仕事の依頼
灰色のセーラー服を着た少女が無愛想ながらにも席に着席したままだが、律儀に誠に会釈をする、しかし目は合わせようとはしなかった、それと同時にスーツを着た男性は席を立って胸ポケットの内側に入れてあった名刺ケースを取り出し誠に差し出す。
「わたくし、こういう者です、、、」
誠も席を立ち上がり軽く会釈し男性から受け取った名刺に目を通す。
【 (株) YYフーズ 代表取締役 加藤 浩一 】
[かとう こういち]
代表取締役って、、、うわぁ、この依頼主の仕事内容って、よだきぃーやつやろぉ、、、
「そして、紹介遅れましたが、ここに居る女の子は私の姪にあたります、加藤 唯菜と申します」
浩一の紹介してくれた
[かとう ゆいな]
彼女は誠はおろか、浩一やアヤに対しても目を合わせる事も無く、ボックス席に座ってわいるものの、何か別の事を考えていたり、するのだろうか、膝の上にオレンジジュースを一口も口を付けず置いていた為、灰色のスカートは黒く滲み濡れていた。
「あ、どぉーも、初めまして安達 誠って言います、、、」
誠も浩一と唯菜に軽く自己紹介をした所で、アヤが浩一と誠の堅苦しいやり取りに割って入る。
「まぁまぁ、せっかくボックス席をまこっちゃんの為に取っておいたんだから、こっちで飲みながら話そうよ!それでいいかな唯菜ちゃん??」
アヤが唯菜に問うと彼女は目を合わせずコクンと小さく頷いた。
誠は堅苦しいのも、お高くとまった奴らも嫌いだが、対人相手に目を合わせようともしない唯菜に対して少々イライラしていた。
何なら一言、二言、言い出しそうな誠の勢いに気付いたアヤは、浩一と唯菜に対し対面し合う形でボックス席の奥に押しやり 、誠の膝をさすって耳打ちする。
「相手は高校生で、しかも女子よ、まこっちゃん苦手かもしれないけど、お店の為にも命賭けてよね!!」
アヤが言い終わる前には、さすられていた誠の膝はギュッとアヤにつねられていた。
「はい!!!ママ!!!まこっちゃん頑張ります!!!」
痛みで上手い言葉がでないが、少々頭を捻っても結局の所、誠には上手い言葉を出せる筈もない。
今、彼が出せるものといえばズボンのポケットに入っているジャリ銭とくしゃくしゃになったタバコ位だ。
「お嬢ちゃん、タバコ吸ってもいいかい?」
誠の顔は第三者から見ても相手にメンチを切っている様にしか見えず、渾身の作り笑顔も相手が恐怖を覚えトラウマにでもなりそうな表情だ。
唯菜に対し、誠なりの紳士的行動と、発言で聞いてみたが、依然として唯菜は目を合わせようとはしなかった。
「別に、、、吸ってもいいよ オジサン、、」
オジサンというワードにピクリと誠の鼻先と眉間に力がこもる、浩一も唯菜の発言に静止をさせる様な動きを見せたが、唯菜は続けた。
「つぅーか、吸う前からこのオジサンタバコ臭いし、、、」
浩一とアヤは誠に対する唯菜の発言に目を見開き驚いた、きっと二人は誠がこの席を立ち上がり今にでも暴れるのではないだろうかという不安からだった。
誠は二人の予想通り怒り爆発寸前で顔を真っ赤にして目は血走っていた。
ゆっくりと席を立ち上がる誠に対して、浩一とアヤも誠と同様の動きを見せるが意外にも誠は唯菜に対し怒鳴り散らしたり、叔父にあたる浩一に対しても乱暴する事無く、震えた声で唯菜に告げる。
「お嬢ちゃん、そげぇ言わんで下さいよ、ちょっと外出て1本吸っちから消臭スプレーでも吹いち来ますわ、自分今さっきまでパチンコ屋居ましたから色んな人のタバコん煙ようけ貰うちょんけん、ごめんなぁ」
そう告げると誠は1度トイレに赴き、トイレ用の消臭スプレーを片手に北浜の通りに姿を消していった。
誠が店を離れて2分も経たないうちに、商店街に悲痛な断末魔の叫び声が [ 絢 aya ]にまで鳴り響き、浩一とアヤは頭を抱え込んでいた。
なんや!!!あんクソガキ!!!ママのお願いや無かったら、ちくらす所やったわ!!!ほんま よだきいのぉ!!!
誠はくしゃくしゃになったタバコを吸いながら通りの客やら客引きのボーイに先ほどの店内で行えなかった所業を何度も繰り返す。
「あんまりやると、ひねが来るから今日はこのへんで終いや!!!」
そう言うと誠は自身の身体に先ほどトイレから持ち出したスプレーを豪快に吹き付け、それが終わると路上で大の字に伸びている男達に向って投げつけた。
「そいでん吹いちょけ!!!おまいどぉーもタバコ臭ええんじゃ!!!なぁッ!!!」
そう言い終えると誠は何事も無かったかの様に [ 絢 aya ]へ帰っていった。
カランカラン〜
「ただいまぁー」
スッキリし終えた誠とは裏腹にボックス席に座っている三人は下を向き先ほど誠が外で暴れた事を知らないフリをしたいのだけれど、あれだけ大きな騒ぎになって警察も外を巡回しているのだから少々呆れた様子で居た。
「どぉしたん??皆??お通夜ですかここわ??」
誠が上機嫌に冗談を言いながら、もといた奥の席に着席するとこの気まずい空気を打破するかの様に浩一が重い口を開く。
「お話ししたい事、というよりは、安達さんに仕事の依頼の相談なんですが、、、」
浩一は誠が外で大暴れしている事を知っている為慎重に本題の話しを始める。
「そーやった!!!仕事仕事!!! 加藤さん仕事っち何ね???」
浩一は黒鞄から茶封筒を取り出し、中に入ってある数枚の写真を誠に見せた。
その中には、恐らく唯菜の家族写真と思われる物もあったが、多くは赤い首輪を着けたミニチュアダックスフンドの写真だった。
んんん!!?? 犬の写真に唯菜と他は知らんしばかり、写っちょるなぁって、何やこれ!!!???
誠も写真を見ただけではいまいち話が飲み込めずにいた。
「つい先日、唯菜の両親が交通事故で亡くなりました、唯菜の両親は海外に出張に行く際に、、、」
浩一は唯菜の方を見ながら誠に説明を始める。
「そしてこの写真に写っているのは唯菜の愛犬のコロンという名前のミニチュアダックスフンドです」
「ふぅーん」
あまり興味が無いのか素っ気ない返事を返す誠。
「唯菜には両親が居ません、、、唯一共に過ごしていた愛犬のコロンも今は行方不明です、前金ではありますが、ここに50万円用意させて頂いております!どうか、唯菜の愛犬を探す力になって頂けないでしょうか!?」
誠は前金の50万というワードに目の色が変わり、だれていた猫背の姿勢もピンと真っ直ぐになった。
「唯菜さんの愛犬を探せばいいのですね!!!???」
こんな簡単な内容なら前金だけでも嬉しい誠はニコニコ先程は作る事すらままならない作り笑顔も完璧にこなしてみせる。
「そう言う事です、この件の成功報酬は前金とは別途で300万円払わせて頂きますが、期限は3ヵ月以内でお願い致します」
こうして誠は、アヤの仲介を経て謎の仕事の依頼を請け負う事になった。
方言で [ひね]というワードが出ましたが警察という意味です。
また[ちくらす]はブッ飛ばすやボコボコにするなどの意味合いで使われたりします。
お話しは始まったばかりなのでゆっくり見ていって下さい。
また、[よだきぃ]はだるいとか面倒臭いという意味です。