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012

ファーシルとシンセロが塔を降りると、

城に併設された宗教施設から、季節を司る塔へと続く、

階段の下の無駄に広い廊下では、

何故だか分らないが、立食パーティーの様なモノが行われている。


少し戸惑いながら、

その階段に座って、ダラダラしていた近衛隊長に、

『おっさん!これ何事?何かの行事?』と、

ファーシルが無遠慮に話し掛けると、

まず、何か言いたげな視線を返され、大きく溜息を吐かれた。


『金と権力とエロスに飢えた処女共の群れだ』

『『は?何それ?

何でまた、こんな場所にそんなのが出現するのさ?』』と、

ファーシルとシンセロの声がハモル。


近衛隊長が再び溜息を吐き、バンピーロとホンブレを指し、

『北の隣国の王位継承種族、それぞれの第一席が2人もいれば、

生きた亡者達が集まって当然だろ?』と、言う。


『『え?マジで?』』と、また、ファーシルとシンセロの声がハモル。

『あの人等って、そんなに偉い人達だったんだ……。』と、

「信じられない」と言いたげにシンセロが感想を零すと、

『そう言えば…バンピーロの家は、城だったな……。』と、

ファーシルも溜息を吐く様に言葉を漏らした。


シンセロは一つ咳払いをして、間を作り、

『だからって何故に、廊下で御茶会みたいな事を?』と、

近衛隊長に質問する。


帰ってきた言葉は、知っている者にとっては当然の事。

知らなかったファーシルとシンセロには、初耳な事だった。


種族の「第一席」と言う立場の人は「一夫多妻制」で、

一人目の妻は、同じ種の純血種を娶り、子供と作る義務はあるが、

2人目以降、自由に選んで良いそうだ。


つまり、金と権力の亡者達は、

競争率の一番高い、面倒な制約のある「本妻」を目指さなくても、

ハードルの低い、愛人や妾の立場を目指せば、普通に簡単に、

自由と権力を得られ、凄く贅沢な暮しができるらしい。


で、争いが始まり・・・

ホンブレが『腹が減った。』と言い出し、

『喧嘩するなら、

自慢の料理でも持って来て、女らしさで競い合えよ』と、

『時が立てば移ろう。

若さと美しさだけが武器とか、価値が無いよなぁ~』とか、

『御世辞言って貰いたいのか?

批判されたくなくて、配れない物を渡されても困る』等、

煽りに煽って今に至る。


『へぇ~…そうなんだぁ~……。

要約すると、綺麗なお姉~さん達を選り取り見取り、

匙加減で、どの娘も、好きなだけ食べ放題って事だよな?

豪勢だなぁ~…日中、日替わりランチ的に楽しんで、

夕食後の日替わりデザートは、

翌朝にも、そのまま楽しめますって感じかぁ~……。』

『ねぇ~さん、今、言った台詞って、

吸血鬼が、生き血を飲む方の設定での御話ですか?

それとも、おっさん的な発想のエロイ目線での御話ですか?』

『ん?まぁ~……。どっちでも有りかな?

寄って来られてる御二方は、楽しそうに笑ってるし、

それに……。』


ファーシルは、一瞬、他に何かを言い掛け、作り笑いをし、

『あ、そうだ!季節を廻らす為に先を急ぐから、

あの御二方に、「婚活ガンバ!」って、伝えといて』と言って、

近衛隊長に伝言を頼み、

シンセロの手を掴み、人混みを避けながら歩き出した。


シンセロは内心、

「ねぇ~さん、嫉妬ですか?それもちょっと、嫌なんですけど、

それで、ねぇ~さんを操ろうとするバンピーロの事、

嫌いになってくれるなら、僕的にOKかな?」

何て事を思っていた。


その後のファーシルとシンセロは、

一応、筋を通す為に、東の国の王様に会おうとして、

面会するのに時間が掛かりそうだったので、

『季節が廻り出した時には、

私達が指定する「北の国の孤児院」への寄付を宜しく』と、

秘書官の人に、自分達が所属する孤児院の場所と、

名称、マザーソンリッサの事を伝えて、城を出て行き。


ファーシルとシンセロが2人で旅するのに不都合になる。

バンピーロから提供されて着ている。高価な服を売り払い。

自分達的に身の丈に合った安い服に着替え、

その差額分から、交通費をゲット。


塩の買い付けに向かう為、南へと向かう。

色々な種族が混在する行商人の馬車に格安で乗せて貰い。

その馬車で、山を越えた。


バンピーロとホンブレを城に放置してから数時間後、

山を越えて辿り着いた先は、地面が罅割れ、草は枯れ果て、

水場であった筈の場所の木々も、萎び枯れる常夏地獄。


ファーシルとシンセロの目的地は、

草原であったであろう、丘の上に建った塔の上だったので、

塔が見える位置の存在する宿場町で、

行商人達と御別れしようと思っていたのだが…しかし……。


行商人達の方は、持ってきた荷を売りさばく事が上手にできず。

ファーシルとシンセロを売って、その金で、

当初の目的である塩の買い付けをする事にしていたらしい。


行商人の内緒話が、

本人達の興奮した気持ちを露わにした声の大きさの為に、

ファーシルとシンセロの耳にも普通に聞こえてくる。


その内緒話に寄ると、

今夜の夕食に、ファーシルとシンセロは、薬を盛られるらしい。

で、寝てしまった所で、荷馬車に乗せて来た道を戻り。

東の国の城下に非合法な状態で存在する売春宿に、

売り飛ばす手筈が、既に整えられているそうだ。


『道理で、簡単に同行を了承してくれた訳だ……。』

普通、商品を買い付けに行く時、

金を調達する為に持ってきた商品や、購入資金を守る為、

自分達の商隊に、盗賊や何かを潜り込ませない為、

部外者の同行を認めないモノなのだ。

ファーシルは自分の失態を残念に思い。

同行を許して貰い喜んだ自分の迂闊さに、大きく深く溜息を吐いた。


「「それにしても、この男達は、馬鹿なのであろうか?」」

奇しくもファーシルとシンセロは同じ事を考える。


2人はこっそり話し合い。

少し遠回りになるのだが、正規のルートを迂回して進む為に、

「初めての遠出で、疲れすぎて、食欲が無い」と言う理由の元、

夕食前に仮眠を取る名目で借りた部屋に入り、

行商人達を宿場町の宿屋に残し、必要になるであろう荷物を持って、

窓から出て、来た道を戻り、2人だけで歩いて進む事にした。


捕まって売り飛ばされるのは美味しくないので、

足早に歩いていると、

夕闇の中、獣らしき複数の足音が、遠くから近付いて来る。


2人は迷う事無く、無言で、

人としての敬意を欠いた行商人達の荷物から、

失敬してきた安物のパイライトと、自分達所有のチャート石で、

勝手に貰って来た松明に炎を灯す。


これは、想定内だが、厄介な出来事だった。

野犬や狼の群れとの遭遇は、美味しくない事この上無い。

小規模な群れなら、何とか成らない事も無いが、

両手に余る数の群れになってくると確実に、死に直結する。


獣達から獣臭に混じり血の臭いがしてくる。

『洒落になんねぇ~な』と言うファーシルの呟きに、

シンセロが苦笑いしながら頷き、

『狩りに失敗して、空腹状態でなく、

食べ足りなくての狩りである事を心から願いますよ、ホント』と、

松明を持ったまま構える。


『強制的に身売りさせられるのと、どっちがマシでしたかね?』

『え?シンセロ…オカマ掘られるの有りだっけ?』

『ねぇ~さん!笑えないですよ!

んな事、ある訳ないでしょ!冗談じゃない!』と、

2人が話していると、獣達の群れを割って狼男が姿を現した。


「「追手か?」」と、一瞬、思ったのも束の間、シンセロの横で、

ファーシルが、バンピーロに松明を持った手を掴まれ、

後ろから抱き締める様に捕獲されてしまう。


ファーシルが持っていた松明が地面に落ち、枯れた雑草を燃やす。

ファーシルは状況が飲み込めず。

血の臭いがする相手に後ろから抱き竦められパニックを起こし、

酷く暴れ、首筋からバンピーロに血を吸われ、

頭に上った血の気が吸い出されるまで、大人しくはならなかった。

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