エピローグ
何も変わっていません。
彼女が彼女を殴り続けるのは。部屋の中で、小さな悲鳴と、大きな悲鳴がこだまするのは、何も変わりません。
誰が何をしても。
介入の余地など、私たちにはないのです。
だって、この情景は、過去のものなのですから。
彼女自身にだって、変えることはできません。もちろん、彼女にも。
だから、彼女の瞳に、希望の光はありません。
目に光を失ったまま、痛む四肢を引きずるように、彼女は夜の道を、一人で歩きます。
誰もいない道を、ただ一人で。
年端もいかない少女が、ただ前だけを見て歩いています。
ただぼんやりと、前だけを見て。
彼女は何も履いていません。裸足です。アスファルトと肌の触れ合う音。ひた、ひた。夜の寒気があたりを覆う、丑三つ時。
彼女には向かう先がありません。
どこに向かおうと、結局は同じなのだから。
だから彼女は、立ち入り禁止の看板を見て、吸い込まれるように林道に入っていったのです。
そこがどこに繋がっているのか、彼女は知りませんでした。
それでも、アスファルトから土の地面に、足元が悪くなることに何の躊躇も覚えずに。丈の長い草が足をこすっていくのも気にせずに。月の光も届かない、真っ暗な木々の間をためらいなく抜けて。
傾斜のついた道を上り続けて。
そして、少し広いところに出ました。
その向こう側には、町の美しい景色と、それを覆う美しい星空。
その下には、崖がありました。
その場所に、フェンスはありませんでした。
第二話に続く。




