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008

冷たい沈黙の後、

『で…アナタ達は、その褒美が目当てで来たのね……。』

冬の女王は、ファーシルとシンセロに冷たい視線を向ける。


ファーシルは、それを気にする様子は無く、

『勿論さ!当たり前だろ?

取敢えず、王国の備蓄食糧を出して、国民に分けて貰わんと

皆が飢えて死ぬからね!

冬が終わって、作物が食べられる程に育つまで時間が掛かるんよ』と、

偽善的で、一番金の掛かる願いを口にした。


冬の女王は、怪訝そうに、

『何故、お金より食べ物なの?』と問い掛ける。


ファーシルも同じような表情で、

『地位を持たない者に金があっても、

食べ物が売ってなきゃ買えなくない?って言うか、

先行き見えてても、酷い食糧難の時に、褒美で貰える程度の金で、

食べ物を何日分、手に入れられると思う?

貰ってから、数日で貧困で飢える自信があるよ』と言った。


『では、民衆から、

食糧を自由に取り上げられる「領主」と言う地位を求めれば、

良いのではないのかしら?』

『いやいや、私達は孤児だぞ?孤児に対する差別を舐めるなよ?

そんな付け焼刃の地位を貰った孤児に誰が従うのさ?

誰も従ってくれない上に、嫉妬されたり、逆恨みされて、

身の危険が及ぶ地位なんぞ、誰も欲しくないと思うぞ!私は!』

『じゃぁ~貴女の欲しい褒美って、具体的にはどう言うモノなの?』

『え?普通に、食べられる作物が育つまで、

国民全体への炊き出しをして貰う事だけど、何か問題でも?』

『偽善的ね、そんな事をして何になると言うの?』

『嫉妬されたり、逆恨みされたり、脅し取られたり、

集られたりする事無く、安全に食料を手に入れられるだろ?』

『何故、嫉妬されたり、逆恨みされたり、

脅し取られたり、集られたりすると思うの?理解できないわ?』


今まで生きてきた世界が、ファーシルとは別次元過ぎて、

冬の女王には、低所得者達の生活が理解できないらしい。

ファーシルは自分の言葉で、冬の女王に理解して貰うのを諦め、

『シンセロ、パス!女王様への対応、私の手に余るわ』と、

近くに居たシンセロの肩を叩き、シンセロの後ろにあった椅子に座る。


シンセロは『ねぇ~さんってば、仕方ないなぁ~』と呟き。

『今は、貴族にクッキーを恵んで貰った孤児が、

恵んで貰った所為で、殴り殺されて、

恵んで貰ったクッキーを奪われてしまう様な御時世なんですよ…。

女王様は知らないだろうけど、国民は皆、飢え過ぎているんです。

心の弱い大人は空腹に負けて、食べ物を持った弱者を見付けては、

殺して食べ物を奪って、食べてしまったり。

スラムの方に行けば、殺し合って共食いする事もあります。

そしてそれが、最近では普通の事で、

そんな事をしても罪に問われないのが、現在の国の状況です。』と、

シンセロが国の現状を話し、冬の女王は黙り込み、暫しの沈黙する。


沈黙に耐えかねたファーシルが、

『所で、何で冬の女王は塔を出ないんだい?』と、話し掛ける。

冬の女王は小さく舌打ちをしてから、

『名称で呼ばずに、インビエルノと呼んで頂戴』と言った。


『じゃぁ~、インビエルノ、理由を訊かせてくれる?』

冬の女王インビエルノは、ファーシルに頷いて見せてから、

『実を言うと、交替の為のワタクシの準備は出来ているのです。

でも、交替相手のプリマベーラから連絡が来ないのです。』と言い。


悲しげに『春が来ないのに、冬は終われないのよ』と

『次の季節が準備をしてくれないと、

ワタクシが塔から出ても、春は訪れてくれないのです。

次の季節の居る場所に、遊びには行けたとしても、

ワタクシの季節を存在させる事が出来ないのです。』と言う。


『春の女王が来ない状態で、

インビエルノさんが塔に戻らないと、どうなるんですか?』

シンセロが気になった事をインビエルノに質問すると、

『次の朝から、御日様が遠くに行ってしまって、戻っては来ません。

季節を廻らせる事も出来なくなります。

私達の仕事は、朝、季節ごとの太陽が昇るのを見守り

夕刻に、夜の帳が下りるのを見守る事なのです。』と、

都合の悪い返事が返ってきた。


と、言う事で・・・

ファーシルとシンセロは、冬の女王インビエルノを北の塔に残し、

インビエルノから、東にある国の王様宛ての書状を預かって、

今、春の女王プリマベーラが住んでいる筈の季節を司る塔。

東にある国の城の中に存在する塔へと向かう事にした。


ファーシルとシンセロは、目的地に向かう為に夜明けを待ち、

インビエルノに『少し待っていなさい』と言われ、

インビエルノの御好意で、朝食を御馳走になってから、

インビエルノに送り出される。


送り出された2人は、行き同様、帰りも細長い螺旋階段を通り、

塔から下りて、塔の唯一の出入り口である鉄の扉の前に立った。


『これって、外開きだけど…

雪、積もってて開かないって落ちがあったりしないかな?』と、

シンセロが言う。

ファーシルは『あるかも』と、言いながら、鍵を開けて、

雪が積もっている事を想定して、

力いっぱい扉を押し開けて、事前の確認をしなかった事を後悔する。


扉は入る時に、除雪した幅より大きく簡単に開き、

ファーシルは、勢い付き過ぎて転倒しかけて、

誰かの腕に抱き留められた。


その誰かとは、

日の光を避ける為にフードを目深に被ったバンピーロで、

塔の鉄の扉の外には、数匹の狼を連れて、

少し頭に雪を積もらせたホンブレの姿もあった。


ファーシルは、

自分を抱き留めた相手を見上げる様に確認し、目が合うと、

『どうして逃げ出した!何故、行方を晦ましたんだ!!

私が心配するとは思わなかったのか?』と、怒鳴るバンピーロに、

強く抱き締められ、呼吸を詰まらせる。


ファーシルが『くっ…く…る…苦し……。』と言い、

脱力し、動かなくなると、


バンピーロとホンブレの登場に驚き過ぎて、

動けなくなっていたシンセロが正気に戻り、塔から飛び出し、

バンピーロの額に向け、回し蹴りを繰り出した。


シンセロの攻撃は見事にクリーンヒット。

後方に倒れるバンピーロを様子を見守っていたホンブレが抱き止め。

シンセロは、ファーシルを奪還する。

そんな事があって、やっと、

ある意味で、冷静な話し合いができる土台が出来上がった。


ホンブレが、シンセロを脅す目的で、

『その小娘ちゃん、抱き潰されて、肺を痛めてたら……。

肺炎になって死ぬんじゃないか?』と言った後、

自分の頼みを聞き入れてくれるなら、

ファーシルを「自分の主治医に無償で診察させる」と言う約束をし、

話をする為に移動した先は、イヌ科の獣人が集まるの集落。


そこで、ホンブレが約束した通りに、

ホンブレの主治医である女医の白狼が、ファーシルを診察する。

その診察結果は、

『肺の音は少し濁り、呼気に血の匂いが混じってるから、

薬湯風呂に入らせて、バーブティー飲ませて、寝かしときゃ治る。』

との事で…。


『ほら!ホンブレ!今回は、無償にしてやるから、

弟君とやらと一緒に、オーシャの根とオオバコの葉、

オレガノ、ラングウォート、サフラン、マタタビ、

序にアロエを調達してきな』と、2人は、

ファーシルと、何故か火傷を負い、シンセロに蹴られて、

脳震盪を起こした可能性のあるバンピーロを残し、

買い物メモを持たされ、診察室を追い出された。


ホンブレと2人きりになったシンセロは、

『あのさ…アイツ、何で服の中まで火傷してたんですか?』と問う。

ホンブレは意外そうな顔をして、『気になるのか?』と訊き、

『それなりには』との答えに満足してニヤリと笑う。


ホンブレは『時間がないから、歩きながら話そう』と言い。

『本来ならあの塔には、純血種限定、精霊系種族や神獣系種族、

神に仕える妖精、後は、人族含む、それらの人間との混血以外だと、

「塔に立ち入る事が物理的に出来ない」

そう言う仕組みになっているんだ』と、言った。

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