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013

ファーシルが、バンピーロの腕の中で、

糸の切れた操り人形の様に、動く力を無くし、動かなくなる。


危害を加えられると判断するとスイッチが入る。

精神的な病「キー・ファクト」の症状が治まるまで、

近付くけないでいたシンセロが、『ねぇ~さん!』と叫び、

ファーシルに駆け寄って行く。


バンピーロが『殺してたりしてないですよぉ~』と言ったが、

シンセロは自分自身で、

ファーシルの息がある事を確認するまでは、どうしても信じられず、

確認後、安堵の溜息と共に崩れ落ちる様に、その場に座り込んだ。


ホンブレが、ファーシルに対して怯えの感情を持った狼達を静め、

ゆっくり、シンセロに歩み寄り、

『お前のねぇ~ちゃん、何時も、こんななのか?』と言って、

自分の弟達にする様に優しく頭を撫でる。


ファーシルの無事を喜んで、眼尻に涙を滲ませているシンセロが、

涙を拭いながら頷くと、ホンブレが溜息を吐き、

『茶虎猫のバーサーカーってのは、珍しいよな?』と、

バンピーロに向かって言う。


バンピーロは、『未完成だ、バーサーカーじゃない』と否定して、

『この娘…まだ、人間だ……。』と言った。


『何の話ですか?「バーサーカー」って…何ですか?

「まだ、人間だ」って……。どう言う事ですか?』

シンセロが、バンピーロとホンブレに訊ねると、

『お前等は、もしかしたら、獣人の血を引いているんじゃなくて、

生粋の人間で、

何かしらの事情で獣憑き状態にあるだけかもしれない、

つまり、人工的に作られた獣人って可能性が高いって事だな』と、

ホンブレは何かを考えている様な仕草をしながら、

シンセロに、そんな風な簡単な説明だけをした。


シンセロの表情が曇る。

『「何かしらの事情」って何ですか?

ホンブレさん達には、ソレを予想できてるんじゃないんですか?

違うかも知れなくても、ソレを教えて下さい。』と、

シンセロが怒りと憤りを込めて詰め寄ると、

『あくまでも、想像するに、だぞ!』と、

ホンブレが、シンセロに答えを与える事にする。


『お前のねぇ~ちゃんは、

どう考えても、死の恐怖を植え付けられた猫が憑依している。

「ベゼッセンハイト」又は、「ポゼッション」ってヤツだ。

そう言うのは、生粋の人間だけでしか、発生しない現象だから、

お前のねぇ~ちゃんは勿論、お前も、人間である可能性が高い。

OK?そこまでは、理解したな?って言うか、理解しろ!』

ここで、ホンブレは、

「そこはそれ以上説明できないぞ」と言わんばかりに、

言葉を一度、しっかり区切り、


『お前の血統の確認と、

「お前のねぇ~ちゃんと同じ状態かどうか?」を調べるのは、

宿場町にでも行ってから、後で暇な時にでも、

バンピーロに血をテイスティングして貰って、確認して貰えば、

確実で、後々、安心できると思う。』


ホンブレがシンセロと話している間に、バンピーロが、

黒妖犬が引く馬車を手招きで呼び寄せるのをホンブレは横目で見る。

ホンブレは「仕事が早いな……。」と、内心思いながら、

シンセロへの話を続けた。


『後、何故「人工的にと、言うか」についてだがな……。

お前のねぇ~ちゃんは、トランス状態に入った時に、

本能だけで動いて、憑依してる奴の意思が存在してないみたいだ。

だが、普通、宿主より強い志しが無いと、憑依は継続されない。

つまり此処で、第三者の介入あってこその憑依状態だって事が分る。

それ以外は無いから、了承してくれ』


ホンブレが、そう言った所で、馬車が来て、

バンピーロがファーシルを抱き上げ馬車に乗り込もうとする。

『まだ、話は終わって無いです!「何かしらの事情」って何ですか?

ねぇ~さんを何処へ連れて行く気ですか?』と、

シンセロが引き止めると、

『暑いからって、こんな場所で女の子を寝かせるのは駄目でしょ?

それに「何かしらの事情」については、想像の域を出ない。

それを念頭に置いて、馬車に乗ってからでも聞くと良い。』と、

バンピーロは言い。


ホンブレが、シンセロに馬車へ乗る様に促しながら、

『その「何かしらの事情」って言うのは、

お前等が生まれた当時が、各国それぞれで、内戦中だったって事。

その当時、大っぴらに殺す事が流行してて、

バーサーカーを投入する事がメジャーだったって事から、

お前等の状態の理由は、

バーサーカーの試作品ってのが、一番、可能性が高いと思う。

実験者にとっての実験中の危険が少なく、扱い易い、

野良猫を拾って使えば、コストパフォーマンスが下げられる。

俺は、それ以外ないと思うぞ』と言った。


不意にシンセロは冷静になり、

「ねぇ~さんにコレを話したら、信じるとか、それ以前に…

面倒臭がるんだろうなぁ~……。ややこしい事は、嫌いだから」と、

ファーシルには、話さない事を心に決める。


ファーシルが嫌いそうな其処からの仮説に対する詳しい解説は、

バンピーロからだった。

バーサーカー試作品を作る理由については、

20年近く前から15年以上前の間の5年間に、御家騒動があり、

四季を司る4カ国それぞれで、内戦をやらかしていたらしい。


そして、丁度、その頃、

中二病を患う魔術を使う錬金術師達の間で、

自作でバーサーカーを作るのが流行していて、

その自作のバーサーカーの品評会もあった。との事だった。


『年齢的に時期も合うし、まず、間違いないだろう』と、

バンピーロにも言われ、シンセロは黙り込んでしまった。


翌朝、ファーシルが目覚めると・・・

何時の間に怪我をしたのか?腕に包帯を巻いたシンセロと、

バンピーロが、互いに手を握り合い握手をしていた。

「シンセロって、

バンピーロの事を嫌いなんじゃなかったんだろうか?」

ファーシルが不思議に思い、

「これって、もしかしてまだ、夢の中なのか?」と、思っていると、

シンセロと目が合い、

『あ!ねぇ~さん、おはよう!』と、起きるように促される。


起き上がると、首筋に痛みが広がり、首には包帯が巻かれている。

何があってこうなったのか?ファーシルは理解できないまま、

「まぁ~いっか」と、その事を放置し、

「何故に、バンピーロとホンブレが此処に居るんだろう?」と、

思いながらも、そっちの理由も放置して、

ホンブレが作った料理を出されたので、断る理由も無くて食べ、

ファーシル的に訳の分からないままのまま、

南の四季を司る塔に行く事になった。


その日、泊まっていた平屋建ての一軒家を出ると、

そこは、昨日の宿場町だった。

昨日、ファーシルとシンセロが立ち寄った宿屋には、

「魔獣の群れが押し寄せた」とかで、役人たちが集まり。

現場検証なるものをしているらしい。


馬車の上で、人だかりから聞こえてくる噂話に耳を傾け、

日差しを避ける為に、

フードを目深に被ったローブ姿のバンピーロ隣で、

ファーシルは「物騒な世の中になったものだな」とだけ思った。


それから、馬車に揺られる事、小一時間。

南の四季を司る塔に程近い場所では、

雨乞いの儀式を行う現地の人達が集まっているのが見える。


その殺気立つ人々を眺め

『煙で燻されて、夏の女王のベラーノが死んでたら笑えないな』

『ねぇ~さん、そう言うフラグは立てないで下さい。

現実になったら困るでしょ……。』と、

仲良し姉弟は、素直な意見を出し合い。


姉弟を見守るバンピーロとホンブレは、

精神的に大丈夫そうな姉弟を眺め、緩く笑う。


事態が停滞した処で、

『漁港の町に寄り道して、昼食を食べ歩きして、観光して、

夕飯食べてから、出直して来る事にしよう』との、

バンピーロの意見に、皆が賛成し、遊びに行く事になった。


行商の為に来た事はあっても、

観光と言う事をした事の無かったファーシルとシンセロは、

ホンブレの観光案内に一喜一憂し、

バンピーロの甘やかしの散財に翻弄されて、遊び疲れ、

馬車の中で仮眠を取り、夕方、南の四季を司る塔の前へと戻った。


空が夕闇に染まっても、雨乞いの儀式は続いていた。

それでも、大人しく待って、人気が無くなるのを待って、

ファーシルとシンセロは、塔へと忍び込む事に成功した。

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