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015

南の塔を出る時に、

何故か、バンピーロが掛けた暗示の解けてしまったファーシルは、

最初、『私一人でも、行って帰れる程度の道程だから』と、

バンピーロとホンブレの同行を拒否し、

『シンセロが彼等と一緒に行きたいのなら、

私の事は気にせずに、一人で連れて行って貰うと良い』と言って、

単独行動する事を選ぶ。


これは、バンピーロが、

好意を持って貰う為に使った暗示の反動なのだそうだ。


その事を知らずにフォローしようと思って、

自分まで、その反動に巻き込まれてしまったシンセロは、

『ねぇ~さん、孤児院に寄付して貰う為に接待する事も

僕は悪い事では無いと思いますよ』と、言い出し、

『孤児院の屋根、何か所も雨漏りしてるし、

そろそろ、いい加減に屋根を葺き替えないと、

子供等が雪下ろしに上るのも、危なくて仕方がないでしょ?』と、

バンピーロとホンブレから、孤児院への寄付の申し出を引き出し、

事無きを得た。


で、結局、

四季の女王全員と会う事になったファーシルとシンセロは、

最後に残った西の国にある四季を司る塔に滞在中の秋の女王、

「オトーニョ」に会いに行く為、

ホンブレの家のペットである黒妖犬が引く、

バンピーロが出資して購入した馬車に乗り、西の国へと向かう。


その道中、ファーシルに憑いている猫の心理的な部分に、

アプローチを始める事を考えついたバンピーロは、

孤児院への食糧支援と、孤児院の子供達への仕事の斡旋を餌に、

『行ってみたい場所に立ち寄りたいのだが……。』と、

度々、寄り道を提案し、

ファーシルに最初、暗示を掛けた時、訊き出した情報を元に、

ファーシルに対する餌付けを始めた。


そんな茶番を見守る事になったシンセロとホンブレは、

『食べ物に釣られるねぇ~さんを見守るのは不本意です。』

『そうか、でも、ちょっとだけ、許してやってくれ…

アイツ、80年近く生きてる癖に、恋愛童貞なんだ……。』

『え?年齢=彼女いない歴ってヤツですか?

あぁ~でも、年齢は、その3分の1くらいにしか見えませんよ?』

『アイツ、吸血鬼だからな、

俺の知る限り15年以上は、あのまんまの姿だぞ』

『………。所で、ホンブレさんって、何歳なんですか?』

『19』

『え?冗談ですよね?』

『ここで嘘を吐く理由があるなら、教えてくれ』

『ごめんなさい!ウェアウルフの一番偉い人って聞いてたから、

30、乃至は40くらいだと思ってました。』と言う話をしていた。


「何故、19歳でウェアウルフのトップなのか?」については、

ホンブレに話によると、

十数年前の御家騒動の結果、公爵の位の総入れ替えがあり。

公爵の位に付ける血統書付きの数が激減し、

人間以外の、どの種族も、純血種が絶滅危惧種状態で、

良血統の純血種をそれぞれのトップに据えて行く事になった結果、

父亡き後、去年18歳で、

ウェアウルフの一番上の位になるしかなかったらしい。


因みに、吸血鬼的には、80歳近くの年齢でも、若輩者。

生殖能力が低く、

繁殖意欲の薄い吸血鬼と言う種族であるバンピーロも、

十年程前・・・

ホンブレの所と似た事情で、吸血鬼のトップになったらしい。


そうこう話し、小さな港町を梯子し、観光名所を何か所か巡り、

ファーシルとバンピーロの関係が穏やかなモノになった頃。

西の国にある四季を司る塔に辿り着く。


その道中に分かった事は、西の国も、異常気象で作物が育たず。

食糧不足で物価が上がっている事。


事態の深刻さを実感したファーシルとシンセロは、

バンピーロとホンブレに見送られながら、決意を新たにし、

塔の周囲に、野良猫が徘徊していて、

物理的な理由で不気味に羽毛が舞う4つ目の四季を司る塔へと上る。


上りながら楽しめるのは、窓辺の日向でお昼寝をする猫達の姿。

足下に羽毛が漂うのが、気になる所ではあっても、

一見、長閑な螺旋階段だった。


で、その先の開け放たれた扉の中は、

ガタガタに積み上げられた本の数々で構成された柱が、

不規則に立ち並び、崩れた本の山の残骸が、床に幾重にも重なり合う。

とっても密林チックな汚部屋でした。


金が無くて、本を気ままに読む事は出来ないけど、

本が好きで、密かに読書の時間を愛してやまないシンセロが、

『あぁ~死ねば良いのに、

本に対して、こんな酷い仕打ちをする生き物なんて、

階段から落ちて、身動きとれなくなって、助けを呼ぶ事もできずに、

ジワジワ死の恐怖に苛まれながら死ねば良いのに!』と、

妙に具体的な理想を呟き、吐き出す。


その言葉に含まれる殺気を感じ取ってか?

その周囲、部屋の内側に居た猫達が一斉に、奥に引っ込み。

外側に居た猫達は、急いで階段を下りて行く。


御怒りなシンセロに対し、ゾクリと悪寒を感じたファーシルも、

作り笑いを浮かべ、本の密林に踏み出し掛けた足を戻し、

『取敢えず、無事な本を救出する?したいよな?

下に戻って、塔に入れそうな人の応援を呼んで来て貰おうか……。

バンピーロやホンブレに相談すれば、東の国とかと相談して、

エルフな人とかを派遣して貰えるかもしれないし』と、

ファーシルが階段を下りる事を提案する。


その言葉を聞いたシンセロは、笑顔を取り戻し、

『ねぇ~さん!僕は一足先に、片付けを始めているから、

そっちの事は、宜しくお願いしますね!』と、

片付けモードに突入した。


東の国まで行かずとも、西の国の王様と交友のあったホンブレが、

塔に入れる人手を借りて来てくれ、塔の本格的な清掃作業が始まる。


それから、今回の四季の渋滞を起こした原因。

秋の女王オトーニョと、ファーシルとシンセロが出会ったのは、

数時間後の事となった。


オトーニョは、一番奥の部屋で、

折り重なる本の上に陣取り、宗教本に見入っていた。


読書に勤しみ、時間は兎も角、

日付の感覚まで狂いまくったオトーニョの本を取り上げたのは、

勿論、怒り狂ったシンセロだった。


なかなか来ない冬に向けて、猫に食われたっぽい

伝書鳩達の来て居た証しの残骸と、ベラーノからの手紙、

カレンダーを見せ、怒鳴りつけるシンセロ。


オトーニョは最初、何で本を取り上げられたのか分からない様子で、

理解した後は、面白いくらい動揺して、奇麗な顔を涙で濡らし、

シンセロ以外の人物全員に助けを求めた。


当たり前の事かも知れないが、誰も同情せず、

御怒りなシンセロが怖くて、助け船を出さなかった。

『今まで良く、上手に四季が廻ってたな……。』と呟きながら

ファーシルが、仕方無く、シンセロを宥め、

オトーニョに、季節を廻らさせる為の出発の準備をさせる。


伝書鳩が全滅していたからなのと、

シンセロの気持ちを落ち着かせる為に、ファーシルは、

ベラーノへ連絡をシンセロに託し、シンセロをホンブレに託し、

一足先に、シンセロに手紙を持たせ、

気分転換を兼ねて、シンセロには走って貰い、

ホンブレに追走して貰う事にした。


それから更に数時間後、

オトーニョに、塔の清掃をさせつつ待っていた、

冬の女王インビエルノからの手紙。


ファーシルは鳩が届けてくれたそれを確認すると、

西の国の人に、残りの清掃作業を任せ、

オトーニョを連れて、南の塔へと向かって出発した。


こうして、季節の廻りは、少しだけ回復し

それぞれ4つの塔を管理する。それぞれ4カ国の王同士の謁見が、

4つの国が隣接する中立自治区で行われた。


そして、ファーシルが思い付いた提案。

『オトーニョには使用人を付けるべきだと思うぞ』と言う。

素朴な意見が通らぬまま、不安定になった四季が一つ動く。


ファーシルとシンセロは褒美を貰って孤児院に戻り。

バンピーロは、『仕事の管轄地域だから』と、

ファーシルの居る場所に度々出没し、

ホンブレも、それに付き合う様にして、遊びに来るようになった。

そんな、北の国の春の日が、暫くは順調に続いていた。

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