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吉光里利の化け物殺し 第一話  作者: 由条仁史
第5章 生命拡張
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 私の予想通り、ジャックは苦戦した。


 私の体重とも合わせた、天地指定(マイグラビティ)天地分裂(アウトブレイク)(飛んでから、振り下ろす)もあまり効果はなかった。ダメージは大きかったとは思うが、そんなことは関係なかったのだと思う。

 一度に大きなダメージを与えればいいのかと思っていたのだが、そういうわけでもなかったのだ。うーん。弱点がいまいちわからない。化け物に弱点とかそういうことがあるとは思えないが。でもなにかしらそういうものがあるものじゃないか? 私はゲームとかするほうじゃないけれど。でも色が違うことが、化け物の特性が違うことに関係しているのならば、そういうことがある気がする。ゲームなら属性とかそういうのがあって、赤色は火属性とか、そういう風なことがあるのか?


 じゃあ、水をかければいいのか?


 ……なんか違う気もするけど。


「ちっ、くそっ! リリ! もう一度だ」


「う、うん!」


 でも今はそんな気休めもほしい。化け物の攻撃が、だんだん素早くなっている。

 ちなみに今はあの山の中腹広場だ。私がゲロを吐いたところだ。日本刀を振るう場所としてはとてもいいのだろう。


 にしてもこう何度も飛んでいると、さすがに慣れてくる。重力を変更される感覚というのにも慣れてきた。吐き気を感じなくなってきたから、もうそろそろ重症かもしれない。ひょっとしたら私、もう遊園地のジェットコースターで楽しめなくなってしまったんじゃないか?


 別に困ることはないけど。

 遊園地なんていかないし。


「おおおりゃああ天地分裂(アウトブレイク)ぅぅぅ!」


 ぐん、と重力のかかる感覚。そして空気抵抗が十二分にかかって、地面が近づき――化け物に刀を突き立てる。地面に着地するときは気を付けて、ちゃんと両足で着地するように気を付ける。足をくじいたりしたら大ごとだ。

 やっぱり一番大変なのはこの着地だよな。化け物が特に地上にとどまっているときは。地上付近で速さが最大になっていなくてはならないから、必然的に足に力がかかる。おかげで少しずつ鍛えられている。


「……っ、やったか!?」


 ぱらぱらと草のくずが舞っている。土煙も待っているようだ。私は目を開けられない。

 でもその言葉は倒していない時の言葉だろう。たいていやれてないぞ。


「ちっ、リリ、ちょっと退くぞ!」


 目を開けられていないものの、ジャックの言葉に気を配って自分の体を先に動かしておかないと、けがをする可能性がある。というか慣れてるな、私。ジャックの言葉に従って、自分の体を動かすのは。右手が引きずられる前に、自分から動かないといけない。私はジャックの言葉に従い、後ろに下がる。右手の先も同じように後ろに下がる。もちろん後ろ向きの重力がかかっている。


 目を開ける。


「まだ生きてる……」


「しぶといなクソっ」


 あの赤い化け物はまだ消えていない。前見たようにぱんとはじけ飛んで消えてくれていない。

 気が付けばだいぶ暗くなってきた。日ももうほとんど沈んでしまったのではなかろうか。星がちらちらと見えつつある。そしてこの化け物、なぜか知らないけど発光しているようにも見える。いや、発光ではないのか。化け物の形だけがはっきりと見えているものの、その周りは暗いままだ。


 不気味だ。


「もう一度だっ」


「待って!」


 私は右手を引く。ジャックはよろめく。重力を変更しかけていたため私もともによろめく。足元がふらつき、私たちは倒れた。二人の息があっていないとこういうことになるのか……。


「ってえ……なにするんだよ」


「とりあえず、今日のところは逃げたほうがいいんじゃないかな?」


「はあ? 誰かが襲われたら意味ないだろ!」


 そういう正義感で私は動いているわけではない。


「あの化け物は、たぶん、今までのように戦ってうまくいく相手じゃないって。一度体制を立て直して、ちゃんと考えてから臨んだほうがいいと思う」


「そんなことやったところで、意味はないだろ! 考えるより、行動するほうが先だろ。下手の考えなんとやらだぜ!」


 愚直にも一直線で行こうとするジャック。私はそんな様子にあきれ始めていた。


「だから、ちゃんと考えてやったほうがいいよ。天地分裂(アウトブレイク)もやりすぎだって。馬鹿の一つ覚えっていう考え方もあるよ」


 というか私が疲れた。毎度毎度飛ぶのも大変なのだ。二人分の重力を乗せるために私も飛ぶのは疲れるのだ。主に精神が。そして着地時には足首が。


「ちっ、どうしようもねえか……っ!」


 急に私を抱きしめて、浮遊するジャック。いきなりのことでびっくりした。彼の胸が顔に当たる。やっぱり筋肉質だな。その細身はちゃんと鍛えていたらしい。


「くそっ……チンタラしてるから!」


 空中で離してくれる。私たちがいたところに怪物がその爪を立てている。地面がえぐれている。恐怖。あの爪が私の体に入り込んでしまったらどうなるのだろうか。死ぬにしてもそういう死に方は嫌だった。自分の体をえぐられて死ぬだなんて。この日本でそういう非現実的なことはやめてほしい。

 空を飛んでいれば大丈夫か? と思ったがそういうわけではない。あの化け物には翼がある。まったく、移動手段に困難がない。罠にはめてもあの爪で破壊してしまうだろう。ううん。自分で言ってもなんだが、確かに考えたってしょうがない気もする。化け物との戦いに理屈は不要かもしれない。


 というか、無理じゃないか?

 こんなにダメージを与えても死なないなんて、もはや倒すことは無理なんじゃないか? 倒してもまた復活するというのだから……やるだけ無駄なんじゃないか?


「どうすりゃあ、どうすりゃあ……!」


 ジャックは頭をかく。私の言葉を少しは受けて、考えるようにはしているようだ。しかしやはり私と同じようにあまりいい結果にはなっていないようだ。


 そんなとき、化け物が翼を広げる。まずい。来る。化け物が私たちのほうを睨む。

 ぐおん、と化け物が飛び上がる。


「あ、危ない!」


 私はたまらず目をつむる。


 がん、という音がした。

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