表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

002

子供達に広場の案内板の前に連れて来られ、一先ず、

ファーシルが『面倒』と言った為、シンセロが子供等にせがまれて、

見た感じ、新しい羊皮紙に書かれたお触れのタイトルを読まされる。


嘘に敏感な、精霊と言う種族の血の混じった子供がいる為、

そのまま、『つぎ!』『次のを読んで!』と言われるまま、

シンセロが嘘偽りなく読み進めていくと、

『王命、緊急「季節の案件」』と言うタイトルを読んだ所で、

『それ!それを読んで!』と言われた。


子供達曰く、今朝、城の騎士達がやってきて、

この案件を案内板に張り出した事を宣伝して歩いていたらしい。

この時、ファーシルとシンセロの感想を素直に述べるとすれば、

「うわぁ~…マジでか……。」と言うのが本音である。


王命、緊急「季節の案件」と書かれた羊皮紙には、

国からの「お達し」で「王様からの命令である」と言う文面と、

*******************************


冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせることを妨げてはならない。


*******************************

と言う「お触れ」の内容、

季節を司る女王様達が、交代で住んでいると言う「塔」までの地図、

王様の署名、ハンコが印字されていた。


子供達は、地図が何処を指しているのかが、解っていない御様子で、

無邪気に『塔って、ドコにあるんだろう?』

『近ければ、行ってみるのにね』

『女王様が交代したら春になるんだよね?もう、寒いの嫌だよ!

ファーシルねぇ~ちゃん!春にしておくれよ!』と騒いでいる。


ファーシルとシンセロは、曖昧に笑い、子供等に返事をせず。

「あの塔って、そう言うモノだったのか」と、心底驚く

困った事に、地図に書かれている「その塔」は、現在地から、

そう遠くない場所の鬱蒼とした森の中に存在しているのだ。


ファーシルは腕を組み、暫く立ち尽し、

「断ったら、情報を収集して自分達で行きかねないな」と思い、

お触れの書かれた羊皮紙に手を伸ばした。


そして『これはきっと、恋愛絡みに違いない!』と本音、

この後は、便宜上の台詞なのだが、

『私が行って、どうにかできるのなら、

解決して、国の備蓄食料を無料配布して貰う権利を得たいな』と、

羊皮紙を剥がし、自分の上着のポケットにしまい込む。


そんなファーシルを眺め、

「面白半分で、本気で行く気だったら如何しよう……。」と、

シンセロは心配しながら、

『ねぇ~さん!また厄介事に首を突っ込むつもりですか?』と、

苦笑いしながら溜息を吐く事しかできなかった。


ファーシルの台詞に喜んだ子供達は、

ファーシルとシンセロを除いた子供の中での年長者の指示に従い、

孤児院と言う家に帰る為に、はしゃぎながら隊列を組む。


子供の中での年長者達が一番前と、一番後ろに分かれ、

ファーシルが前の方、

シンセロが後ろの方で、子供等を引率して歩いていると、

時々、孤児院の子供等用に、

安い商品だとしても、大量買いする事があるからであろう。

子供用の衣類や靴を売る店や、

食べ物を売る商店、屋台から声が掛かり易くなる。


その状況に、子供等は頬を膨らませた。

『僕達だけの時は、無視するのに!』と、御怒りになり、

孤児院へと向かう帰路の途中で

お触れに書かれた「褒美」の話を持ち出し、また、騒ぎ出す。


子供達は、ファーシルとシンセロが、お触れの要件を満たし、

褒美を貰えると言う事を信じて疑わず。

同じ質問をファーシルとシンセロに対して繰り返した。


シンセロが『どう答えたら良いだろう?』と、

ファーシルに助けを求めると、ファーシルは子供等に

『私の願いは、食料の無料配布って言わなかったっけ?

で、お前等はどうなのさ?

もしも、自分達が好きな褒美が貰えるとしたら、何を願う?』と、

尋ねる事で、シンセロに助け舟を出す。


訊かれた子供達は楽し気に笑い、それぞれの自らの夢を語った。

子供等の方の願いは、願いの枕詞は違えど、

最終的に「寒さと飢えで死ぬ可能性からの解放」と

「オナカいっぱい食べられる事」だった。


それは、よっぽど優秀か、血統書付きの純血種でないと叶わない。

耳にした者の胸が痛くなる程の切ない夢。


ファーシルは『食うに困らんのは、重要だよな』と、

大きく笑い声を上げて笑い。

シンセロは『叶うと良いですね』と、子供等に緩く微笑みを向ける。


溜息が零れた。

ファーシルは軽く振り向き、シンセロはファーシルと視線を合わせ、

互いに『食うに困るレベルの貧乏って、辛いね』と呟いて、

『ちょっとガチで、好きな褒美と言うヤツを取りに行きますか!』

『そうだね、面倒でも、やってみますか!』と、

意思の疎通を図り、固めた。


意志が固まれば、やる事は決まってくる。

ファーシルとシンセロは、

教会に併設された孤児院に、御土産と子供等を送り届け、

仕事に出るにはまだ早い、幼い子供達に御土産を配ってから、

酒場での仕事を手に入れたメンバーが抜けた穴を修復する為、

教会の屋根の雪下ろしを提案し、

手伝いながら、雪下ろし作業の手順の確認を行った。


の、だが・・・

それは取越苦労であったらしく、子供等は既に仕事を覚えていた為、

抜けた穴は、問題無く埋まっていた。


ファーシルとシンセロは、迷う事無く、

リュックの中身を棚に置き、リュックを畳んでポケットに入れ、

午後からの雪下ろしの仕事に出掛ける子供達をそのまま見送った後に、

孤児院を管理運営するシスターが仕事している、礼拝堂へと向かう。


久し振りに入った礼拝堂は、しっかり掃除はされていても、

質素で古い事には変わりが無い。

正面の扉から祭壇に向かう毛氈は擦り切れ、床が覗き、

その下の床も、所々、歩くと軋む大きな音を上げていた。

修復が必要なレベルである。


『相変わらずの寂びれっぷりだな!

隙間風で体冷やして、体調崩したりしてないか?』と

ファーシルがシスター達に話し掛けると、

黒い修道服を着た若いシスターは、明るい表情を見せ、

『おかえりなさい』と、微笑を浮かべる。


もう一人の灰色の修道服に身を包んだ年老いたシスターの方は、

『あぁ~!皆、それなりに息災だよ!それにしてもアンタって娘は、

素直に普通に体調を伺う事が出来ないのかい?

「相変わらずの寂びれっぷり」ってのは、余計だよ!』と、

何か言いた気な渋い顔をして、返事をした。


若いシスターが、

『マザー・ソンリッサも、素直じゃないですね』と笑う中、

『で、いったい何の用事だい?

シンセロと違って、お前は神を信じちゃいないだろ?

礼拝堂に顔を出す何てよっぽどの事なんだろ?』と、

ファーシルを睨む。


ファーシルは溜息を吐きながら、

ポケットからお触れの書かれた羊皮紙を出して見せ、

『四季を司る塔の事、冬の女王と、春の女王の事が知りたい。

伝承でも何でも良いから、教えて欲しい』と言い。


『子供等が期待してるんで、

今回は僕も、最初から協力して頑張ろうと思っています。

マザー、僕からも御願します。』と、シンセロも話に加わった。


マザー・ソンリッサが、

眉間にしわを寄せ、大きく態とらしく溜息を吐く。


そして、大きく息を吸って、

『季節を司る女王様の情報?「エルフ」だって事しか知らないよ!

見た目が10歳なら100年は生きてるだろうね……。

相手は人生経験豊富な大人の女性だ!年寄り扱いしたら殺されるし、

下手な御世辞は逆効果だ!

ちゃんと相手を見て、裏表の無い会話を心掛けな!

後、塔のある北のエルフの森は、見た目、大きな欝蒼とした森だけど、

森の中は高低差のある山と谷と崖になってるよ!

死霊系は勿論、魔物と獣と、合いの子の魔獣も出るし、

逃げるにも戦うにも、足もとに気を付けるんだよ』と、一息に喋り、

祭壇の机の引き出しから『餞別だ!持って行きな!』と、

小瓶に入った聖水2本と、革の鞘に収まった銀製のナイフ2本、

金属の光沢が煌くゴールデンパイライトの小さな塊を2個取り出し、

ファーシルとシンセロに手渡して、

『あぁ~忙しい忙しい!そろそろ、昼飯の用意をしなくちゃね』と、

調理場の方に歩き去って行った。


礼拝堂に残されたシスターと、ファーシルとシンセロは、

マザー・ソンリッサの素直じゃない性格に、それぞれ笑いを漏らし、

シンセロが、

『ごめん、マザーに「ありがとう」って伝えて置いて』と言い残し、

それぞれ、パイライトの小さな原石をポケットに入れて、

2人で、教会を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ