サンタ、着替える
「ふーむっ」
裏切京子。人間の年齢で例えるなら、15,6歳の女子と言ったところだ。
なぜそのような形になるか。
それは彼女が人間の形をしながらも、人間ではない。異世界からやってきた生命体にある。地球的には常識外れで常識知らずの女の子は、想いを寄せる人へのプレゼントを考えていた。あまり赴かないショッピングセンターで品物を選び中。
「広嶋様にお渡しするプレゼント。何をすれば宜しいでしょうか」
世間はクリスマスとか言います。公にプレゼントを渡しても良いと、サンタとかいう奴が決めたとかなんとか。そんな習慣、私のいた世界にはありませんでした。
あの方が好きなのは野球というスポーツ、野球ボールをお渡しするのが無難でしょうか?
「はっ」
それよりも広嶋様とお会いする服選びも重要ですわ!
制服で向かうにしても、特別感が足りていない。
「どーっすか、サンタコスが安いっすよー」
「サンタさんですか」
あまり見かけないので、雰囲気くらいしか分かりませんが。サンタの恰好で広嶋様のお家に行きましょう。きっと驚くでしょう!サンタが私だということに!
しかし、サンタ服とはどれも似たようなものですわね。
「あ、どーです?通常の長袖とズボン。半袖、ミニスカの女の子用もありますよ」
「女の子用。私は女ですし、そちらが良いですわね」
似合うでしょうか、私にサンタなんて……
「試着って宜しいです?」
「構わないっすよー。あちらでどーぞ」
ヌギヌギ、キセキセ……。
2分ほどで着替え終わって、ミニスカのサンタさんへ変身。等身大の鏡を前にポーズを取りながら確認。可愛いかという不安と、
「どうしましょう、制服とそんなに変わらない気が……これで喜んでもらえるのでしょうか?」
もっとこう。夜にお会いするわけですし、アプローチある……それでいてドキッとする。
プレゼントも兼ねていて、良き日である意味を、なにか……
「はっ!これですわっ!この私ですわ!!」
◇ ◇
ゾクッ
「なにか寒気がした」
広嶋健吾。裏切京子が想いを寄せる人である。裏切と会う約束であるが、実際のところは仲間同士の小さいパーティーである。
「それはミムラさんの手料理を食べることですか?」
「の、のんちゃん!私が調理中に、そんなこと言わないで!」
「大丈夫だよ。ちゃんとチキンができているから」
仲間には老若男女と色々ある。
「ミムラ。せめて味だけはまともにしなさいよー。するんでしょーけど、丸焦げのチキンとか食べたくないわよ」
「アカリン先輩まで!結構、練習したんですよ!チキンを5羽ほど焦がしてできるようになったんです!」
「ビール追加、……冷蔵庫見るぞ」
「勝手に厨房に入らないでくれ、藤砂くん」
パーティー準備中のこと。なにかしていたり、なにかを渡したり、そんな日のことであった。
「むふふん」
裏切よりも幼い、小学生の阿部のんはとっても楽しみにしていた。何か欲しいと思っていた。それは心がこもっていればなんだっていい。広嶋さんからは何をくれるんだろう。ウキウキしながら彼を見るも……
「ケーキ買って来たんだ。それで平等だろ」
「のんちゃんに特別なものはないんです?」
「ないぞ。裏切やミムラが鬱陶しいから」
「え~~」
それはそれで残念。
でも、最後まで信じてみよう。もしかすると、あとで送ってくれるかもって期待しちゃうのんちゃんはちょっと笑顔。そんな時だった、裏切京子がやってきたのは
「遅いじゃない、裏切。こっちは出来上がってるのにー」
「なにを飲む?、……お前に酒はダメだぞ」
「ふん。灯や藤砂までいるのはちょっとイラつきますわね。2人きりでどっかへ行ってなさい」
カバンを一つ持ち、制服姿でやってきた裏切京子。のんちゃんと違い、アプローチはとっても変わっていて、強引で無茶苦茶。ロクでもない事を考えている代表の1人。
「広嶋様。私からささやかなプレゼントを施したいのですが、宜しいでしょうか?」
「……まぁいいぞ。物によるけど」
「物ではないですが、褒美ですわ」
スルスルと、自分の服に手をかけて、
制服からの、サンタ服への生着替えを披露。これがサンタ服を買ったとき思い立った、広嶋へのプレゼント。
上を脱いで、ブラジャーになったところで、素で我慢できなくなってストレートに
「やっぱり生で着替えを見てもらうより、このまま上半身裸で抱き着いて差し上げるのが最大のご褒美ですよねーーー!聖なる夜ってわけですわーー!」
ドガアアァァァッ
広嶋へ飛びついた瞬間、死角からミムラが飛び出し、裏切を殴って外まで吹っ飛ばした。
「そーいう抜け駆けはダメです!!!」
広嶋に変わって制裁と激怒をするわけであったが、当の広嶋は
「おい、チキンが床に落ちたぞ。せっかくの肉が……」
「あっ……」
裏切とミムラの両方に対して説教をするのであった。どんな日であっても2人は怒られるという、ご褒美を授かったり授からなかったり。
「あんまり広嶋さんと話せないなんて、のんちゃんショックです」
「良い子にしててもプレゼントは来ないもんよ、また来年よ」