016
国からの褒美。つい、最近まで続いていた食糧支援に加え、
隣国からの寄付金と、ホンブレの家からの寄付と一時的な労働力、
バンピーロの家からの多種多様な支援の御蔭で、
ファーシルとシンセロ住処である孤児院と教会。
その屋根、床、壁の補修作業が済み。
子供等と、教会の菜園に種を撒き、苗を植え、
茸や山菜をエルフの森で収穫しては、春を皆で喜んで、
雨漏りに苦労し、寒さに耐え、空腹に苛まれずに済む。
普通の生活が送れる様になった今日この頃……。
春が遅く着た為に、気付く者は少なかったのだが、
冷静な判断ができる者が、
「そろそろ、本来なら、夏が来ている時期ではないか?」と気付き、
季節の廻りの遅延が起きている事に気付いた事から、
調査の為に・・・
4カ国ある四季を司る塔を有する国の内の1つ、北の国の王様が、
率先して真相究明に乗り出した。
前回、季節の滞りを回復させたファーシルとシンセロと、
その時、同行していたバンピーロとホンブレが、
四季を司る4つの国の国境の間に作られた中立なる国境の町に、
呼び出され、拒否したファーシルとシンセロは、半ば強引に、
バンピーロとホンブレに連れて行かれる。
その後、4カ国ある四季を司る塔を有する国の王様が集う会議で、
呼び付けられた理由を聞かされたファーシルは、
『あぁ~それなら、調べんでも分るよ、どこぞの女王様が、
時間を忘れて何かしらに没頭しているからだろ?』と薄く笑い。
『じゃ、そう言う事で!バイトがあるので帰ります!』と、
弟のシンセロを連れてその場を離れようとしたのだが、
『『褒美をやるから、その滞りを改善してきたまえ!』』と王様達。
『他力本願だなぁ~…』とファーシルが呟くと、
シンセロが溜息を吐き、こっそりと、
『ねぇ~さん……。地位のある人間ってね、
金にモノを言わせて人を働かせるのが仕事なんですよ』と言って、
ファーシルの背中をポンっと軽く叩いた。
ファーシルは、
「仕方ないなぁ~」と言わんばかりに、大きく溜息を吐いてから、
『趣味で、仕事を蔑にしない様にする事を阻止する為に、
季節が滞らない様に、
日程を管理する第三者を配置する事をオススメする!
私とシンセロでは、そんな人材を集められんので、
退散させて貰いますねぇ~』と、言い放ち、
引き受けると信じて疑わなかった王様達とその家来達を残し、
シンセロを連れて、堂々と会議の場を退出する。
その後は、帰路を重点的に捜索し、
連れ戻す算段を立てるであろう役人の考えを逆手に取り。
ファーシルとシンセロは、猫耳と尻尾を付けて、
中立都市を観光し、土産物屋で買い物してから帰った。
その数日後……
何時もの様にファーシルとシンセロがバイト先に到着すると、
店の前に、自国の王族の馬車と、
隣国の王族の馬車が一台づつ停車していた。
『嫌な予感しかしないな』
『何時も外れる「ねぇ~さんの予感」が、
珍しく、的中しそうですね、雨が降るかもしれませんね』
ファーシルとシンセロは、顔を見合せ、
『違いない』『でしょ?』と笑い合い、意を決して店内に入る。
店に入ると、萎びた酒場に身分が高そうな美少女とバンピーロ、
自国と隣国の武装した兵士が待ち構えていて、
ファーシルとシンセロを確認すると、バンピーロが歩み寄って来て、
書状を開いてファーシルとシンセロに見せる。
ファーシルが書状を指し『マジで?』と訊ねると、
『はい!勿論です。』と、
バンピーロがファーシルの手を取り『逃がしませんよ』と微笑む。
『御2人は、4カ国協議の結果、大変名誉な事に、
四季を司る女王の塔の番人に選ばれました。
因みに、ファーシルは、この国の北にある四季を司る塔。
シンセロは、東にある四季を司る塔が担当です。』との事で、
ファーシルがバンピーロに連れられ、自国の塔に、
シンセロが美少女の案内で、隣国の塔に行く事が既に決定していた。
拒否権は無いらしい。
ファーシルとシンセロは、それぞれに書状を手渡され、
『おいおい、私等は孤児だぞ?
当たり前の様に、文字が読めると思って書状を渡すなよな!』と、
言いながらも、それぞれで、それぞれ用に書かれた書状を読む。
『ねぇ~さん、孤児院と教会が、人質物質になってますよ!』
『その設定考えた奴は、最低だねぇ~!うぅ~わ、最悪!
休日無しの女王様の世話係だって!
それに、私等が会えるのは、年に1回だって!酷くない?』
『酷いな!僕等、物心付く前からずっと一緒にいた姉弟ですよ?
引き裂くなんて、鬼か悪魔の所業ですよね』と、
姉弟が話していると、
『はい、はい!鬼種なのは、私だけですけど、
言う事は聞いて下さいね。それを実行する出発時刻は今です。』
そう言って、バンピーロがファーシルの手を引き、
美少女がシンセロの腕を取った。
人質を取られ、仕方無しに、
ファーシルとシンセロがその仕事を受けて、続けていると、
何時しか、髪にあった白い模様が消え、
髪の色素が少しだけ抜けたかの様に、亜麻色一色に変化し、
「年に一度」と制定された四季の女王に関する報告会の頃には、
瞳の色も薄く、空色に変化していた。
四季を司る4つの国の国境の間に作られた中立なる国境の町で、
5ヶ月後・・・
久しぶりに再会した姉弟は、互いの変化に笑い合い。
全ての種族の王と王候補が集う報告の場に立つ。
2人の姿を見た会場は、どよめきに包まれていた。
そして、ファーシルとシンセロは、自分達に少し似た顔立ちの人間。
東の国の国王と、その時、初めて、ちゃんと顔を合わす。
髪も眼も、今の2人と殆ど同じ色の王様は、
その中立なる国境の町での会議の後、自国の兵士達に命令し、
バンピーロとホンブレと一緒に、
北に帰る予定だったファーシルを自国に強制的に招待。
自国の四季を司る塔で働くシンセロと共に謁見の場に呼び出した。
謁見の場には、兵士、使用人、貴族達が集い。
何故だか、既に、御祝ムードの様相を呈している。
バンピーロとホンブレに護衛されたファーシルとシンセロを前にし、
東の国の国王が暗い表情で語り出す。
東の国の国王が、王様や王様候補になる前。
最初の妻だった女が「ペサディリャ」と「デセスペラシオン」。
「悪夢」と「絶望」と言う。
不吉な名前を自分達の子供等に名付ける事を許した話。
先人達が、御家騒動で死に絶え、
現在の東の国の国王以外の自分の身内達が、
現在の東の国の国王が、王候補から外れる事を恐れて、
その妻を「不貞を犯した罪」で離縁に持ち込み。、
妻の親族によって、子供等が森に捨てられてしまった事。
新しく迎えた妻が次々と死に、
現在の東の国の国王を愛した女が、呪いを掛けていた事が発覚して、
明るみになった悲しい現実。
現在の東の国の国王は今でも、最初の妻だった女と、
「ペサディリャ」と「デセスペラシオン」に懸賞金を掛け、
捜し続けている事。
ファーシルとシンセロの今の容姿から、
「ペサディリャ」と「デセスペラシオン」なのではないか?と思い、
此処に来て貰ったと言う事を長々と東の国の国王は語った。
そして、東の国の国王の側近らしきエルフの老人が、
『先程、春の女王プリマベーラが研究の為に所持していた。
2人の血液サンプルの鑑定結果によって、
2人が純血の人間であり、国王の実子である事が証明された!』と、
高らかに宣言すると、
「呪いを掛けられた国王の子供達の無事な帰還を祝福している」
と言う事を前面に押し出した茶番劇が繰り広げられ始めた。