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014

塔の下に取り残されたバンピーロとホンブレは、

馬車から出て、馬車の屋根の上に上り。

雲一つ無い。星降る様な綺麗な夜空を見上げる。


何となく暇に感じたホンブレが、

『日光で命を削られるのに、何故、

ファーシルとシンセロに、同行しようと思ったんだ?』と、

気になっていた事を口にした。


バンピーロは深呼吸し、

『ファーシルが、少しだけ、

ペサディリャに似ている様な気がしたから』と、悲しげに笑う。


『あぁ~…言ってたな、それ……。』

ホンブレは、此処から暫くの間、

バンピーロから何度も何度も、繰り返し繰り返し、

幼少の頃から聞かされ続けてきた話をまた、聞く事になる。


それは、公爵の地位に就く前のバンピーロが出会った。

ペサディリャ「悪夢」と言う名前で呼ばれていた幼女との話し。

縦1本に閉じる瞳孔。猫眼を持った幼女とバンピーロだけの思い出。


きっと、物凄く美化されているであろう。

バンピーロの記憶の中にある物語を今夜も聞かされ、

ホンブレは苦笑いをするしかなかった。


バンピーロの方は、ホンブレに何時もの話を話しながら、

ペサディリャから、

最初で最後に貰った手紙の内容を思い出していた。

*******************************


ピーロにぃ~さま、わたしはちかぢか、

ははうえとおとうとのデセスペラシオンとともに、

くにをついほうというのにされるそうです。

もう、このほようじょで、おあいすることはないでしょう。

きょう、さいごおあいできてよかったです。

さようなら。いままで、ありがとうございました。


*******************************

難しい言葉を必死で使ったであろう読み難い文章。

拙い文字に涙して何度も読み返し、

『折角の手掛りを自分で駄目にしてたら、世話ないよ』と、

当時、まだ、それなりに綺麗な言葉使いをしていたホンブレに、

避けようの無い突っ込みを入れられ、また泣いてしまった日々。

自分の涙でインクが溶けて、

文字が滲んで、読めなくなってしまった手紙。

思い出すだけで、眼尻に涙が滲んで来た。


バンピーロは、子供の様に涙を拭ってから、深呼吸し、

『ホンブレの所為だぞ!ホンブレが…

「戻ってこないかもしれない」って言うから……。

ペサディリャは亜麻色一色の髪で、猫眼をしていたから

ファーシルとは違う娘だとは、思ってはいるのにも拘らず。

此処で手放したら、私はそのファーシルにも、

二度と会えなくなってしまう気がして、

手放せなくなってしまったんじゃないか!』と熱弁してくれる。


ホンブレはガッカリし、同行理由を訊いた事を後悔しながら、

『それ……。俺の所為か?ちょっと、違うくね?

そもそも、実際、戻って来なくて、迎えに行っただろ?

今だって、置いて行かれて、

捜しに来てでの、この結果じゃなかったか?』と、

呆れた様に、大きく溜息を吐いていた。


その頃ぐらいに、ファーシルとシンセロは、階段を上り切っていた。


そして、その南の塔の最上階に住んでいた夏の女王のベラーノと、

順当に出会ったのだが、

ベラーノは、インビエルノや、プリマベーラと同じ、

空色の瞳をしているのに、

頭は黒髪のドレットヘア、サーフィン焼けの小麦色の肌をしていて、

想像の範疇を越え、意外性を醸し出していた。


ファーシルとシンセロは、

「この人、もしかして、ダークエルフ?

他の四季の女王と同じ、一般的なエルフではないのか?」と、

一瞬だけ、疑問を抱く。の、だが、しかし……。


出会って早々、『うっそぉ~!ヤダ!』と言って、

ベラーノに大喜びされたファーシルとシンセロは、

そのテンションの高さに追い付けず。


テンションの高さと、底抜けの明るさから、

「オカマなのか?」と言う疑念を新たに発生させつつも、

ダークエルフ説を完全否定した。


エルフの基準で若い部類に入るであろうベラーノは、

『他の女王以外の初めての御客様じゃないですか!』と言って、

ファーシルとシンセロを大歓迎して、強く抱き付き。

ファーシルとシンセロは、

自分達の話しに何一つ、耳を傾けて聞いて貰えない事に涙する。


その後、ファーシルとシンセロは、ベラーノに、

『今年、新調したの!』とか言うサーフボードの話を長々とされる。


話しが一段落すると、

ベラーノは、小麦色に日焼けした胸を揺らし、

『見て、見てぇ~』と、至近距離でシンセロの顔を覗き込み、

胸元の焼け目の境を見せ、

『アタシの事、もしかしてダークエルフとかって勘違いしてない?

アタシってば、浜辺でも良く勘違いされるけど、

普通のエルフで、元は色白なのよぉ~!凄いでしょ?』と、

どう返事をしたら正しいのか?分からない自慢をされた。


ベラーノは、驚き悲鳴を上げるシンセロの男心を弄んで、

御満悦の様子。

そこで、2人はやっと、プリマベーラからの手紙を渡す事ができた。


プリマベーラからの手紙を読んだベラーノは、

『何度も、伝書鳩飛ばしているのに、

秋の女王オトーニョから連絡が帰って来ないのよ』と、怒り出し、

『去年まで使ってたサーフボードをプレゼントしてあげるから、

ちょっとオトーニョの所に行って、急かして来て頂戴!』と、

命令してくる。


「いやぁ~…泳げないから、サーフボードは要らないかな……。」

何て思うファーシルの本音は内緒の方向で、

ファーシルは渡されたから、仕方なくサーフボードを受け取って、

『行って、話を聞いてもらえなかった時の為に、

秋の女王オトーニョへの手紙を書いてもらえませんか?』と、

シンセロがベラーノに懇願する。


ベラーノは、シンセロにお願いされたのが良かったらしく、

『書いてあげるからキスしてよね』と言って、

シンセロの返事を待たずに机に向かって、

物の数秒で、手紙らしきモノを簡単に書きあげて、

強引にシンセロの唇を奪い。


『こんな高価な物を貰う訳には……。』と、

遠慮して見せるファーシルからのサーフボードの返却を認めず。

ファーシルとシンセロを笑顔で送り出してくれた。


今まで行った四季を司る塔の中、一番疲れた用事を終わらせ、

塔から下りて行くと、塔を降りて行く途中から

バンピーロがホンブレを一方的に詰る声が聞こえてくる。


「何事か?」と、2人が塔を急いで降りて、扉の影から覗くと、

バンピーロにあっと言う間に速攻で発見され、

『今度こそは、私を置いて行くとか、させないぞ!』と、

まず、ファーシルが捕獲され、

一緒に大荷物を持っていたシンセロも、

『何故にサーフボード?』と、ホンブレに呟かれつつ、捕獲された。


ファーシルとシンセロが捕獲された理由は簡単。

また、何も言わずに何処かへ行ってしまうと思われたからだ。


『で、もう帰って良いんですよね?』と言うバンピーロ。

『は?次は、西の国の四季の塔に行く予定だけど?』と、

「何言ってんの?この人?」と言わんばかりの表情で、

返答を返すファーシル。


『そもそも、何でまた、あんた等、一緒に行動してんのさ?

ちょっと、当たり前みたいになってたけど、何か変じゃないか?

私等とあんた等、友達とかでも無いよね?』と、

バンピーロはファーシルに言われ、

その言葉に傷付いた様子で、半泣きになって黙り込む。


此処まで来てやっと、バンピーロがやってしまった。

「精神を操る」と言う「過ちの付け」が廻って来たのだった。


何時の間にか、バンピーロが掛けていた暗示が解け、

医師の指導の元掛けた暗示の方も、結果だけを残し、

暗示を掛けた相手に、少しばかりの嫌悪感を残す形で、

ファーシルの中に残留する。


そんな結果を知って、

苦笑する。苦笑してから、噴き出すように笑いだすシンセロ。

ホンブレはバンピーロとの長い付き合いから、

慈愛の満ちた微笑みをバンピーロに向けて浮かべ、

『何時か、お譲ちゃんに受け入れて貰える日が来ると良いな』と、

バンピーロの肩を優しくポンポンと叩いた。

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