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吉光里利の化け物殺し 第一話  作者: 由条仁史
第4章 サニーは晴れた日に
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 帰りがけ、私はいつものとおり下足棚から靴を取り出し、履く。

 さて、今日はどうやって帰ろうか。いい加減あの化け物がいる生活からは脱したいものだが。


 と、そんなことを思っていると、たとたとたと、足音が聞こえた。


「さーとりぃー!」


 私を呼ぶ声が聞こえた気がする。私は振り返る。


 目の前には茶髪で短髪の女子がいた。キラキラした目を私に向けて、少し笑っているかのようだ。走ってきたようで、息が上がっている。肩で息をしている。うちのクラスよりホームルームが遅かったのだろうか? というかこの人誰だ? どうして私の名前を知っている?


 特に誰にも教えていないはずなのに。

 だってほとんど誰とも話していないから。


 となると「ウチらちょっとあんたに用事あんだけど」とか「ショーシのってんじゃねえよテメエむかつくんだよ」とか、そういうことだろうか。女子同盟がどこかで出来上がっているのだろうか。バカらしいとしか思えないけれど。しかし喧嘩をどこかで売った覚えはないのだが。


 年は……よくわからない。制服の色は学年で変わるわけじゃないし。

 あ、シューズは学年で色が変わるんだった。黄色……ってことは2年生、同学年か。もちろん同学年だからといって名前を憶えているとかそういうことはない。クラスメイトの名前すら覚えていないのに。


 ……いや、少なくともクラスメイトではないのかもしれない。クラスにこういう女子はいなかったはずだ。茶色の髪――染髪だろうか――は、うちのクラスにはいなかったはずだ。

 となると、ほかのクラスか……まあ、他人だということに変わりはないけど。


「さとりだよね? ね? いやー、久しぶりだねー」


 久しぶり? というとどこかで会っているのだろうか? この彼女と私は実は知り合いだったりするのだろうか? 少なくとも私は覚えてないが。というか興味ないけど。他人に関して何か思い入れを感じたことはあまりない。

 どこかでおそらく会っているのだろう。


「あの……申し訳ないけど、どちら様?」


 できる限り失礼にならないように、それでいて同学年という年齢的な近しさを考慮した言動をする。


「あー、覚えてないかーやっぱりねー」


 やっぱり?

 どういうことだろう。


「何年ぶりかな……5年? 5年かな」


「5年前……ってことは、小学校で?」


「そう、そうだよさとり! いやー、本当に久しぶりだね!」


 どうやら小学生時代の友達だったらしい。小学生時代の友達、ねえ……覚えていない。誰一人。誰かとは何かした遊んでいたかと思うが、特定の誰かというのはあまりなかった気がする。あのときはその場が楽しければよかっただけだ。中学生になってそういうことにも興味をなくしていった。

 ……いや、その片鱗は小学生時代からあったのか。ただ周りの子に合わせてただけだ。


「……ごめん、小学校のとき会ってるとは思うんだけど、覚えてない」


「まあ無理ないかー。随分と前のことだし。私も今日まですっかり忘れてたしね。名前見てもまったくわかんなかったしねー」


 私は姿をみてもわからなかったけど。


「私だよ、紗那だよ。さーな」


「紗那?」


「そうそう。星宮(ほしのみや)紗那(さな)。覚えてなくても無理はないけどねー」


 彼女――紗那は靴箱から靴を取り出して履く。しかしうっすらとした記憶だ。いたような気もするし、いなかったような気もする。星宮という苗字――ああ、そういえばきれいな名前だとかで一時話題になってたっけ。なってなかったっけ。そういうはなしがあったような気もする。なかったような気もする。


「高校はどう? もう2年生だけど」


「どうって……どうもしないけど。楽しいかって言われれば、楽しいほうだと思うよ?」


「そうだねぇ……いろいろ大変だけどね。中学に比べて勉強しなきゃならない量も増えるし、部活もきつくなる。あ、さとりって何部?」


「何部でもないけど。あえて言えば帰宅部になるのかな」


 きついという意味では最近そうだし。


「そっかー」


「星宮さんは何部?」


「紗那でいいよ。そんなさん付けしなくったって」


 うっ。


 なんというか、なれなれしい。こういうタイプは困る。純粋に仲良くなろうとしているというか、仲良くなる確信があるというか。学期はじめにクラスメイトから話しかけられるのとはまたわけが違う。彼女たちは私の性格を知ることを第一にしている。純粋に仲良くなろうと思っているのかもしれないが、そうじゃない。まず自分とはどんな関係であるのか、そこを見極めようとしているのだ。


 でもこの星宮紗那という子は、そうではない。いわば幼馴染の立場として私に話しかけてくる。昔に何か縁があったのだ。こういうのは切りにくい。中学時代に大体切れたと思っていたが、こういう子もいたのか。


「文芸部、というより漫研かな」


「まんけん?」


 聞きなれない言葉に思わず聞き返す。


「漫画研究会。まあ言ってしまえば漫画を描く部活だね」


「……そんな部活があったんだ」


 興味ないけど。


「あはは。まあ(おおやけ)には言えないよね。漫研は文芸部の裏の顔。文芸部としての活動もふつうにやってるよ。一応文章も書いてるんだよ。去年の文化祭で、私も部誌にちょっとした小説書いたしね」


「へぇー……」


 やっぱり興味がなかった。

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