館で借りた本を自習室で読んでました」
「自習室ってどこにあるんですか?」
「エレベーターを降りて、こことは反対側の廊下を歩いていくとあります」
「野口さんがそこにいたことを証言してくれる人はいますか?」
「あの時間はぼくしかいなかったんです」
「そうですか。野口さんはどうやって事件を知ったんですか?」
「綾瀬さんから電話があったんです。瀬戸さんが襲われたらしいって。その時はもうこの建物から出てましたから、戻ろうと思って入口に来たんですけど、警察の人に止められて入れませんでした」
「野口さんは犯人に心当たりはないですか?」
野口はため息をついて考えていた。
「うーん、これはぼくが言ったなんて言わないでください。田伏くんが前期の試験でカンニングしたことを瀬戸さんが見つけて、瀬戸さんはそのことを担当の先生に言っちゃったんですよ。それで単位を落として、田伏くんはそれを根に持ってました。だからと言って、彼が犯人とは思わないですけど」
「動機にはなりますね」
「なんか噂で聞いたんですけど、警察は田伏くんを逮捕しようとしてるんですって?彼がやったっていう証拠でもつかんだんですか?」
「確たる証拠がないんで、こうやって調べなおしてるんですよ」警部は成瀬が田伏を逮捕しようとしていることは伏せておいた。桐生は質問を続ける。
「瀬戸さんって、どんな人だったんですか?」
「まあ、真面目な女の子でした。あんまりみんなと遊びに行くとかいうタイプじゃなくて、どっちかっていうとインドア派かな。料理が好きみたいで、料理教室に通ってたみたいでした。それと、小説を書くのが好きみたいで何かの賞に応募したって言ってました」桐生はインドア派と聞いて、自分と話が合うかもと思いつつ、他にもいくつか質問したが成果は得られなかった。
「じゃあ野口さん、もうけっこうです。須藤さんと連絡がつくならここに呼んでもらいたいんですが」警部がそう言うと、野口はどこかほっとした表情を浮かべた。
「わかりました」野口は丁寧にお辞儀して出て行った。
野口が出ていって5分後に、ドアにノックがあった。入ってきた男は、色黒で長髪、無精ひげを生やしていた。カメラではジャケットを着ていた男だ。肌寒いというのにタンクトップのシャツを着ている。大きな目で部屋を見回している。警部たちのもとに近づいて来ると、いかにも迷惑だというような顔をして、
「須藤だけど」と名乗った。
「すぐ済みますから。相棒、よろしく」
「ええと、桐生と言います。須藤さんは事件があった時間はどこにいましたか?」
「オレはここの向かいの部屋でDVDを観てたよ。最初はここにいたんだけど、誰も来ないし、ひまだったからここにあるDVDを持ってったんだ」
「誰かといっしょだったんですか?」
「1人で観てたよ。観てたら14時35分ごろだったかな、廊下の辺りが騒がしくなって出てみたら綾瀬さんが立ってた。その時に瀬戸さんが部屋で倒れてるって聞いたんだ。それから間もなく、警察が来て部屋に入っていった」
「向かいの部屋にいた時に、何か不審な物音とか聞きませんでしたか?」
「特に聞こえなかった」
「最近まで瀬戸さんとつきあってたそうですけど」
桐生がそう言うと、須藤の顔が引きつった。
「一方的にふられちゃったよ。でもそんなことでオレは人を殺したりはしないよ」
「犯人に心当たりはありませんか?」
「警察は田伏を逮捕しようとしてるみたいだけど、オレから言わせれば、第一発見者を疑えだ」
「綾瀬さんですか、どうしてですか?」
「理由はない、オレの直感だ」
「なるほど、直感ですか」
桐生はこれ以上は収穫がないと判断すると須藤を帰した。2人きりになると、桐生が感想をもらした。
「みんなちょっとずつ動機をもってるようですね」
「この聞き込みで何か分かったか?」
「大学生活ってやっぱ楽しそうだなって」
「なんだよそれは。それにしても、おまえよく初対面の人とまともに話ができたな」
桐生は照れながらポケットから袋を出した。
「ちゃんとこれを飲んどきました」それは気つけ薬だった。
「そんなことだと思ったよ。そろそろ帰るか」
2人は部屋を出ると、他に出入り口がないか見て回った。奥には非常階段があったが、使えなくなっていた。エレベーターに乗ってボタンを調べると3階より上の階のボタンは押せないようになっていた。エレベーターから降りて、横にある階段へ向かう。階段でも3階以降には行けないようになっていた。警部はこの棟の入り口に掲示されていたお知らせを思い出した。近く改修工事を行うため、3階より上には行けないらしい。
「このまま階段で降りるか」
階段は節電のためか、一部で蛍光灯が消されていて、お互いの顔もよく見えない。警部が桐生に気をつけるように声をかけようとした瞬間、
「わああああ」という叫び声がして、その後、ドスンという鈍い音がした。警部が踊り場を見ると、桐生が倒れていた。
「大丈夫か」
「はい、ちょっと足を踏みはずして尻もちをついちゃいました」
「気をつけろよ」
なんとか1階までたどりつく。桐生は少し顔を歪ませながらお尻のあたりを手でさすっている。正面の入り口へ出ると、桐生がそこで立ち止まった。
「まだケツが痛いのか」
桐生はある方向を凝視している。桐生の視線の先には引っ越し業者の車が停まっていた。
「そういえば、楠さんが引っ越したのって一週間前ですよね。それと、悪夢をみるようになったのも一週間前ですよね」
警部と桐生は目を見合わせた。
「引っ越し業者があれを取り付けたのか」
「そうだと思います。楠さん以外で唯一部屋に入れたわけですから」
警部は携帯を取り出す。
「電話番号は控えてある」
電話をかけると、一週間前に警部の引っ越しをしたのは1人を除いて派遣会社から派遣されてきたということだった。派遣会社の電話番号を聞いて、そのままその派遣会社に電話をする。事情を説明して、警部のマンションの引っ越し作業をした連中の連絡先を聞こうとした。1人は現在、あるマンションの引っ越し作業をしているという。そこのマンションの住所を聞いて電話を切った。