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007

バンピーロとホンブレの居る場所から離れたファーシルとシンセロは、

それぞれ慣れた様子で小さな松明を作り。

立ち入り禁止を示すロープを潜り抜け、真っ暗な夜道を歩き、

雪深い山の上にある、星降る夜空に影を作る塔を目指して、

殆ど無計画で山登りをする。


道は絶妙に険しく、一人だったら、登れなかったであろう場所も、

2人で力を合わせて乗り越えて、

ある程度の危険のある御蔭で、獣や魔物に会わずに、

塔へと無事に辿り着く事が出来た。


近くで見る塔は、2人が思っていたよりも非常に大きく、

今回、運良く扉のある場所に来ているから助かったものの、

もし、扉のある場所に来ていなければ、

塔を囲む崖を「扉を探す」為に通らなければいけない。

とても、面倒な建物である事がわかった。


でも、しかし…扉はあったのだが……。

『一難去ってまた一難、声を掛けても、扉を叩いても、

呼び鈴鳴らしても返事がなくて、扉、開けて貰えないね』と、

シンセロが大きく溜息を吐く。


ファーシルは手に持っていた松明を鍵穴が見える位置の雪の中に立て、

『大丈夫!この扉ならイケル!問題ないよ』と、

手先を温めてから、鉄製の扉の鍵穴に針金を突っ込んだ。


『ねぇ~さん、何時の間に、そんな特技を身につけたのさ?』

『ん?えぇ~っと、確か、割と最近かな?

飲み屋の客が酔っ払って、実演講習してたのを見て覚えたんだ』

『マジですか…え?でもアレって……。

南京錠の開け方じゃなかったっけ?コレと違うくない?』

『その日じゃなくて、その翌日、

王宮の使用人用の裏口の扉の開け方の話もしてたんだ』と、

話している内にファーシルが鉄の扉の鍵を開錠する。


開錠してから、その扉が外開きになっている事に気付き、

ファーシルは、扉を開ける為に、開けて通れる分の雪を除けてから、

『これって、犯罪では?』と、

シンセロに突っ込みを入れられながら、塔に不法侵入する。


『でも、開けなきゃ、外で凍死するんでない?

それに、冬の女王に春の女王と交替して貰わなきゃ駄目なんだろ?

交替しない事情を冬の女王に訊かないで、

どうやって解決するのさ?』と、ファーシルは気にした様子も無く、

塔の奥へと進んだ。


当たり前の事かも知れないが、塔の中にも明かりは無く、

普通に真っ暗だった。

2人は同じ事を考えていたのか?何も会話せずに松明を合わせ、

火を大きくし、周囲を照らす。


照らし、見上げた先は、天井が見えない程の吹き抜け。

塔の中央には、雨の降り続ける人工的に作られた池。

雨の様に降る水と水を自動的に汲み上げ続ける縄と桶、

遠く離れた壁添いには、連なる細長い階段がみえる。


ファーシルとシンセロは、

『取敢えず、登ってみようか……。』

『だね、此処でジッとしてても、何にもならないもんね』と、

一人づつしか登れない大きな螺旋階段を1列に並んで上って行った。


黙々と無言で、長々と上った先には、

無駄に大きな天井に設置されたスライド式の扉があった。


押し上げ、開いた扉の中は、組み上げられた水を溜める場所で、

炊事、洗濯場らしき場所があり。

大きな桶と洗濯板のある場所には、塔の外への排水路。

その近くには、上へと続く階段、

テラスの様になった大きく広い、物干し場があった。


そこには、玉葱とかの野菜や茸、スライスされた果物と一緒に、

女性1人分の質素な洗濯物が、干されている。


『冬の女王のイメージが、変わってしまう様な洗濯物だよな?

本人のかな?それとも、メイドさんのとかのかな?』と、

ファーシルが白い、清潔感のある地味な下着を指すと、

『ねぇ~さん…。

それに対するコメントは差し控えさせて貰います。』と、

シンセロは顔を赤らめながら洗濯物に背を向けた。


ファーシルは、一頻り、辿り着いた部屋を散策した後、

その部屋からは、面白い情報を得られなく、飽きてしまったので、

更に階段を上る。

上った先は、暖炉とベットのある部屋だった。


ファーシルは無遠慮に入り込み、

『冬の女王さぁ~ん!何処ですかぁ~!』と、

大きく声を掛けながら、1つ下の部屋と同様、散策する。


結局、其処から分かった事は、使用人らしき者の居場所も無く、

女王様が住むには、質素な部屋で、

女王が自炊しているのは、間違いが無い事だけだった。


後から、警戒しながら入って来たシンセロは、

『それにしても、女王の居る場所にしては、質素だなぁ…

僕等が育った孤児院のマザーソンリッサの執務室と、

同じくらいは質素なんじゃないかな?』と、素直な感想を述べ。

『あはは、春の女王が来ないのは、この為だったりして』と、

ファーシルが笑うと、

『その通りかもしれないわね、此処が一番、過酷だもの』と、

冷たそうな声色の奇麗な声が、窓の外から聞こえてきた。


『あ!もしかして冬の女王?』

ファーシルが声のしてきたらしき方向の窓に近付くと、

その窓の外から、サラサラストレートな長い銀髪を靡かせ、

空色の瞳をした色白美人なエルフが室内に入ってくる。


シンセロが「泥棒とかと思われてたらどうしよう!」と、焦る中、

ファーシルがエスコートする様に手を差し出すと、

銀髪色白美人なエルフの女性は、その手を借り、

真っ白なワンピースに付いた雪を払いながら、

『そうよ、ワタクシが冬の女王「インビエルノ」よ』と言った。


『探してたんですよぉ~、窓の外で何してたんですか?』と、

ファーシルが気軽に訊くと、冬の女王は、気分を害した様子も無く、

『窓の外から伸びた梯子を使って、屋上へ行き、

屋上で、日の出の時を待っている所でしたが、何か?』と言う。


ファーシルが気安く『そこの所を詳しく!』と言っても、

冬の女王は、意外と大丈夫そうだった。


その「冬の女王」曰くの、気付けば半分愚痴を抜粋・・・


自分達には、決められた期間、

毎朝、日の出前から、天に祈りを奉げる為、塔に住む決まりが有り。

この北の塔では、

食べ物等の荷物を塔の地上階までしか運んで貰えない。

壁に設置された細く長い螺旋の階段を自分で上り、下りし、

重い思いをして、荷物を自分1人で運び上げ、

生きて行く為に、全部自分で遣らなければイケナイ、

そんな不便な生活を強いられているらしい。

4人存在する。それぞれの季節の女王達、

それぞれにとって、この北の塔は、苦痛でしかないそうだ。


ファーシルは、要所要所で相槌を打ち、同情し、同意し

『その生活、少しでも改善できないの?

水場のある階まで、荷物を運んでもらうとか?』と意見する。


冬の女王は、ふと、想定外であった筈の事に気付き、

『本来は、この塔……。

季節を司る女王以外、立ち入り禁止なのよ…って言うか……。

上って来れない筈なのよ、アナタ達、どうやって上って来たの?』と、

質問する。


シンセロは会話に入れずにいた為、その言葉を聞き逃し。

ファーシルは意外そうな顔をした。


『普通に鉄扉の鍵を開けて、

開けっ放しは不味いかと思って中から鍵掛けて、

そのまま階段登って来ただけだよ?

そもそも、女王様しか登れない塔なら、塔って誰が作ったのさ?

水を汲み上げる装置は誰が考えて作ったの?内装は誰がやったの?

大きな家具とか、どうやって運び込んだの?とか、疑問に思わん?

登れるのってきっと、他にも居る筈だよ!』

『そうね、そうよね……。目から鱗が落ちた気がするわ

所で、アナタ達は何故、ココに来たの?』


改め、初めて、ファーシル達に不審を抱いた冬の女王は問い掛け、

ファーシルは自信満々で、『私利私欲の為!』と答える。


冬の女王とファーシルの会話の内容に気付いたシンセロは、

『そうだろうけど、ねぇ~さん!それじゃ理由が伝わらないよ』と、

軽く突っ込みを入れて、

シンセロが、エルフの森にある北の塔に持ち込まれる物資を今、

現在、管理している。

王様から出された「お触れ」の事を説明した。

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