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001

鬼人、獣人、妖精、精霊、魔物、そして、人間が入り混じり、

季節を司る女王様が、交代で塔に住んで、

女王様が担当する季節を国に齎している世界でのお話。


今日も引き続き、サラサラで氷の結晶が美しい粉雪が降っていた。

手を伸ばせば、掌にも必ず落ちて来る程に降る雪は、世界を白く染め、

毎年の一番寒い時期の様に、

毎朝、家に帰り着く事が出来なかった凍死者に雪化粧を施している。


今年の冬は何時もより凄く長く、そろそろ春になる筈の時期なのに、

まだ、雪下ろしが間に合わなかった家の屋根を押し潰し続け、

時々落ちてきては、人を串刺しにしてしまう氷柱が、

軒下に向って牙を剥き出している状態だった。


その結果であろう・・・

『もう、冬なんて必要無い!

冬の女王を塔から引き摺り出して殺してしまえ!』との暴言が、

国内の各地から、湧き出し始めていた。


そんな、北国の寒々しい今日の一日の始まりの時間。

除雪の雪で、去年より、

嵩高い雪山が出来上がってしまっている各地の町や村の広場に、

日の出と共に、城に仕える騎士団の人達がやって来て、

「王様からのお触れが書かれた羊皮紙」を案内板に貼り付ける。


日の出前、空が白みだしてから活動を始め、

日の入りと共に仕事を終える労働者達は、

『また、誰かが何かしら、やらかしやがったんだな…。』と思い。

貼り出されたのが「手配書」だと思い込んで、通り過ぎていたのだが、

今回は、そうではなかったらしい。


城に仕える騎士団員達は、大きな声を張り上げ、民衆を集めて、

羊皮紙に書かれた王様からのお触れを説明し、

宣伝しながら帰って行く。


一般市民は、自分達の生活に追われ、大きく興味を示さず。

「夜勤を終えて、寒さの為に家路を急ぐ者」は、聞き流し、

「露店や屋台を開く為に、忙しく準備をする者達」は、

忙し過ぎて聞く気もなかった。


そんな者達に紛れ、

仕事に向かう為に通り掛かった「少年少女、雪下ろし隊」に所属し、

小銭を稼ぎ暮らす。

雑種や混血児が入る孤児院の子供達が、

その、城に仕える騎士団の人達が語る宣伝文句を聞き付けて、

大きくテンションを上げる。


『もうイイカゲン、春になってほしいよな!』

『シンセロにぃ~ちゃん達なら、何とかできるかな?』

『あ、イケそう!イケそう!』

『じゃぁ~後で、ファーシルねぇ~ちゃんに教えてあげようよ!』

『だね、ゼッタイに食いつくわぁ~……。』

『で、シンセロにぃ~ちゃんは、今回も巻き込まれるワケだね!』

『『ゼッタイに巻き込まれるよね!』』と、

楽しそうに笑い合って走り出した。


子供等は、自分達が請け負った雪下ろしの仕事が一段落した後で、

自分達が「ファーシルねぇ~ちゃん・シンセロにぃ~ちゃん」と呼ぶ、

目的の人物がバイトしている萎びた酒場へと、立ち寄る事にする。


一番冷える朝の時間帯を越え、市場が賑わい出す時間帯。

子供等が『ファーシルねぇ~ちゃん』『シンセロにぃ~ちゃん』と、

名前を呼びながら、営業時間を終了した店の扉を開けた。


客の居ない酒場に入ると、一際目立つ、

ゆるふわウェーブの掛かった茶トラの様な色合いの斑な髪が揺れ、

早朝から働く人達をターゲットとした朝の営業を終えて、

白いシャツに黒いネクタイ、黒いベストに黒い腰巻エプロン、

黒いスラックスにラインマンブーツと言う「店の制服」を着たまま、

店内清掃をしていた「2人の似た顔立ちの男女」が、

驚いた様子で振り返る。


『おぉ~、いらっしゃい!最近は如何?儲かってる?』と、

髪の長い姉の方、

ファーシルが、子供達の身長に合わせて屈んで話し掛けると、

『お金だけみれば、去年よりも、もうかってるよ!』と言って

子供等は喋りながらファーシルに纏わり付き、

『フケイキだから、そのお金だけじゃ足りなくて、

食べ物が思うように買って帰れないんだけどね……。』と笑い、

子供等は、自分達の収入をファーシルとシンセロに見せて、

ワザとらしく溜息を吐いて見せる。


最近、捨てられる子供が増え、

孤児院の仲間が増えてしまい、働き手は、飽和状態になっていた。

食い扶持の確保の方は、

不景気と食糧不足で、本当に難しくなってしまっている。


色々な情報が行き来する酒場で働くファーシルとシンセロの2人は、

そんな現実を知り、理解していたので、

「最近の物価の高騰を考えると、ちょっと、この収入では、

少な過ぎる」と感じ、視線を合わせ頷き合う。


そこでファーシルは『ちょっと料理長に相談してくるわ』と、

シンセロの肩を軽く叩いてから、その場を離れて行き。

ファーシルより2歳分、子供に近いシンセロは、

『子供だからと、足元を見られていませんか?危ない仕事なんです。

大人の足元を見て、取れそうな所からは貰っとかなきゃ駄目ですよ!

交渉が難しかったら、何時でも相談して下さいね』と、

年長の子に囁いてから、シンセロも行動に移る事にした。


シンセロは店主に対し、申し訳なさそうな雰囲気を醸し出し、

『残り物だけで作るから、この子等に何か食べさせても良いですか?

その代りに、この子等が店の屋根の雪下ろしをしますから』と言い。


子供達の衣服に残った雪を振い落す振りをして、

子供等の痩せ細った体のラインを見せながら、

『手が足りない所があれば、試しに子供等に手伝わせてみて、

使えそうだったら、雇ってやってくれませんか?』と、交渉をする。


シンセロと店主の交渉、

店主の見えない所で行われたファーシルと料理長との交渉は良好。


無言の連携をして、権利を手に入れたシンセロとファーシルの2人は、

子供等の中から、手先が器用な子供等を選抜して、

ランチタイム用の仕込みを手伝わせ、

残りの子等に、店内と店外の清掃と、雪下ろしの仕事を頼んで、

それぞれ個々の子供等の実力を大人達に見せ付け、手応えを感じ取る。


それから子供等に、ちょっとばかり早過ぎる昼食を与え、

食事前の神様への祈りと、食べる行儀の良さをアピールし、

自分達が所属する孤児院に対する良い印象を植え付け、

子供等の新たなる仕事先と、

孤児院に持って帰る御土産までGetし、子供等に渡した。


子供達は、それを喜び、

ファーシルとシンセロの雇い主であった店主と、料理長も、

今まで雇っていたファーシルとシンセロより安く雇え、

それなりに使える複数の働き手を手に入れた事に満足気だった。


子供達が全員、早い昼食を食べ終え、

ファーシルとシンセロが、ベストとエプロンを返却し、

今日までの給金を貰い。


スラックスからカーゴパンツに穿き替え、手荷物を纏め、

麻のリュックに詰めてから、パーカーを着込み、

ストールを巻いて、帰宅の準備ができた頃には、

昼から酒場で働くメンバーがやってきて、子供等と入れ替わりに、

ファーシルとシンセロが仕事を辞める事を知る。


引き抜きで入って来て、

先に居た者達より、給料を多く貰っていたファーシルとシンセロに、

面倒な仕事を押し付けて来てくれていた者達は、

今までサボッて来た分がバレルからであろう。

慌てふためき、ファーシルとシンセロを引き留めに掛かってくれる。


ファーシルは、それを見て嬉しそうに微笑み、

『店主と料理長が、子供等の実力は確認済みです。

先輩方が、子供等に自分達がやるべき仕事をさせたりしなければ、

問題は無い筈ですよ?ね?』と、

今回、今まで押し付けられていた仕事の事を店主に話し、

スッキリした気持ちで、先輩方に釘を刺した。


先輩達が、数年振りの面倒な仕事に青褪めながら取り組む中、

ランチタイムから、酒場で働く事になった子供等を店に残して、

ファーシルとシンセロは、選ばれなかった子供達を孤児院へと送る。


そんな帰りの道、

除雪した雪で生まれた嵩高い雪山の横を通り過ぎた時の事。


『そうだ!ファーシルねぇ~ちゃん!

冬の女王と、春の女王をコウタイさせたらさぁ~、

王様からホウビがもらえるんだって!』と、

ファーシルが、問答無用で広場に連れ込まれ、

子供等に案内板の前に連れて行かれる。


連れて行かれた先の案内板には、

王様からのお触れが書かれた羊皮紙が、貼られていた。

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