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(アグネーゼの視点)ベアトリーチェの魔導書 その3

 ベアトリーチェが双剣を構えてこちらに向かってくるのを見て、私は急いで矢をつがえたが、間に合わないと直感した。


 やられる!


 剣を振りかぶるベアトリーチェ。エレノアとロザリアがその後を追ってくる姿も目に入るが届かないだろう。その刹那、私の前の視界が塞がれた。人?


 ガッ!という音とともにその人がベアトリーチェを止めたようだ。その人の後ろ姿には見覚えがある。私と同じ金色の髪、金襴で刺繍された黒いローブは……


「……お母様?……」私は自分の口から出たその言葉に驚く。


 ベアトリーチェの剣を両腕で受け止めたその人は、私のほうをちょっと振り返って確認して、微笑んだように見えた。お母様の顔をしている。なんで? 私は腰が抜けて座り込んでしまった。


「エヴェリーナ様!?」エレノアの叫びが耳に入る。


 その時、剣を止められたベアトリーチェの足元に、ケイティが唱えた封印魔術が展開された。光に包まれるベアトリーチェ。するとその光はケイティが手に持った本に吸い込まれていった。


「アグネーゼ様!」エレノアとロザリアが駆け寄ってくるが、私の目は眼前のお母様に釘付けだ。


「……お母様なの?」


 剣を止めた両腕を血まみれにした女性がこちらを振り返り、私を見つめる。間違いないお母様だ。


「どうして?……」何も考えられない。


 ケイティやパーヴェルホルト、コルヴタールも駆け寄ってくる。


「無事なようですね。借りは返しましたよ、アグネーゼ」お母様はそう言って私に微笑みかけた。

「……借り?」


 何かを貸した覚えはない。何を言っているのだろう?


「お母様、どうしてここに?」

「あなたにテオドーラの剣で貫かれて、あなたの中に封印されていたのです、アグネーゼ」


 ……私の中に?


「この世界は魂が実体化できるようで良かったです。あなたが斬られそうになっていたので守ってあげたのです」

「……魂?……」


 お母様は笑みを深めた。両腕からは血が流れているが、気にもしていないようだ。


「魔導書に心を奪われた私はあなたに色々酷いことを言ったでしょう。本心ではなかったと言っても今さら信じてもらえないかもしれないけど、とにかく、あなたを救えて良かったわ」


 お母様の体が薄れていく。手足の先から徐々に透明になっていく。


「もう終わりね。やっと休めそうだわ。あなたの道はまだ続いているのでしょう。頑張りなさい、私のアグネーゼ」

「……お母様……」


 お母様は微笑みながら消えていった。その瞬間、私の意識も途絶えた。




「アグネーゼ様」


 目を覚ますとベッドに寝ていた。頭にぼんやりと霞が掛かっている感じで、よく考えられない。エレノアが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「エレノア……。私、不思議な夢を見たのよ。お母様と会ったわ」

「……アグネーゼ様。それは夢ではありません……」


 だんだん思い出してきた。ベータでベアトリーチェと戦っていた私たち。ベアトリーチェに斬られそうになった私を助けてくれたのはお母様だった。


「あれはお母様だったのかな?」

「はい……」


 あの後、気を失った私を運びながら、パーヴェルホルトやクローヴィンガーが推測したところによれば、テオドーラの剣には魔を封印する力があるので、魔導書に支配されていたエヴェリーナは私の中に封印されたのだろうとのことだった。


「じゃあ、ずっとお母様は私の中にいたのかな?」

「……おそらく」


 私が斬られそうになって、助けてくれたのか。借りを返したと言っていたけど、何のことなんだろう。


「おそらく、アグネーゼ様と戦うようなことになってしまったことを悔いてらっしゃったのではないでしょうか? 魔導書を手にする前のエヴェリーナ様はお優しい方でしたので……」


 エレノアはそう言うが、あまりお母様が優しかった記憶はない。


「そうかな。律儀なのね」

「……いえ、それが愛情なのだと……思います……」エレノアが顔を伏せて泣き出した。


 不思議と私には悲しいとは思えない。そういえばテオドーラの剣の時も涙は出なかった。私は冷たいのだろうか?


 扉を開けて、ケイティとコルヴタールが入ってきた。「大丈夫ですか? アグネーゼ」「大丈夫? あーちゃん?」二人とも心配そうな顔だ。


「大丈夫よ。それより、ベアトリーチェはどうなったの、ケイティ姉上?」私はベッドから体を起こした。

「本に封印できました。不思議なことにベアトリーチェを封印すると、本が魔導書になりました。開いてないので分かりませんが、おそらく中身も書き換わったのではないかと思います」

「そう、封印できたなら良かったわ。みんなの力ね」

「魔導書はひとまずパーヴェルホルトに預かってもらっています。もし、魔導書を求める者が現れても、彼から奪うことは不可能でしょうから」


 ロザリアがお茶を運んできてくれた。私はベッドに起き上がったままお茶をひと口飲んだ。やっと頭が回り始めて、良く周りを見ればここは桔梗離宮ではないようだ。


「ここはケイティ姉上の離宮なの? あれから何日か経っちゃった?」

「ええ、ここは私の白百合離宮です。今は翌日の夜です。学校を休んでしまいましたね」とケイティが答えた。

「そう。ターニャにも心配掛けちゃったかな?」


 ターニャにはちょっと出掛けてくるとしか言っていない。きっと心配しているだろう。


「ええ、きっと心配していますよ。ブレンダお姉様とターニャには私から使いを出しておきます。アグネーゼはゆっくりお休みなさい」


 みなが部屋を出て行くと、私はまたベッドに体を横たえた。白い天井を見ながら、ようやく冴えてきた頭で考える。


 ベアトリーチェを封印した今、もはやクラインヴァインを封印するのは難しい。だが、あの状態のベアトリーチェを作戦に使うわけにもいかなかった以上、仕方のないところだ。次第によっては、私があの魔導書を使ってみても良いかもしれない。


 それにしてもお母様が私の中に封じられていたなんて驚いたし、それ以上に私を助けてくれたことが信じられない。


 お母様はグレイソン兄上が大事だったんじゃなかったのかな。


 お母様はグレイソン兄上を王にすることしか考えてなかった。


 小さい頃からずっとそうだった。


 それに私はお母様をテオドーラの剣で封じてしまった。


 恨まれていると思ってた。


 助けてくれるとは思わなかった。


 どうして助けてくれたのかは正直分からないけど、


 でもあの笑顔を見たら、なぜか安心した。


 せっかくだから、もっと話がしたかったな。


 ……ありがとう、お母様。

その3でした。視点がアグネーゼになってます。


次話は明後日です。ターニャがまた動きます。

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